2019年10月、国内での消費税が8%から10%へと引き上げられた。増税にともなう軽減税率の導入とともに注目を集めているのが「キャッシュレス決済」によるポイント還元制度だ。

近年、決済手段に「キャッシュレス化」の波が押し寄せている。さまざまな企業からQRコードなどに代表される二次元バーコードを利用したモバイルキャッシュレス決済サービスがリリースされ、国内でも利用者は徐々に増えている。

ただし、日本における決済手段のキャッスレス比率は2割程度と、先進国の中では最低水準である。なぜ、日本ではキャッシュレスの普及が遅れたのか?今後どのような動きを見せるのだろうか?キャッシュレスが社会にもたらす変化について「NCB Lab.」代表の佐藤元則さんにインタビューを行い、その未来を予測してみたい。

初回のテーマはキャッシュレス決済の歴史。中国でキャッシュレス決済がここ数年で急速に普及した背景には、クレジットカードに端を発する、キャッシュレスの歴史が深く関わっていた。(取材、文・藤堂真衣 全5回)

佐藤元則(さとうもとのり)さん
NCB Lab.代表。1952年生まれ。1989年にカード・決済専門コンサルティング会社の「株式会社アイエスアイ」を設立。日本初の自由返済型クレジットカードや国際ブランドつきデビットカードなどを開発。1997年に日本カードビジネス協会(現NCB Lab.)代表に就任。キャッシュレス社会の普及とニューペイメントの発展に取り組み、NCB Lab.として年間600回以上のセミナーを開催している。著書に『金融破壊者たちの野望』(東洋経済新報社)などがある。https://www.ncblibrary.com

キャッシュレスの始まりは米国

キャッシュレス化の波を読む#1
(画像=lzf/shutterstock.com,ZUU online)

──まずは、キャッシュレス決済の歴史をおさらいさせてください。

いま、キャッシュレスといえば「PayPay」などのモバイル決済という印象があるかもしれませんが、最初の「キャッシュレス決済」はきっと多くの方がお持ちの「クレジットカード」を使ったものです。

1950年にダイナースクラブが発行したものがクレジットカードの始まりとされていますが、当時はクレジットカードではなく「T&E(トラベル・アンド・エンターテインメント)カード」と呼ばれるものでした。

──旅行や娯楽で使うもの、ということですか。

ダイナースクラブの創業者が友人と食事に行った際、財布を忘れてしまって支払いができなかったというエピソードから生まれたということです。現金を持っていなくても信用があるから食事ができる。支払いは翌月でOKという簡単なしくみのものでした。

クレジットカードの誕生はもう少し後で、ダイナースクラブの後をアメリカン・エクスプレスが追随し、さらにバンク・オブ・アメリカなどの銀行が参入した時です。

当時の銀行が担っていた機能は大きく分けて預金・融資・決済(為替による送金)の3つでした。このうちの融資の拡販をめざすなかで、「翌月に支払えない場合にローンを使える」という手段を開発したのです。

──カードの支払い時に残高が不足していても、ローンでまかなえるということですね。

T&Eカードは「翌月一回払い」のみ。クレジットカードは、銀行のローンを利用して少しずつ支払うという選択肢ができたというわけです。これが現代でいう「クレジットカード」の始まりだったといえるでしょう。

スマートフォンの登場で、モバイル決済も加速?

──クレジット文化の次に登場したのがモバイル決済です。モバイル決済誕生の時代背景はどのようなものだったのでしょうか?