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面接でスターバックスへの愛を語りだす学生たち
ザ・ボディショップの社長時代、新卒者の最終社長面接で不思議な経験をしました。私が「学生時代どんなアルバイトをしていましたか?」と質問すると、「スターバックスで働いていました」と返答する学生さんが、とても多かったことです。
そして、「どんな経験をしましたか?」と続けると、いかにスターバックスが素晴らしいか、スタッフたちが生き生き働いているか……と、延々と目を輝かせて話を続けるのです。ザ・ボディショップの最終面接なのに……。
アルバイトの学生さんに、これだけ情熱的に語らせるスターバックスという会社は、いったいどんな教育をしているのか、どんな秘密があるのか。私はとても興味が湧きました。そしてスターバックスに入社し、アルバイトに混じって研修を受けて初めてその秘密がわかりました。
スターバックスの研修
スターバックスが、新しく入ったパートナーにどのくらい教育を行うか、ご存知でしょうか?答えは、80時間。一般的な小売り企業のアルバイトの場合、せいぜい数時間だと思います。短期雇用が前提のアルバイトに80時間もの教育投資するのは異常かも知れません。
しかも、この80時間の研修の中では、コーヒーの淹れ方や基本的な接客だけでなく、ミッションについてもかなりの時間が割かれます。研修では「何をやるのか」だけではなく、「なぜそれをするのか」を考えるスタンスを貫かれています。
スターバックスにはコーヒーの淹れ方やや掃除の仕方などの細かなオペレーションマニュアルはありますが、いわゆるサービスマニュアルはありません。あるのはただ一つ「JUST SAY YES!」だけです。もちろん「道徳・倫理・法律に反しない限り」という前提はあります。
「人々の心を豊かで活力あるものにするために
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
このスターバックスのミッションに従って、何をするのかは自分の頭で考えて実践することを認め、奨励しているのです。(つまり何をするかはパートナー個々に権限委譲しているのです!)結果お客様や仲間たちから感謝の言葉をもらう。それが働くことの充実感につながり、長く定着してくれる。定着してくれるからこそ、更に教育研修に対して投資ができる。
そんな生き生き働いている素敵なパートナーたちの姿に憧れ、良い人材が集まる。これがスターバックスの成功の秘密なのです。
スターバックスと他のコーヒショップでは、お店での基本的な作業の流れは同じです。レジでオーダーを受け、お勘定をして、商品をお渡しする。何か大きな違いが出るのは、何か異常が起こった時です。
つまずいて転び、コーヒーをひっくり返してしまった、気づいたら財布を持ってくるのを忘れていた、店の前で交通事故が起きた……。そんな時、パートナー達(スターバックスで働く全員がこう呼ばれています)が自分の頭で考え、ミッションに従った行動が自然と行われ、お客様の感動を呼ぶのです。
カップにニコちゃんマークを描いたり、いつもオーダーする商品を覚えてくれたり、ちょっとした気遣いをすることは、パートナーの皆さんが自主的に行っています。決して強制やマニュアルではありません。
社員の自発性を引き出すためにリーダーがやるべきこと
多くの企業は、ミッション、経営理念、あるいは社是といった類のものを持っています。きっとそれぞれの創業者には、熱いストーリーがあり、事業を通じて心の底から大切にしたい何かがある。ミッションとは本来、それをぎゅっと凝縮し、明文化したものです。
しかし、会社が拡大していき、新しい人たちが入ってくると、どうしても創業の意思とか熱気は薄れがちになってしまいます。ですから常にリーダーは創業の原点やミッションを繰り返し語らなければならないのです。本当に大切なのは、社員一人ひとりに企業の目的(Purpose)をしっかり理解してもらうことです。常に自分たちのやっている仕事の原点を問うことです。
おいしいコーヒーを淹れることも、接客の仕方を学ぶことも大切です。でももっと大切なのは、なぜそうするのかです。なぜ「いらっしゃいませ」ではなくて、「こんにちは」なのか?なぜスターバックスは「サードプレイス」目指しているのか? なぜスターバックスはコーヒーを提供しているのか? なぜ? なぜ?……その問いに対する答えは、常にミッションに帰ります。
「何のために、自分達の会社は存在しているのか?」
その、一見単純な問いかけを、リーダーはメンバーに常にしなくてはなりません。
かつて私はマネジメントレターでこのような内容を全社に送信しました。
「もし台風や震災などで困った人がいたら助けて欲しい。水が必要な人がいたら、ペットボトルを差し出して上げて欲しい。スターバックスの社員である前に人間として正しい判断をして欲しい。必ず私はその判断を支持するから。」
これはスターバックスのミッションを私なりに言い換えたことに他なりません。
ミッションは評価に繋げなければならない
リーダーは、繰り返しミッションを語らなければならないことと、もう一つミッションを浸透させるために大切なことがあります。それは人事評価の中にそのミッションや価値観(会社の行動指針)の体現度を加味することです。つまり誰を評価し、誰を偉くするか、究極誰を社長にするかでミッションの浸透度が変わってきます。
会社が従業員に対する最大のメッセージは人事です。
リーダーは、それぞれの部門で売上や利益などの実績を上げることは当然です。ただ人を評価する時にはそうした業績面だけではなく、いかにミッションを理解し実行していることかについてもきちんと評価しなくてはなりません。
例えば「和を持って貴し」という価値観があるのに、仲間や部下の手柄を取り上げて実績を上げる人がいます。「お客様第一」だと言っているのに、お客様を騙して数字を上げる人がいます。こう言った人を偉くすると周りの人たちは「ミッションや行動指針などと言っているが、結局数字を上げた奴が偉くなるのだ」というメッセージを受け取ります。
ミッションに沿った皆が納得するような人事をしなくては、ミッションは決して浸透しません。それは採用にも当てはまります。会社の価値観に合わない人はいくら能力や実績があっても採用しないことです。
私は様々な企業で、採用の間違いを多くみてきました。私自身も何回も失敗しました。仕事の失敗はいくらでも取り返しがつきますが、採用や人事の失敗は大きな代償を伴う、ことを肝に命じてください。
(提供:THE OWNER)