「人として大事なこと」

損か得かではなく、正しいか正しくないか…、さらに美しいか美しくないか…

人の道から考えてどうなのか。人を尊重できているのか。これも大事な価値観です。

儒教を基にした「徳の経営」で言えば「仁」と「義」です。「仁」は人が座布団に座って睦まじくいられる姿。常に相手のことを想って接しているかどうかです。
「義」は利欲よりも、人としてなすべきことをすることです。スタッフやその家族、お客さま、取引先、地域の人。自分が関わるすべての人に対して人道的に接しているかどうかを考えて行動する価値観が大事なんです。

これは、何をおいても「人」をいちばんにしているのか、「人」以外のものをいちばんにしているのかの違いでもあると思います。業績を上げる人が良くて、上げられない人はダメとするのは「人」を見ていることにはならない。

僕たちはスタッフを売り上げという業績だけで上から順に評価したりしません。売り上げのグロスではなく、その人が去年よりどれだけ成長したかの成長度で評価します。

そうすると組織の中に勝者と敗者がいなくなるんです。みんな成長すれば、みんなが勝者。人を大事にする経営はそういうことです。

遅刻の回数によって罰金を取るような会社もありますが、僕はそういうのはおかしいと思う。無遅刻無欠勤を褒めるのはいいけれど、人に何か罰金を科すのはおかしい。本当に人を大事にしているのなら、なぜ遅刻するのかを考え、その人と一緒にどうしたら遅刻しなくて済むか考えてあげたほうがいいでしょう。どうしても遅刻する人なら同僚が迎えに行く。僕の会社はそうしているので遅刻する人がいないんです。

お客さまに対して「人道的」であるのは、お客さま一人ひとりに合わせてあげることがいちばんだと思います。たとえば、どうしても仕事の関係で夜遅くにしか来られないお客さまがいれば、その人のために月1日だけ営業時間を延長するというのもそうです。

僕は基本的にお客さまとの関係は「親友」のようになれるのがいいと思っている。自分の親友ならどうしてあげられるか。そういう価値観です。

お客さんだと思うから難しくなる。自分の親友と思えば解決できることは多いんです。営業時間を数分過ぎたときに親友が店に来て「もう閉店です」と事務的に断る人はいないはず。「いいよいいよ」と言うでしょう。だったら、お客さんにもそうしてあげればいいだけですよね。

お客さまには「例外」をつくってあげることも大事です。本当にそのお客さんが喜ぶなら「例外」も迷わずやってあげる。そういう組織や会社が人道的だと僕は思うんです。

人としていいと思えることをするのは「当たり前」のように思われるかもしれません。だけど、その当たり前が意外にできていないんです。どんな人でも「大切」と思って行動できているか。自分の一日をビデオにでも撮ってみたら、身近な人に冷たく返事していたりしているかもしれない。

自分は「できている」と思うのではなく「できてないかもしれない」と思って意識でき、人を大事にすることを継続できる人が成長できるのです。
「その人にとってどうなのか?」「その人のためになるのか?」、いつも人(相手)を大切に考えることが、心を育み豊かにするのです。

そういう日々の凡事徹底を大切にすることです。朝起きたら家族に明るく元気に「おはよう」と言い、ご飯ができたなら「ありがとう」「おいしかった」と言う……、そんな当たり前のことをちゃんとやること。親を大切にすることもそうです。とにかく、周りの人に誠実であること……。ゴミを捨てない、ゴミを見たら拾う。障害者の方の駐車スペースには車を停めない。そんな細かな行いを人としてちゃんとしていくこと。周りの人を幸せにした総量こそが、自分に返ってきて人生はつくられるのです。

人を大切にすること。人を尊重すること。それを実践し、伝えていってこそ、人は育つのです。

「利他的」

自分のしてほしいことを相手にしてあげること。

利他とは「自分のしてほしいことを相手にしてあげること」です。普通に生きていて「利他」と聞くとすごく難しいものに感じるかもしれませんが、そんなことはありません。

たとえば、4人で外にご飯を食べに行くとします。僕はステーキと思っていても、一緒に行く3人が「ピザ食べたいよね」と盛り上がっていたら「じゃあピザにしよう」と言ってご飯を食べることにする。そんな小さなことも立派な利他的行動なんです。それができない人は「利己」ですね。自分の思い通りにしないと気が済まない。普段の生活でも10%ぐらいは損をするつもりでいるといい。それぐらいならできますよね。少しぐらい損ができる人は相手から慕われます。

たとえば、僕を含めた3人のグループで、誰かが僕にリンゴを10個持ってきてくれた。それをどう分けるか。自分に6個、2人に2個ずつ、あるいは自分が4個で2人に3個ずつかもしれない。普通はそんな感じだと思うんです。自分が2個で2人に4個分けてあげる。そのほうが中途半端に分けるより相手は絶対うれしいから。それも利他です。

身近な利他でいちばん大事なのは「親」に対するものだと思います。利他の原点は親孝行なんです。なぜなら自分という人間を無償で育ててくれたわけですから。その相手に恩返しするのは利他の精神の基本でしょう。

僕の親も世間的に「いい親」とはいえなかったのですが…(笑)。昔の僕なら「なんで、そんな親に何かしてあげんといけんのか」と思った。でも親には変わりないのですから、できる限りのことはしているつもりです。そもそも親孝行もできなくて、世の中の人のためになることをしようなんて無理ですし、どこか〝嘘〟になってしまうからです。

「他」とは自分以外の人、「利」とは喜ぶこと。「自分以外の人が喜ぶことを考える(行動する)ことこそ、黄金律なのです。

現に成功できる人は、人のために何かをして仲良くなるのがみんな得意です。利他の人にはやはりみんな近寄っていく。反対に利己の人は敵ばかりつくっています。どちらがいいかは言うまでもないですよね。

ある先輩がこう教えてくれました。人の幸せって「よりよい人間関係の中で生きることだよ」と。本当にそう思います。事業に成功したり業績を最高に上げたりしても、人から嫌われ友だちも少なく、身近な人と疎遠だったら何が幸せでしょうか……。

よい人間関係をつくっているのは「自分が相手を思う」、自分の心がつくっているのです。ただ、間違ってほしくないのは、人に好かれるために利他の心を持とうと言っているわけではないのです。利他の心を持っていると、結果そのような豊かな日々が訪れてくるとお伝えしたかったのです。

ぜひ、みなさんも利他の価値観を大事にしてください。

ゴールデンルール
久保 華図八(くぼ・かずや)
バグジー代表取締役社長。15歳で美容業界に入り23歳で独立するが、技術を磨くために渡米。帰国後、北九州市で繁盛店を築く。幹部社員の相次ぐ退職という危機を社員一丸となって乗り越え、社員重視・お客様本位の経営で事業を成長させる。北九州市を拠点に美容室5店舗のほか、カフェ、エステサロンなどを展開。大手企業や各種団体などで年間100回以上の講演を行っている。2009年、サービス産業生産性協議会『ハイ・サービス日本300選』受賞、13年、経済産業省『おもてなし経営企業選』受賞。著書に『経営者には、幸せにするべき5人の人がいる』(日経BP社)、『ひとり光る みんな光る』(致知出版社)『人が育つゴールデンルール』(内外出版社)などがある。

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