貸出動向: 地銀の貸出伸び率が一旦下げ止まり

貸出・マネタリー統計
(画像=PIXTA)

●貸出残高

10月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.19%と前月(同2.23%)から若干低下した(図表1)。(小数点第2位まで見た場合)伸び率の低下は2ヵ月連続となる。

業態別では、都銀等の伸び率が前年比2.05%(前月は2.14%)と2ヵ月連続で低下した(図表2)。M&Aに絡む資金需要などから伸び率の水準としては引き続き高めだが、一方で大口M&Aの影響で変動が大きくなっている。都銀等の伸び率の振れが銀行貸出全体に与える影響が近年は強まっている。

一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.31%(前月も2.31%)と前月から横ばいとなった(図表2)。一旦下げ止まった形だが、伸び率は約7年ぶりの低水準圏に留まっている。過熱が問題視されたアパートローンの他、中小企業向けや地公体向け貸出の低迷が、主な担い手となってきた地銀の貸出低迷に繋がっている可能性が高い(図表3)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●貸出金利

8月の新規貸出平均金利は、短期貸出(一年未満)が0.502%(前月は0.675%)と前月から低下する一方、長期貸出(1年以上)は0.792%(前月は0.768%)と上昇した。振れを均すために3カ月移動平均で見た場合(図表4)、6月以降は長・短期ともにやや持ち直している。

ただし、世界経済の下振れリスクや各国中銀による金融緩和へのシフトによって、国債利回り等の市場金利が低迷を続けているだけに、貸出金利へ波及するかどうかが引き続き注目される。

マネタリーベース: 紙幣発行高の伸びが7年ぶりの低水準に

10月2日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は3.0%と、前月(同2.8%)をやや上回った(図表5)。伸び率の上昇は2ヵ月ぶりとなる。内訳の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比3.2%と前月(同2.9%)からやや上昇したことが寄与した。

一方、日銀券(紙幣)発行高の伸びは前年比2.4%(前月は同2.7%)と5ヵ月連続で低下した。伸び率の水準は、2012年9月以来7年ぶりの低水準にあたる。タンス預金の増勢一服、キャッシュレス化の進展、経済活動の停滞などの影響が考えられる。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

9月末のマネタリーベース残高は520兆円で前月末比4.4兆円の増加となった。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても前月比1.9兆円増加している(図表6)。長期国債保有残高の増加ペースは前年比22兆円増(めどは80兆円増)と引き続き鈍化し、マネタリーベースの増勢鈍化要因になっているが、ETFの買入れが年6兆円増のペースで続けられていること、短期国債の残高減少が一服していることが下支え要因になっている(図表7)。

ただし、9月末に公表された10月の国債買入れ予定では、(金利の過度の低下を抑制するためとみられる)大幅な国債買入れ減額が示されているだけに、マネタリーベースへの影響が注目される(図表8)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

マネーストック: 投資信託の前年割れは解消せず

10月11日に発表された9月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.41%(前月は2.37%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.03%(前月は2.00%)とともに2ヵ月連続で上昇した(図表9)。

M3の内訳では、現金通貨(前月2.4%→当月2.2%)の伸び率が低下し、定期預金などの準通貨(前月▲1.9%→当月▲2.0%)もマイナス幅をやや拡大したものの、普通預金等の預金通貨(前月5.5%→当月5.6%)の伸び率が上昇し、CD(譲渡性預金:前月▲3.5%→当月▲3.1%)のマイナス幅が縮小したことで吸収された(図表10)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.81%(前月は1.76%)と2ヵ月ぶりに上昇した(図表9)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率がやや上昇したほか、残高が大きい金銭の信託(前月2.1%→当月2.4%)の伸び率が上昇し、広義流動性の伸び率上昇に寄与した(図表11)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方で、投資信託(元本ベース・前月▲1.4%→当月▲1.7%)や外債(前月▲1.8%→当月▲2.1%)の伸び率はマイナス幅を拡大している。投資信託のマイナス幅は年初以来縮小傾向にあったが、足元では一服している。

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
資金循環統計(19年4-6月期)~個人金融資産は、前年比2兆円減の1860兆円、流動性預金の割合は過去最高を更新
日銀短観(9月調査)~大企業製造業の景況感は3期連続の悪化、先行きは消費増税への懸念強い、設備投資計画も慎重化
低迷が続く長期金利の行方~今後の注目点と見通し
貸出・マネタリー統計(19年7月)~地銀貸出の伸び率が7年ぶりの低水準に
貸出・マネタリー統計(18年10月)~通貨供給量の伸びは約6年ぶりの低水準に