11月28日(木)、「日経CNBC『トップに聞く』に学ぶ! Change & Innovation 10倍速で『組織成長の壁』を越える、戦略的「組織モデル」の創り方」と題するセミナーが行われた。

本セミナーでは、前半に株式会社ZUUの冨田和成代表が講演を行った後、串カツ田中ホールディングス代表取締役社長の貫啓二氏が招かれ講演と対談が開催された。本稿では対談の様子をレポートする。

串カツ田中を成功に導いた「嬉しい誤算」

撮影=中村僚
(撮影=中村僚)

「串カツ田中」といえば、大阪の文化である串カツを全国に広めた有名チェーン。2008年に東京世田谷に1号店をオープンし、2011年にフランチャイズ展開を開始。急速に店舗拡大をすすめ、現在では約300店舗にも及ぶという。

競争の激しい飲食業界において、なぜこれほどの急成長を遂げることができたのか。興味は尽きないところだが、貫社長は「もう一度同じことがやれるのかと言われると難しい」と語る。

「飲食のチェーンが生まれる時は、いくつかの奇跡が重なっている気がします。弊社の場合は、串カツ専門店があまりなかったために受け入れられました。また、人通りが少ない住宅街に出店したこともポイントです。つまり、スモールマーケットで成功したからこそ、展開性ができたのです」(貫社長)

売り上げが伸びた原因のひとつは、想定していたターゲットとは別の客層の来店が多かったことだという。これは嬉しい誤算だったようで、その後の経営方針にも影響した。

「揚げ物ですから、当初僕らがターゲットにしていたのは20代〜40代。男女比は7:3で男性が多いと思っていました。1号店は三軒茶屋の近くで、1人暮らしの学生や若い社会人が多いので、一人暮らしの人も来店すると予想していました。ところが、予想外にファミリー層の来店が多かったため、そのぶん売上が積みあがることになりました」

子どもと一緒に入ることができる居酒屋は限られており、さらにその子どもに串カツが受け入れられたため、家族で再び「串カツ田中」に来店するという好サイクルができたようだ。

さらに、創業当初に子どもだったお客さんが成長し成人したことで、今度はお酒を飲む顧客としてリピートするのだという。結果的に中長期戦略にもなり、貫社長は「ああ、これか」と思ったそうだ。

子ども、ひいてはファミリー層を大事にする戦略として、幹線道路などの沿線にあるロードサイド店舗の拡充と、全店禁煙を行った。特に後者は日本で初めて禁煙を行った居酒屋として、テレビなどのメディアでも大きく取り上げられた。こうした大胆な改革も成功を収めた要因だろう。

トライ&エラーを繰り返して次の施策に生かす

撮影=中村僚
(撮影=中村僚)

冨田代表は、「飲食業界はPDCAをもっとも早く回さなければいけない業界のひとつ」とした上で、串カツ田中の経営戦略を称えた。

「飲食のPDCAとは、コストを抑えて走るものもあれば、コストをかけながら商品開発をして、よりお客様から喜ばれるものを追究していくものもあります。ただしその喜びは多種多様で、おいしいことがマストの場合もあれば、味以外のインスタ映えといった部分まで総合的に考える商品もある。居心地の良さがキーワードになることもあります。

串カツ田中さんは、店員さんの態度や椅子、社内の明るさ、立地など、すべてのPDCAが回り続けているんだろうと思います。串カツ田中さん自身は当たり前だと思っているかもしれませんが、並大抵のPDCAではありません」(冨田)

これには貫社長も同調。やはり競争の激しい業界の中で生き残るのは、簡単なことではないという。

「常に新しいことを試して、キャンペーンでも全部トライ&エラーをチェックして、次に生かしています。特別なことではありません。少しずついろんなところに疑問を持って、ずっと繰り返していく。串カツ田中はスペシャルなPDCAを回しているのかと言われると、そんなことはないです」(貫社長)

会場から、「成長していく企業と衰退してしまう企業の違いは?」と問われると、貫社長は「企業理念」、冨田代表は「ビジョン」をあげた。

「企業理念は大事です。立派な理念が掲げられていても、労働環境がすごく悪い、いわゆる『ブラック企業』は、人が辞めるため入れ替わりが激しくなり、固定のお客さまもつきません。少なくとも企業理念に沿った行動を社長が取り、理念の実現に社長が近づこうと努力することが大事です」(貫社長)

「ビジョナルカンパニーにはビジョンがあり、ビジョンがあるから事業にゴールがあります。企業がどこを目指しているか、仕事を通じてどういう世の中を作りたいか、誰の幸せを作りたいか……そういうところが大切です。

そしてもう1つは、変化やアップデートを続けられるかどうか。自分たちのモデルがうまくいけばいくほど恨みや嫉妬をぶつけられますし、真似されたりもします。でも真似された時にはすでにそれ以上に進化して、まったく違うところの畑に旗を挙げていればいいわけです。そうして領域をどんどん広げていけるのが、残り続ける会社、成長し続ける企業だと思います」(冨田代表)

『串カツ田中“で”ええやん』と思ってもらうことが重要

飲食業に関わらず経済にダメージを与えることが避けられない不安要素が、人口の減少だ。参加者から「人口減少に対してどんな事業展開を考えているのか」と質問が飛んだところ、貫社長は「胃袋の数がそのまま影響を与えるとは思わない」と語った。

「実は飲食のマーケットはすごく巨大で、人口がそのまま『串カツ田中』に影響があるとは思いません。『串カツ田中』がお客さんに愛されているかどうかの方が、売上を大きく左右します。僕らがつまずくとしたら、飽きられたり何らかの事故を起こしたりした時だと思います。飽きられないように努力することで、人口は減っても串カツ田中を食べてくれる人の数は増えると思っています」(貫社長)

一方で、人手不足による人件費の高騰、それに伴う値上げは「致し方なし」との見解も示した。

「どこかで必ず値上げしなければならないと思います。1円、2円の値上げをわずかなものだと思われるかもしれませんが、いざ1円値上げしたとなれば、本当にお客さんは減ります。過去にあった牛丼10円値上げなどを見ればわかるように、経済指標とされて大きな騒ぎになり、ネガティブなイメージになるんですね。串カツ田中の場合は、ただ値段を上げるのではなく、必ずお客さまのメリットとセットにしなければいけないと思っていますし、それは会社内でも共有しています」(貫社長)

この対談において参加者がもっとも深く頷いていたのは、貫社長の以下の言葉だった。

「『串カツ田中がいい』というお客さんは、正直いないんですよ。『串カツ田中“で”ええやん』というお客さんの方が多いんです(笑)。だいたい男同士で急に決まった飲み会なんて、どこでもいいんですよ。だから『“で”ええやん』に選ばれるためには、元気な接客をしているとか、ジャンキーな味だけどおいしいとか、家の近くになるとか、そういう要素が必要なんです。

そして、常に『田中』と聞いてもらっていないとダメで、キャンペーンをたくさん開催したり子どものころから来てもらったりして、身近に感じてもらう必要があるんです」(貫社長)

質疑応答も白熱した本対談。小手先の技術ではない本質的な提言を多く残し、濃密な1時間を終えた。