(本記事は、谷本真由美氏の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)

世界の金持ちはアートを買っている

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(画像=steve estvanik/Shutterstock.com)

ここ最近、世界で価格の高騰が目立っているのがアートです。ルネサンス期や印象派の巨匠の作品だけではなく、現代アートの作品価格が異様に高騰しているのです。

現代アートに関しては、2017年6月から2018年6月にかけて89%の作品の売買はたった500人の芸術家の作品に集中していました。特にそのトップ3を占めるのが、ジャン=ミシェル・バスキア、ピーター・ドイグ、ルドルフ・スティンゲルです。ZOZOTOWNの前澤元社長が購入したことで日本でも知名度が上がった現代美術家バスキアの作品は、2000年から2017年の間に価格が1880%も高騰しています。

このように価格が高騰しているアートをいったい誰が買っているのかというと、その多くは中国やインド、湾岸諸国など新興国の富裕層です。彼らが熱心に収集するのは特に現代アートで、その価格は2000年以後に高騰した例が目立っています。

なぜ富裕層がこれほどまでに芸術作品を買い漁るかというと、それは芸術としての価値だけではなく、むしろ投資としての意味を見出しているからです。

ここで重要なポイントは、こういった芸術品は富裕層が資産を隠すために使用しているということです。絵画や彫刻は不動産や車などに比べて小さいにもかかわらず莫大な価値が付きます。小さいので移動も簡単ですし保管も容易です。絵であれば自宅の壁に飾っておくこともできます。子どもや家族への継承も物理的で簡単です。

また現金や金塊と異なり、世界各国にあるアートの保管庫である「フリーポート」とよばれる場所に保管を依頼することができますが、あくまで芸術作品なので運搬や保管に関する規制がゆるく、政府に知られることなく売買を成立させることだって可能です。

たとえばアメリカ連邦検事資産没収ユニットのチーフであるシャロン・コーヘン・レビン氏は、アートの世界では、売主も飼い主もともにプライベートということで、リスティングされていればどんな取引が行われたか外部ではわからないと述べています。

例をあげると、元銀行家のエドマール・チド・フェレイラ氏が資金洗浄のためにアメリカに持ち込んだバスキアの「ハンニバル」という絵画は、連邦政府により発見されたあと、ブラジルに返還されています。彼は自身の資産を1万2000点の美術品に替えたといわれています。

これはお金の出所をはっきりさせることのできない犯罪組織や富裕層が、現金を一度レストランや不動産に替えてきれいな資金に見せかけたうえで転売する方法とまったく同じです。一度形があるものに替えてしまえばその出所はバレませんから、転売してきれいなお金に替えることができるというわけです。

これは芸術作品でも同じで、プライベートな取引において現金で作品を購入し、その後それを転売することできれいな資金を手に入れることが可能です。しかも芸術品は不動産などとは異なり規制がほとんどない場合もありますから、価格の吊り上げや取引を非公開にするなどやりたい放題です。

富裕層はアートの価値を見出して作品を買い漁っているのではなく、あくまで投資として金塊や不動産のように扱っている。重要になるのは取引のしやすさや価格が上がるかどうかということなので、どうしても特定のアーティストに売買が集中するのです。

世界のニュースを日本人は何も知らない
谷本真由美
著述家。元国連専門機関職員。1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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