1 はじめに
令和元年度税制改正において、「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」の制度が見直しされました。国税庁は、これを受けて、8月15日に、この制度に関するQ&Aを改訂しました。具体的には、贈与者が死亡した場合の手続き、教育資金に課税関係が生じた場合、受贈者の所得要件などの内容が追加されています(国税庁HP)
これらについて、以下で簡単に説明します。
2 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の制度とは
まず、「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」の制度とは、平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間に、取扱金融機関との教育資金管理契約に基づいて、受贈者の直系尊属である祖父母・父母(贈与者)が30歳未満の子・孫(受贈者)名義の金融機関の口座等に教育資金を一括して拠出した際に、子・孫ごとに1,500万円までの金額に相当する部分の価額について、受贈者の贈与税が非課税となるものです。
この制度に関し、令和元年度税制改正において、次のような見直しが行われました。 (適用期限は令和3年3月31日まで)
〇受贈者の所得要件の追加
〇教育資金の範囲の見直し
〇贈与者が死亡した場合の残高に対する相続税課税
〇教育資金口座に係る契約の終了事由の見直し
以下では、新たに追加されたQ&Aについて、簡単に説明します。
3 教育資金管理契約の期間中に贈与者が死亡した場合の手続と教育資金に係る課税関係の概要(Q4-1)
場合を分けて説明します。
Ⅰ)平成31年4月1日前にその贈与者から取得した信託受益権又は金銭等について「教育資金の非課税」の特例の適用を受けているが、同日以後に取得した信託受益権又は金銭等について「教育資金の非課税」の特例の適用を受けたことがない場合
〇手続き
→「教育資金の非課税」の特例について、贈与者の死亡に伴う特段の手続きは必要なし。
〇課税関係
→「教育資金の非課税」の特例について、贈与者の死亡に伴う課税関係は生じない。
Ⅱ)平成31年4月1日以後にその贈与者から取得した信託受益権又は金銭等について、「教育資金の非課税」の特例の適用を受けたことがある場合
ⅰ)その信託受益権又は金銭等がその贈与者の死亡前3年以内に取得したものではない場合
〇手続き
→「教育資金の非課税」の特例について、贈与者の死亡に伴う特段の手続きは必要なし。
〇課税関係
→「教育資金の非課税」の特例について、贈与者の死亡に伴う課税関係は生じない。
ⅱ)その信託受益権又は金銭等がその贈与者の死亡前3年以内に取得したものである場合
〇手続き
→その贈与者に係る受贈者は、贈与者が死亡した事実を知った場合、速やかに、贈与者が死亡した旨を取扱金融機関の営業所等に届出なければなりません。
〇課税関係
→受贈者は、贈与者の死亡した日における管理残額を贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税に関する法令の規定が適用されます。
ただし、「受贈者が贈与者の死亡の日において23歳未満である場合」又は「受贈者が学校等に在学している場合若しくは教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合において、その旨を明らかにする書類を、上記の死亡した旨の届出と併せて提出した場合」には、管理残額(以下、4において説明します)を相続又は遺贈によって取得したものとみなされることはなく、「教育資金の非課税」の特例について贈与者の死亡に伴う課税関係は生じません。
4 管理残額の計算(Q4-3)
管理残額は、次のような算式で計算します。
(A―B)× C/D
A=贈与者が死亡した日における教育資金管理契約に係る非課税拠出額
B=贈与者が死亡した日における教育資金管理契約に係る教育資金支出額
C=死亡した贈与者から取得した信託受益権又は金銭等(その死亡前3年以内に取得をしたものに限ります)のうち「教育資金の非課税」の特例の適用を受け、贈与税の課税価格に算入しなかった金額に相当する部分の価額
D=贈与者が死亡した日における教育資金管理契約に係る非課税拠出額
5 受贈者の所得要件(Q2-4)
ⅰ)平成31年4月1日以後に信託受益権又は金銭等を取得した場合
→受贈者のその取得をした日の属する年の前年分の所得税に係る「合計所得金額」が1,000万円を超える場合には、その信託受益権又は金銭等について、「教育資金の非課税」の特例の適応を受けることはできません。
(追加で信託受益権又は金銭等を取得した場合についても、同様)
ⅱ)平成31年3月31日以前に信託受益権又は金銭等を取得した場合
→上記のような所得要件はなし
6 具体例(Q4-4)
《具体例》
Xさんは、令和元年7月1日に、祖父Yから1,000万円の金銭について書面による贈与を取得しました。この贈与については、教育資金非課税申告書を提出し、「教育資金の非課税」の特例の適用を受けています。
この度、祖父Yが亡くなり、亡くなった日における管理残額は500万円でした。
Xさんは、管理残額を祖父Yから遺贈により取得したものとみなされ、祖父の死亡に係る相続税の計算を行うことになります。
なお、Xさんは、祖父Yの死亡による相続又は遺贈により財産を取得していません。
また、Xさんは、祖父Yから毎年現金200万円の贈与を受けて、暦年課税による贈与税の申告をしていますが、祖父Yの相続開始前3年以内に祖父Yから贈与によって取得した財産の価額は、Xさんの相続税の課税価格の計算にあたり加算されるか。
→受贈者が贈与者(被相続人)から相続又は遺贈により管理残額以外の財産を取得しなかった場合には、相続開始前3年以内に被相続人から暦年課税に係る贈与によって取得した財産の相続税の課税価格への加算の規定(相続税法第19条)の適用はありません。
よって、上記ケースにおいて、Xさんは、祖父Yから相続又は遺贈により管理残額以外の財産を取得しなかったのですから、XさんがYさんから毎年贈与を受けていた現金200万円のうち、相続開始前3年以内の贈与により取得したものについて、相続税の課税価格に加算されることはありません。
ただし、死亡保険金等や死亡退職金等のように、相続税に関する法令により相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産を取得した場合には、「贈与者(被相続人)から相続又は遺贈により管理残額以外の財産を取得しなかった場合」には該当しません。
7 教育資金管理契約の終了(Q5-1)
教育資金管理契約は、次の①から⑤までに掲げる場合に応じ、それぞれ次に定める日のいずれか早い日に終了します。
①受贈者が30歳に達した場合(その受贈者が30歳に達した日において学校等に在学している場合又は教育訓練を受けている場合において、受贈者がこれらの場合に該当することについて取扱金融機関の営業所等に届け出たときを除きます)
→その受贈者が30歳に達した日
②受贈者(30歳以上の者に限ります。次の③において同様)がその年中のいずれかの日において学校等に在学した日又は教育訓練を受けた日があることを、取扱金融機関の営業所等に届け出なかった場合
→その年の12月31日
③受贈者が40歳に達した場合
→その受贈者が40歳に達した日
④教育資金管理契約に係る信託財産の価額がゼロとなった場合、教育資金管理契約に係る預金若しくは貯金の額がゼロとなった場合又は教育資金管理契約に基づき保管されている有価証券の価額がゼロとなった場合において受贈者と取扱金融機関との間でこれらの教育資金管理契約を終了させる合意があったとき
→その教育資金管理契約が合意に基づき終了する日
⑤受贈者が死亡した場合
→その受贈者が死亡した日
(提供:チェスターNEWS)