求めていたから見出せた

ニュートンやアルキメデスのような重要な発見ではありませんが、私自身も類似の経験をすることが多くあります。

例えば、文章を書いていて、適切な表現や言葉が見つからないときがあります。そんなとき、たまたま見た本や新聞で、ぴったりの表現を見出すことがあります。あるいは、そこからの連想で、適切な表現を見出すことがあります。

本や新聞に出ていた表現は、「たまたま見つけた」ものです。それが私の前に現れたのは、偶然です。しかし、適当な表現を求めていたからこそ、本の中の一箇所に反応したのです。同じ文章を見ている人は他にも大勢いるのですが、彼らはただ流し読みしただけでしょう。逆に、私が見逃したことから重大な発見をした人もいるでしょう。

同じような経験は、他にもあります。例えば、抽象的な概念などを説明するには、具体的な例を出すのがよいのですが、適切な例が思いつかないことがあります。そんなとき、町を歩いていて目に入ったものから、「これだ」と思いつくことがあります。これも、例示を求めていたからこそ、見出せたのです。考えていたために周囲の状況を吸収する能力が高まっており、そのために、たまたまのきっかけを掴むことができたのです。

きっかけは偶然であって、コントロールできません。しかし、重要なのは、それを待ち構えていた姿勢です。それさえあれば、きっかけは、特定のものでなくて、他のものでもよいのです。きっかけ自体は、それほど重要ではないのです。

ルイ・パスツールは、「発見において運がどんな役割を果たすか」と聞かれて、「チャンスは心構えのある者を好む」と答えました。『科学と創造』の著者である米国のジャーナリスト、ホレス・ジャドソンは、偶然といわれるヴィルヘルム・レントゲンのX線発見、アレクサンダー・フレミングらによるペニシリンの発見などを分析して、「偶然は準備の整った実験室を好む」と結論しました。トルステン・ウィーゼル(1981年のノーベル医学・生理学賞受賞者)は、「準備からきた知性は機会をとらえるが、準備ができていないと見逃す」と述べています。

発想の条件は、「考え続けること」です。考えていないときに発見や発想が天から降ってくることは、ありえないのです。「考えていること」こそが、アイディアを導くのです。これは、実に簡単な答えで、拍子抜けするほど当たり前のことです。ですが、これこそが、「発想」のメカニズムに関する本質なのです。

ポイント 考え続けていれば、周囲の状況を吸収する能力が高まり、きっかけを掴むことができる。発想の条件は、考え続けること。

AI時代の「超」発想法
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(画像=webサイトより)

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授
1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。(『THE21オンライン』2019年10月07日 公開)

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