(本記事は、寺門和夫氏の著書『宇宙開発の未来年表』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

加速度的に進む宇宙観光ビジネス

宇宙開発の未来年表
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

宇宙空間はもはや限られた国が活動する領域ではなく、活発なビジネスの場となっている。その象徴的存在が「宇宙観光旅行」であろう。しばらく前まで、そんな時代がくるのはずっと先と思われていたが、2020年は「宇宙観光元年」となり、民間の宇宙船による宇宙旅行が本格化することになる。

世界初の商業宇宙旅行実現に挑んできたのは、ヴァージン・ギャラクティック社である。同社はヴァージン・アトランティック航空(1984年創立)の創業者リチャード・ブランソンが2004年に立ち上げた企業で、2020年には最初の商業飛行を行う予定になっている。

ヴァージン・ギャラクティック社が行おうとしている宇宙飛行はサブオービタル飛行(弾道飛行)である。放物線の軌道で地上から高度約100㎞の宇宙空間まで達し、その後、地上に戻ってくる。宇宙空間で無重力環境を体験できるのは約5分間だが、乗客は宇宙からの風景を満喫できるであろう。料金は3000万円弱とされ、すでに多くの人が予約しているという。

宇宙飛行に用いられる宇宙船は、同社が開発してきた「スペースシップ2」である。スペースシップ2は有翼の宇宙機で、1号機は事故で失われてしまったが、2号機の「VSSユニティ」がすでに試験飛行を行っており、実際の飛行に用いられる予定である。同社は現在3号機も製作中である。VSSユニティの定員は6名である。

VSSユニティを打ち上げるのはロケットではなく、双胴の巨大な飛行機「VMSイヴ」である。VSSユニティはVMSイヴに懸吊され、高度15㎞あたりまで上昇後、母船のVMSイヴから切り離され、自らのロケットエンジンで宇宙空間に達する。帰還時は滑空して着陸する。

ヴァージン・ギャラクティック社はカリフォルニア州モハーヴェで宇宙機の開発や飛行試験を行ってきたが、宇宙旅行の出発地はニューメキシコ州に建設されたスペースポート・アメリカという宇宙港である。モハーヴェでは「スペースシップ2」3号機や母機2号機の製造を行うことになっている。

ブランソンは昔から宇宙が好きで、どうしても宇宙に行きたいと考えていたことはよく知られている。自分自身が最初の商業宇宙旅行の乗客になるつもりのようだ。2019年7月16日は、アポロ11号打ち上げ50周年の日だったが、実はこの日にブランソンがVSSユニティに乗って、最初の商業宇宙飛行を行う予定であったという。実現はしなかったが、おそらく2020年には夢を実現することになるであろう。

ただし、当然のことながらブランソン自身はサブオービタル飛行にとどまることなく、その先を考えている。その目標は、ヴァージン社が世界初の「宇宙エアライン」となることである。コンコルドはパリ〜ニューヨーク間を2時間59分で飛行したが、宇宙空間を飛行するスペースプレーンであれば、飛行時間はもっと短くなる。東京〜ニューヨーク間を2時間で飛ぶことができ、大陸間の移動は今より格段に容易になる。

軌道上の宇宙ステーションと地上を結ぶ路線や、将来は月と地球を結ぶ路線も大きな可能性をもっている。

ブルー・オリジン社も商業宇宙旅行を目指す

アマゾン・ドットコム(以下アマゾン)創業者のジェフ・ベゾスが創設したブルー・オリジン社もサブオービタルの商業宇宙旅行を目指しており、こちらも2020年の初飛行を予定している。

ブルー・オリジン社は「ニュー・シェパード」とよばれるロケットを開発しており、このロケットで6人乗りの宇宙船を高度100㎞まで打ち上げる計画である。無重力状態を体験できるのはやはり5分間ほど。乗客は窓から青い地球を眺めることができる。旅行料金は3000万円程度。

ニュー・シェパードというロケットの名前は、1961年にアメリカ初の宇宙飛行を行ったアラン・シェパードにちなんでいる。マーキュリー宇宙船によるシェパードの飛行は弾道飛行で、飛行時間は約15分であった。ブルー・オリジン社ではさらに大型のロケット、「ニュー・グレン」も開発している。こちらは、1962年にアメリカ初の地球周回飛行を行ったジョン・グレンにちなんでいる。ニュー・グレンは人工衛星、惑星探査機、有人宇宙船の打ち上げなどに用いられる予定である。

国際宇宙ステーションに滞在

サブオービタルの宇宙観光旅行であれば、お金を払えば宇宙に行けるという時代がはじまっている。次の目標は地球周回軌道への観光旅行ということになる。これに関しては、すでに実例は多くある。

1990年、当時TBSの社員だった秋山豊寛はお金を払って宇宙に行った最初の民間旅行者となった。行き先は旧ソ連の宇宙ステーション、ミール。搭乗した宇宙船はソユーズであった。当時、ソ連は外貨獲得のために「宇宙旅行者」を何度か受け入れていた。1991年のソ連崩壊後、ロシアは国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加した。

ロシアは国際宇宙ステーションにも宇宙旅行者をソユーズ宇宙船で運んでいる。その最初となったのはアメリカの大富豪デニス・チトーであった。2001年のことで、宇宙滞在日数は8日間であった。旅行費用は20億円ともいわれている。その後、2001年から2009年にかけて、7人の民間人が国際宇宙ステーションに滞在している。

国際宇宙ステーションへの滞在はしばらくなかったが、ロシアは2021年に2人の旅行者を国際宇宙ステーションに運ぶことを発表している。また、NASAは2020年以降、国際宇宙ステーションに民間の旅行者が滞在することを認める方針を発表している。国際宇宙ステーションまで乗客を運ぶ宇宙船は、後述するボーイング社の「スターライナー」やスペースX社の「クルー・ドラゴン」である。運賃は約60億円とされている。

このように国際宇宙ステーションに滞在する宇宙旅行ももうすぐはじまるということになる。

宇宙開発の未来年表
寺門和夫(てらかど・かずお)
一般財団法人日本宇宙フォーラム宇宙政策調査研究センター フェロー。科学ジャーナリストとしても活動するほか、小松大学客員教授もつとめている。科学雑誌『ニュートン』の編集責任者を創刊以来長年にわたってつとめ、NASAやロシアの宇宙施設をたびたび訪問してきた。30年間以上、世界の宇宙開発の取材を続けている。現在は主に宇宙ビジネス、月・惑星探査、宇宙安全保障などを調査研究している。著書に『ファイナル・フロンティア 有人宇宙開拓全史』(青土社)、『中国、「宇宙強国」への野望』『まるわかり太陽系ガイドブック』(ウェッジ)、『宇宙から見た雨』(毎日新聞社)などがある。

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