グローバル・マクロについて日々研究をする中で、我が国で報道される内容とグローバル社会との間で熱の入れ方に大きな相違があることが多い。無論、読者の趣向やニーズに合わせてそうなっているのだと推察するが、他方で、重要ないし注目を集めている国際会合が報道されない、または事後になってそのあらましが報告される程度で終わることが少なくない。先週、グローバル・マクロにインパクトを与えていると筆者が考える2つの会議が開催されたが、我が国では僅かに報道されたのみであった。そこで本稿はその2つの会議のポイントを述べることとしたい。
たとえば去る13日から14日までブラジルで開催された「第11回BRICSサミット」がそれである。ブラジルのセゴヴィア国家輸出振興庁長官が去る7日に中国国際輸入博覧会において中国からの投資を歓迎する旨公表してきた。また中国との貿易格差を問題として東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉においてインドが離脱した一方で、先月25日(デリー時間)にはブラジルがインド人に対するヴィザ取得を撤廃しているのだ。米欧からブラジルへの批判が強まりリスクが高まっている中だからこそ、「今だ」と言わんばかりにブラジル(B)にRICS諸国が接近していると推察できるのだ。
他方で我が国ではNHKがそのあらましを述べているものの注目すべき会議がケニアで開かれた。それがケニア政府とデンマーク政府、そして国際連合人口基金が共催した国際人口開発会議である。
2100年にむけて世界人口は増大すると一般に推計されている。しかし合計特殊出生率は徐々に下落してきているのだという。他方でアフリカでは依然として本人の意思とは無関係に早期の結婚・妊娠を強制されるケースが多いこともあり、そうした中で女性の出産する権利をどうするのかがこの会議での主要テーマとなっている。エチオピアやルワンダでは避妊といった啓蒙活動が奏功した結果、出生制限が成功してきたのだが、こうした措置に対してヴァチカンが反発し、この会議に代表団を送り込まなかったのである。
一般に経済発展をし、女性の社会進出が進めば進むほど、出生率が下がるのが先進国で起きている事実である。ロシアの経済学者であるガーシェンクロンが議論したように、新興国の場合、先進国での成功が移植されるためにモデルとなった先進国以上に経済成長が加速度的に進むのだが、それに伴い先進国以上に出生率が下がり得る。アフリカでケニアは既に相当な経済成長を経験してきた。エチオピアもまた大きな注目が集まっているのが事実である。そう考えると、現状の人口爆発についてその議論を安直に受け入れてよいのかは検討を加えるべきなのである。他方、中国で肺ペストが発生したと報道されているが、中国と同様にアフリカもパンデミックの発生源として有名なのであり、この意味でも人口爆発を文字通り受け入れることが妥当とは言い難いのだ。
グローバル・マクロを巡り、世界は動いている。それを今後も発信していく。是非注意して頂きたい。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。