(本記事は、スティーブ・アンダーソン氏、カレン・アンダーソン氏の著書『ベゾス・レター』=すばる舎、2019年11月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

アマゾン最大の「いい失敗」とは?

ベゾス・レター
(画像=Webサイトより)

アマゾンは、立て続けに2回失敗して多額の金を失ったことがある。だが、これは最終的にはいい失敗になった。

1つ目の失敗は、1999年にアマゾンがイーベイと競合するためにとったある試みである。

アマゾンオークションというサービスだ。要するにイーベイのプラットフォームへの対抗馬であり、イーベイのシステムに改良を加えることで競争力を高めていた。だが、多くの販売業者と多少の買い手の注目を集めたのはたしかだが、イーベイに対抗できるようなものにはならなかった。ベゾス本人も、ブロジェットのインタビューの中で、アマゾンオークションは「あまりうまくいきませんでした」と認めている。

この失敗には多くの要因があるが、特に、消費者がアマゾンで製品を競り合うこと自体に拒否反応を示したという要因が有力だ。アマゾンで買い物をする消費者が望んでいたのは、製品を選んで、決まった(できれば安い)価格で購入することだった。アマゾンの顧客は、何よりも安定した価格を重視していたのだ。

一方、イーベイの利用者は、買い物に対して別の価値観を持っていた。出品されたものを競り合うことは、イーベイの利用者にとって嫌なことではなかった。珍しいものであるほど競り合う価値があるし、最終的に自分が購入できなくてもかまわない。

消費者は、イーベイでは製品を競り合って、アマゾンでは製品を購入するという使い方に慣れていた。これまでと違う方法でアマゾンを利用するという切り替えはできなかったのだ。

こうして、「麻酔なしで根元から歯神経を抜かれた」ような痛みを伴って、アマゾンオークションは失敗に終わった。

このアマゾンオークションのモデルを捨てて、次にアマゾンが始めた実験がzShopsというサービスだ。だが、これが2番目の失敗だった。

zShopsはアマゾンならではの独創的な取り組みだった。アマゾン以外の売り手も、拡大中だったアマゾンの大規模なプラットフォームを利用できるのだ。ほかの「売り手」もアマゾンの「店舗」上で販売できるということなので、アマゾンにとっては相当リスクの大きい試みだった。

zShopsでは、売り手は独立したログインページと検索エンジンを使って、アマゾンのサイト内に自分の製品を表示する特設ページを作ることができる。わずかなプラットフォーム手数料を払うだけで、アマゾンに組み込まれることなく出品できるのだ。

だが、顧客は余分な手順が増えるのを嫌がり、zShopsは閉鎖に追い込まれた。こちらも失敗に終わったのだ。

ところが、zShopsの閉鎖後も、アマゾン以外の売り手がアマゾンで販売するというアイデア自体は生き残った。その後、数百億ドルという収入を生み出すことになる、アマゾンマーケットプレイスだ

1億7800万ドルの失敗

アマゾンにとって、金銭的な意味での最大の失敗といえば、年間1億7800万ドルもの償却を余儀なくされたファイアフォンだろう。償却のうち1億7000万ドルは、わずか1四半期の期間で発生している。

アマゾンのファイアフォンは発売当初の価格が649ドル。大手通信会社のAT&Tと独占販売契約を結んでいて、AT&Tの利用者しか購入できないようになっていた。「ショッピングマシン」という別名の所以は、外出先でもアマゾンで買い物できるように設計されていたことだ。

ジェフ・ベゾスがこのスマートフォンを最初に発表したのは、2014年6月だ。ディスプレイ周りに複数装備されたカメラによって3Dのような視界が得られるなど、当時の水準からして機能が見劣りしていたわけではない。

もっとも、この「ダイナミックパースペクティブ」機能は注目を集めたいためだけの技術だったという指摘もある。いずれにしても、ファイアフォンの売上は極めて低調で、1億7800万ドルの償却が発生することになった。

アマゾンも営業をてこ入れするとともに、2014年9月には契約オプションを加えて契約価格を0.99ドルまで引き下げた。10月には契約価格自体を撤廃して、販売価格は199ドルになった。

それでも業績不振は続く。そこには大きな問題があった。ファイアフォンを欲しい人がいないから誰も買わないという問題だ。

2014年10月、『フォーチュン』誌の記事で、アマゾンのデバイス・サービス担当シニアバイスプレジデントのデヴィッド・リンプも、ファイアフォンの価格設定が失敗だったことを認めた。同記事には、アマゾンのサイトで、ファイアフォンの評価がわずか星2つであることも紹介されている。

ファイアフォンは、アマゾンが最終的に失敗した賭けの中でも規模が最大級だった。もちろん、痛みも伴っている。

SEC(証券取引委員会)にアマゾンが提出した2014年版の年次報告書(10-K)を見ると、次のような記述がある。「当社が計上した、ファイアフォンの棚卸資産評価と仕入業者委託費用に関する手数料のうち、ほぼ全額にあたる1億7000万ドルは、2014年第3四半期に計上したものである」。

ファイアフォンに対するアマゾン公式の見解は、仕事をしていれば、ときには派手に転ぶこともあるというものだ。つまり、アマゾンはこのことを「いい失敗」だと考えている。

では、「いい失敗」とは具体的には何だろうか。

実は、ファイアフォンを開発した部署はこの失敗を忘れず、最終的には、このときの教訓を活かしてアマゾンエコーのハードウェアとアレクサとして結実させた。こちらは数十億ドルもの収入をもたらしたのである

成功に必要なのは、「いい失敗」という考え方

ここではっきりさせておきたいことがある。失敗は決して、無能の表れでも手抜きの結果でもないということだ。実はアマゾンも、無能に対しては不寛容な姿勢で臨んでいる。アマゾンは、新たな考えや手法に挑戦する以上、失敗も当然起こるものだと考える。だが、全力を尽くしていない取り組みに対しては、一切容赦しない。

考えてみてほしい。アマゾンには「有能な」社員が60万人以上いて、新しいことに躊躇なく挑める環境もある。将来、どこまで成長できてしまうのだろうか。

ジェフ・ベゾスとアマゾンは、もしかすると民間企業で初めて月面に着陸する会社になるかもしれない。

ベゾス・レター
スティーブ・アンダーソン(Steve Anderson)
ビジネスコンサルタント。専門分野はリスク、テクノロジー、生産性、革新性。保険業界で35年以上のコンサルティング経験がある。保険法で修士号を取得。講演と執筆の実績も豊富で、「フューチャリスト」でもある。
カレン・アンダーソン(Karen Anderson)
執筆コーチ。出版コンサルタント。出版界で30年以上活躍するとともに、ダイレクトレスポンスマーケティングの経験も豊富。その影響力は『ニューヨーク・タイムズ』や『USAトゥデイ』などが選ぶベストセラー書籍の多数に及ぶ。

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