要旨
- 近年のロシア経済は、資源依存からの脱却、国内産業の育成や投資の活性化といった従来からの構造的課題を十分に達成できないまま、少子高齢化の進展や欧米による経済制裁といった新たな課題が生じたことで、潜在成長率が低下し、実質GDP成長率が低迷している。欧米による経済制裁によって、海外資本流入の大幅な拡大が期待できない中で、プーチン大統領は国家事業による潜在成長率の底上げを目指しており、19年から24年にかけて、基幹インフラの更新・拡大に向けた総合計画、人口動態、デジタル経済など13分野における事業が実施される。これらの事業は、中期的には潜在成長率の底上げ、そして短期的には投資の拡大による景気の下支えとして期待される。
- ロシアの2019年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比0.9%増と、13四半期連続のプラス成長となったが、19年に入って2四半期連続で1%を下回った。需要項目別に見ると、内需は堅調であったが、外需が大きく成長率を押し下げた。内需は堅調であったが、19年初の付加価値税率及び年金支給開始年齢の引上げに伴う実質可処分所得の減少、景況感の悪化が民間消費の重石になった。総固定資本形成は、国家事業による投資の拡大が期待されたが、事業の進捗が遅れ、目立った動きは見られなかった。外需は、世界経済の減速が輸出に水を差した。
- 2020年のロシア経済は、20年は前年からの原油価格の振れ幅が19年ほど大きくないと予想されることから、原油価格の変動が経済に与える影響は相対的に小さくなるだろう。内需は、付加価値税率引上げの影響が一巡するほか、国家事業に関する公的部門の消費や投資の効果が顕在化していくと予想されるため、緩やかに拡大していくだろう。一方で、外需は世界経済の持ち直しによって輸出の減少が底打ちするものの、内需の拡大によって輸入が増加し、寄与度は引き続きマイナスとなるだろう。20年の実質GDP成長率は19年から加速するものの、1.6%と緩慢な成長となるだろう。