識者プロフィール

オーガスト・ウリベ
オーガスト・ウリベ AUGUST URIBE
サザビーズ・ニューヨーク副会長(印象派・近代美術部門長)
プリンストン大卒。1991年にサザビーズ入社。ラテンアメリカディレクター、ファインアート・西海岸担当マネージングディレクター、印象派・近代美術デイ・セール部門長などを歴任。2014年、フィリップスの副会長に就任したが、2017年に再びサザビーズに復帰、現職。経験豊富なオークショニアでもある。ほかに、ニューヨークメキシコ総領事館付属のメキシコ文化研究所諮問委員、スミソニアン協会アメリカンアート・アーカイブトラスティなども務める。

今回、高額オークション特集を取りまとめるにあたり、世界的なオークションハウスであるサザビーズに協力を依頼した。その結果、サザビーズジャパン代表の石坂氏に話を聞く機会を得られたのだが(同特集のチャプター2、チャプター3参照)、さらに、偶然来日中だった米国サザビーズ副会長で、印象派・近代美術部門長を務めるオーガスト・ウリベ氏に取材する機会まで得ることができた。ここではそのウリベ氏の話をお届けしたい。

オークション特集#5
(写真撮影=村越将浩)

美術品の制作以外にコレクションにも強みを持つサザビーズにとって「世界最高レベルのオークション」を提供することは極めて重要なミッションだ。サザビーズ副会長のオーガスト・ウリベ氏は、ニューヨーク本社の印象派・近代美術部門長を務める。「印象派・現代美術部門長」という肩書は、特にアートやオークションに馴染みが薄い一般人にとって、耳慣れない言葉だろう。

サザビーズでは、絵画や彫刻の他にも中国美術、宝飾時計など、実に70以上のカテゴリーを取り扱っており、オークション以外にもプライベートセール(相対取引)の機会も提供するほか、サザビーズ・ワインなどのリテールビジネスも運営している。

ウリベ氏の役割は、ニューヨークで5月と11月に開催される主要オークションに向け、ニューヨークやロンドン、東京といった世界各地のオフィスチームと連携しながら、コレクターからオークションに作品を出品してもらったり、オークションで競って落札してもらったりすることだ。地域ごとに担当は分かれているものの、多忙な毎日であることに変わりはない。ウリベ氏は、「この仕事の素晴らしい点は、毎日何が起こるか予想がつかないことです。非常にエキサイティングである半面、難しい仕事でもあります。どこかに良い作品があると聞けば、その瞬間に飛行機に飛び乗れる柔軟性が必須です」と、穏やかだがはっきりとした口調で語る。

「手元にデータがないので正確な数字を示すのは難しいですが、主要なオークションにはおよそ80カ国程度の方が参加されます。アジア圏のコレクターの存在感は年々増していますが、日本はほかのアジア諸国と比べ、美術品収集に関して非常に長い歴史を持っている強みがあります」(ウリベ氏)

アジア地域での仕事を満喫すると同時に、「国内作家の作品だけではなく、欧州印象派のコレクションにも関心がある」と、日本のアートコレクションに賞賛の意を示す。今回の来日時にも、「19世紀終盤から20世紀の初期にタイムスリップしたような体験」をしたという。