(本記事は、スティーブ・アンダーソン氏、カレン・アンダーソン氏の著書『ベゾス・レター:アマゾンに学ぶ14ヵ条の成長原則』すばる舎の中から一部を抜粋・編集しています)

所有者意識を持つということ

オーナーシップ
(画像=aodaodaodaod/Shutterstock.com)

家を所有するのは借りるだけとはまったくの別物だというのはわかった。だが、それが自分の事業にとってどういう意味があるのだろうか。また、アマゾンではどのようにしてこのような考え方が浸透していき、会社の成長につながっていったのだろうか。

1通目の1997年版レターに、その答えがある。


多才で能力のある社員を雇用することと、そのような社員を手放さないことに今後も力を入れていきます。また、社員への報酬は現金よりもストックオプションに重きを置きます。

当社がこれから成功するか否かは、やる気にあふれた社員をどれだけ集めて手元に留めておけるかに大きくかかってきます。そのような社員であれば必ず、アマゾンを自分のこととして考えられるようになります。

そうすれば実際に、アマゾンは社員一人ひとりのものになるのです。

──ベゾス(1997年版レター)


仕事を自分のものとして考えるべきという発想自体は、そう珍しくない。社員の当事者意識が足りないという不満も、よく耳にする。だが、他の14ヵ条と同じく、ベゾスやアマゾン社員が取り組むと、このありふれた概念はまったく別次元へと到達する。

アマゾンの社員は「当事者意識を持ちなさい」とは言われない。社員が求められるのは、自分が本当に会社を所有しているかのように考えることだ。全社員を対象としているアマゾンリーダーシップ14カ条にも次の項目がある。


アマゾンリーダーシップ14ヵ条──オーナーシップ

リーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。


ベゾスは、最前線の社員から役員レベルの経営陣まで、会社に関わる全員がアマゾンの所有者であるかのように考えてほしいと思っている。自分のものに対してなら、何かを決定するときも、短期的な四半期決算や価値が長続きしないような目の前の成功に飛びつくのではなく、その決定が持つ長期的な意味合いや先々の影響まで考えるだろう。

だから、アマゾンでは社員の査定基準に「会社を所有しているかのように行動できているか」という項目がある。「それは私の問題ではありません」などと言わない人ということだ。所有者意識こそが、アマゾンの社風で育まれてきた重要な要素であり、アマゾンでは常にこの意識が高まるよう後押ししてきた。

2002年版レター以降、ベゾスはアマゾンに投資する株主に対して、それまでの「シェアホルダー(shareholders)」だけでなく「シェアオーナー(shareowners)」という言葉も使い始めた。投資家がしているのは実質的にはアマゾンの一部を「所有(own)」することなので、やはり所有者意識が求められる。借りているだけという意識では、会社自体への興味もわかず、金目当ての投資に陥ってしまうからだ。

2007年版レターからは、冒頭の「株主の皆様」という呼びかけも「シェアホルダー」から「シェアオーナー」に変わり、ベゾスの信念がさらに伝わりやすくなっている。以後現在まで、この冒頭の呼びかけは変化していない。

会社に対して所有者意識を持ち、そう心から信じる。長年成長し続ける企業文化を生み出すには、この点も鍵になるのは間違いない。

所有者意識を育てる具体策とは?

それでは、ベゾスはどうやって所有者意識を育てているのだろうか。いくつかの方法を駆使している、というのが答えだ。

誰に対してもアマゾンの所有者として接する。所有者意識を育てるためにベゾスが実践している中で、単純ながら効果てきめんなのが言葉を使う方法だ。「シェアホルダー」から「シェアオーナー」に呼び方を変えることで、ベゾスは自分の信念がアマゾンにとっても最重要の信条であることを強く打ち出している。投資家はよそ者ではなく内部関係者ということだ。

社員に会社の株を与える。株を与えられた社員は、働きが自分の財産につながるという気持ちから、会社を所有する意識が強まる傾向がある。


当社では、社員の所有者意識を育てるためにさまざまな施策を行っていますが、その一つが譲渡制限付株式(RSU)です。RSUは全社レベルの賞与制度の中でも重要な項目で、能力のある社員が仕事に魅力を感じ、やる気を出して働き続けたくなることを目的として、時間をかけて練り上げました。アマゾンで一定期間働くなどの条件を満たすと、アマゾン・ドット・コムの普通株を受け取れる権利です。

──『アマゾンのRSU──所有者になること』


意思決定。社員が素早く決定を下せるような環境を与えるのがアマゾン流だ。会社の代表として決断できた人は(それが顧客を手助けするためならなおさら)、自分が会社にとって重要な人物になったことを実感する。社員に会社の価値観を深く理解させるためにも欠かせない方法だ。

会議の進め方。会議もアマゾン流で進んでいく。アマゾンにとって会議は、会社の「共通の目的」を後押しするものだ。6ページメモによって社員が一つにまとまり、同じ目標やアイデアに向けて協力できるようになる。こうして、所有者意識が育まれるのだ。

発明や革新のチャンスを生み出す。アマゾンでは、発明と革新は当然そこにあるものだ。全員が、物事をよくするにはどうすればいいかという点に、いつも(特に勤務時間内は)目を向けなければならない。

リーダーシップを後押しする。リーダーシップも、当然あるべきものだ。アマゾンに入社するとき、全社員がアマゾンリーダーシップ14ヵ条を手渡される。リーダーシップを実行できるよう、会社もサポートしている。口だけでなく、「本当の」サポートだ(サポートが100%うまくいくとは限らないが、少なくとも会社を挙げて実現を目指している)。

「辞める」という選択肢を与える。アマゾンで働きたい人が会社に残る。そういう形を作るために、次の制度がある。


「退職ボーナス制度」(中略)は、ザッポスの有能な経営陣が考案した制度で、アマゾンでもフルフィルメントセンターの社員を対象に続けています。ごく単純な仕組みで、年に1回、社員に対して「辞めるならボーナスを支給します」と提案するのです。

1年目の提示額は2000ドル。毎年1000ドルずつ引き上げていき、上限は5000ドルです。この告知文の冒頭には「この提示を受けないでください」と書かれています。社員にはこの提示を受けてほしくはありません。留まってほしいのです。

ではなぜ、当社はこんな提示をするのでしょうか。ここで目指しているのは、自分が本当は何を望んでいるかを全社員に手を止めて考えてもらうことです。長い目で見れば、社員が不満を抱えたまま働き続けることは、社員自身にとっても会社にとっても健全ではないからです。

──ベゾス(2013年版レター)


あらゆることへの完全な同意を求めない。アマゾンではそのために、ベゾスを含めた全社員を対象とした「異議を唱えたあとは、納得して力を注ぐ」という仕組みがある。決まったことに賛成できない人がいてもかまわないが、そういう人も同じ目標に向かうことはできるという考え方である。顧客にとっての最善という目標は、全員が共通して持っているはずだ。

Amazonプライムでテレビ番組を制作するという提案があったとき、ベゾスはあまりピンと来なかったという。ベゾス自身の興味も薄かったし、契約条件も気になった。レターにもこのときのエピソードが書かれている。


ですが、社員の意見はまったく異なっていました。ぜひ進めたいと言われたのです。私はすぐに返信しました。「異議を唱えたから、あとは全力で取り組むよ。これまで作ったものの中で一番視聴されるものになってほしい」と。考えてみてください。

もし私がただ全力で取り組む姿勢を見せるのではなく、チームがまず私を説得しなければならなかったら、決定までの流れはどれだけ遅くなっていたことでしょう。

──ベゾス(2016年版レター)


顧客も「所有者意識」を持てる──アマゾンスマイル

高校生のころ、妻と出会ったのはヤングライフという宗教を基盤とした学生向け奉仕活動がきっかけだった。その後もヤングライフに何年も金銭上の支援を続けているし、ヤングライフ・カペルナウム(障害を持つ学生への奉仕団体)の役員を夫婦で担当したばかりでもある(持ち回りなのだ)。

そんな私たちだから、「アマゾンスマイル」のことを知ったときは嬉しくなった。これは、買い物の支払いのうち少額を、選んでおいた慈善団体にアマゾンが寄付してくれるという制度だ。私たちは、アマゾンスマイルで買い物することでヤングライフを支援できるようにした。

実は、私たちは別々のアマゾンアカウントを持っているので、どちらのほうが買い物による寄付額が多いかというちょっとした競争中である(おそらく妻が勝つだろう)。


当社が2013年に始めたアマゾンスマイルは、お客様が買い物するたびに好きな慈善団体を簡単に支援できるという活動です。「スマイルアマゾン・ドット・コム」から買い物をすると、購入金額の一部を当社がお好みの慈善団体に寄付します。品ぞろえや金額や支払方法やプライムマークはアマゾン・ドット・コムの場合と変わりません。

カートもほしい物リストも同じです。寄付先に指定できるのは、慈善団体としてすぐ思い浮かぶような大きな全国規模の団体だけではありません。地元にあるお子さんのかかりつけ医院や学校のPTAをはじめ、寄付先になりえる団体のほぼどこでも対象になります。現在、選択できる慈善団体の数は100万弱です。この中にきっとお好みの団体があるでしょう。

──ベゾス(2013年版レター)


自分で選んだ慈善団体を支援できるということは、巡り巡ってアマゾンとのつながりを実感できるということでもある。アマゾンの株はまったく持っていないが(後悔先に立たずというやつだ)、自分たちの金の一部が何かを支援するという目的に使われることで、自分も変化を起こしているような気持ちになれる。

これは所有者意識なのだろうか。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

だが、アマゾンと一緒にいいことをしている気持ちになれるのか、と訊かれれば、迷いなく答えることができる。

そのとおりだ。

ベゾス・レター
スティーブ・アンダーソン(Steve Anderson)
ビジネスコンサルタント。専門分野はリスク、テクノロジー、生産性、革新性。保険業界で35年以上のコンサルティング経験がある。保険法で修士号を取得。講演と執筆の実績も豊富で、「フューチャリスト」でもある。
カレン・アンダーソン(Karen Anderson)
執筆コーチ。出版コンサルタント。出版界で30年以上活躍するとともに、ダイレクトレスポンスマーケティングの経験も豊富。その影響力は『ニューヨーク・タイムズ』や『USAトゥデイ』などが選ぶベストセラー書籍の多数に及ぶ。

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