(本記事は、谷本真由美氏の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)
外国人にとって常識的なことを日本人は知らない
海外では常識的に知られていることでも、日本人が知らないということは多々あります。その例をいくつかあげてみましょう。
まずひとつめに、日本が海外ではどのように受け止められているか、本当はどのような評価なのか、実は多くの日本人は知らない──ということがあげられます。
多くの日本人が抱いている〝スゴイ日本〟のイメージはなく、すでに経済成長が終わり、世界で最も早く高齢化と少子化という問題に直面する大変厳しい状況に置かれた先進国である──、それが外国での日本に対する認識なのです。これは政策や金融の専門家などに限らず、世界では一般的に知られていることといっていいでしょう。
また日本人でも金融に興味がある人は意識していますが、日本国家は莫大な借金を背負っています。他の先進国はこういった借金を減らすために政府の支出をどんどん削っているにもかかわらず、日本はそんなことおかまいなし。オリンピックや豪華な公共施設に莫大な資金をつぎ込んでいる日本は、他の国の人の目には奇異に映っているのです。
ふたつめは、日本人は「欧米」という単語を使いたがり、アメリカと欧州をいっしょくたにして物事を考えがちですが、実際は土地も歴史も国の成り立ちも違えば、経済の仕組みや福祉の制度も大きく異なるということです。「欧州」といっても国によってお国柄は違いますから、一括りになどできません。日本以外の先進国では常識的なことですが、日本人は知らない人が大半です。
普段から国際的なニュースなどに目を通していればよくわかることなのですが、日本人の多くはそもそも国際的なニュースに興味を持たないので、そんなことにも気が付かないわけです。
欧州でポピュリストが支持を得ている理由
三つめは、欧州や北米で一般大衆の権利を守るポピュリストが支持を得ている理由です。例えば、2018年の後半にフランスで「黄色いベスト運動」が起こりました。フランスは大変な階級社会であり、社会の上流とそれ以下の人々の格差というものは日本では想像できないほどです。燃料費や物価の上昇により生活が大変苦しい庶民層が、政府や富裕層に対して異議を申し立てるべく起こったのがこの黄色いベスト運動でした。
日本人の大半はフランスでこのような大規模な抗議運動が起こったことに大変驚いたようです。日本の報道は大変偏っているゆえ、フランス国民の大多数は白人のフランス人で、毎日のようにおしゃれなマカロンやおいしいフランス料理に舌つづみを打ち、1ヵ月近くもバカンスに出かけ、熟年や高齢者でも恋愛を楽しんでいる……そんな夢のような生活を送っているイメージを持っている人が多いからでしょう。
フランスはG7のメンバーであり、欧州においては最も重要な国のひとつです。農業国であり強い軍事産業を持っている産業国でもあります。他の先進国の人々にとっては、フランスのこのような経済的な面のほうがむしろ常識的に知られていることです。
昨今、黄色いベスト運動のようなデモや反対運動は、欧州西側だけではなく北欧やハンガリーなどの中央諸国、アメリカでも頻発しています。その象徴のひとつとしてトランプ大統領の誕生があげられますが、そもそもなぜこのような動きが先進国で顕著になっているのか──それを正しく答えられる日本人がどれだけいることでしょう。
欧州や北米の人々であれば当たり前のように知っているフランスの階級格差や若年失業率の高さ、長いバカンスを楽しめるのは安定した雇用環境にある正社員の人々や富裕層のみであること、かなり前から移民問題で頭を悩ませていること……そのような事実など、日本ではほとんど知られていません。
どこの先進国でもグローバル化と緊縮財政で中間層の実質賃金はどんどん下がり、苦しい生活を余儀なくされている人が増加しています。階層の移動はとても難しく、そのような昨今の情勢から、子どもの生活レベルが親より低いという場合も少なくありません。
日本人がキラキラとしたイメージを持っているフランスやイタリア、北欧諸国でもそれは同じことです。本来、海外のニュースに目を通し、経済統計などをざっとでも見る習慣があるのであれば、そのような上辺だけのイメージに捉われず、きちんと真実を把握することができるのです。