要旨

● 日本の製造業PMI(購買担当者景気指数)に対する中国PMIの弾力性を計測すると、直近5年では中国の製造業よりも非製造業の弾力性の方が高い。特に中国内需と日本経済が密接に連動しており、日本経済の行方を探る上で中国内需を知ることはこれまで以上に重要になっている。

● 中国経済の重要度が高まった背景には、中国経済の規模が大きくなったという要因がある。中国の経済規模は2018年には世界GDPの約16%を占める。2018年の世界経済規模の拡大で見れば、中国の寄与率が約3割と最も大きい。

● 近年は中国の内需が拡大しているため、日本で作られた工業部品が生産拠点の中国に輸出されても、中国国内でも消費される傾向が強まっている。また、古紙等のように追加関税の掛け合い等により中国が米国から日本に調達先を変 えたことも一部影響している。

● 経済規模の大きさではアメリカに軍配が上がるが、日本経済と中国経済との結びつきは、実際の経済規模以上に大きくなっている。

中国
(画像=PIXTA)

強まる日本製造業に対する中国内需の影響

中国経済の重要度を見るべく、日本の製造業PMI(購買担当者景気指数)に対する中国PMIの弾力性を製造業と非製造業に分けて計測してみた。すると、直近5年では中国の製造業よりも非製造業の弾力性 の方が 高いことがわかる。これは、特に中国内需と日本経済が密接に連動しており、日本経済の行方を探る上で、中国内需を知ることはこれまで以上に重要になっていることを示している。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

ただし 、以前からここまで連動していたわけではない。今から6年以上前の2009~2013年における日本の製造業PMIに対する中国PMIの弾力性を計測す ると、製造業のほうが 高かった。背景には、当時は中国内需というよりも、中国の製造業を通じた最終需要地である米国経済の影響が大きかったことが推察される。

当時は、あくまで日本から中国に輸出する製品の多くは中国で加工され、米国に輸出されていた。こうした中国国内の生産拠点としての機能が高かった一方で、日本経済は中国内需の影響を現在ほど受けることは大きくなかったといえよう。

また、直近5年程度で連動性が高まることとも関係してくるが、今から6年以上前はそれほどインバウンド 需要 が多くなかったという点も上げられる。 このため、2000年代までであれば、日本経済の予測をするときには、ある意味で は 米国の状況さえ見ておけば良かったといえる。

第一生命経済研究所
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このように、最近の日本経済を予測する場合に中国経済の重要度が高まった背景には、中国経済の規模が大きくなったという要因がある。世界最大の経済大国は紛れも無くアメリカであり、世界のGDPの24%以上を占めている。このため、当然それだけ日本経済に及ぼす影響も大きい。それに対して、日本は世界第三位の経済規模だが、世界GDPの6%弱を占めているに過ぎない。2009年まで2位だったが、中国に 抜かれたのは記憶に新しい。つまり、米国の次に大きい国は中国であり、中国の経済規模は 2018年には世界GDPの約16%を占めるまでに大きくなっている。

また、ドル建てで比較すると、日本のピーク時のGDPは6兆ドルを超えていたが、現時点では5兆ドル前後である。それに対してアメリカはGDPの規模が日本の4倍強の20兆ドル以上、中国は13兆ドル以上となる。

つまり、米中二カ国だけで、世界経済の4割以上を占める。 また2018年の世界経済規模の拡大で見れば、中国の寄与率が約3割と最も大きいため、やはり中国経済は世界経済を見る上で非常に重要ということになろう。

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世界との経済的な結びつき

では、日本と中国の実体経済の結びつきはどの程度あるのかを見るべく、日本の国別輸出入を見てみよう。日本の主要国別輸出のウェイトを見ると、最大の輸出相手先は中国で2割弱を占める。2番目がアメリカで、次いでASEAN、EU、そして韓国が7%となっている。

しかし、2017年までは、日本の最大の輸出相手国はアメリカだった。この背景の一つには、アメリカがトランプ政権になって保護主義に傾斜したことがある。輸送用機器を中心に、一般機械や電気機器等、いわゆる加工組み立て品をアメリカに大量に輸出してきた。特に、アメリカに最も輸出している品目は自動車である。それが、トランプ大統領誕生以降保護主義が深刻化し、生産拠点がアメリカにシフトしたことによって、日本のアメリカ向け輸出が減ってしまった。

一方、中国は世界の工場といわれてきたが、近年は国内需要が拡大している。このため、日本で作られた工業部品が生産拠点の中国に輸出され、これまでのように中国で作られた完成品が欧米に輸出されるだけでなく、中国国内でも消費されるという傾向が強まっている。

このため、保護主義で中国から米国向けの輸出が減少しても、日本から中国向けの工業部品の輸出等は減らず、むしろ中国内需の拡大により中国向け輸出のウェイトが拡大したのである。

もう一つは、米中摩擦の影響もあろう。古紙等のように、追加関税の掛け合い等により中国が米国から日本に調達先を変えたことも一部影響している可能性がある。

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こうしたことが重なって、2018年には中国が日本の最大の輸出相手国に返り咲いた。なお 、輸入で見ると、元々中国が最大相手先である。ただし 、安い人件費を梃子に完成品を大量に生産し、それを日本に輸入する 役割はASEANにシフトしており、むしろ東南アジアでは作れない高付加価値な電気機器等の比率が上がっている。

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このように、2018年は輸出入とも中国が最大のウェイトを占めた。以前は、日本から輸出された部品は中国で完成品となり、それがアメリカに輸出されるため、アメリカ経済の影響のほうが大きいといわれてきたが、今はそうではない。最初の推計で示したとおり、日本の製造業は中国の製造業より非製造業のほうに影響を受けやすくなっている。むしろ近年は経済規模が拡大した中国内需に左右される要素が大きくなっている。そう考えると、経済規模の大きさだけでは単純には測れず、日本経済と中国経済との結びつきは、実際の経済規模以上に大きいといえる(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣