(本記事は、西井 敏恭氏の著書『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』翔泳社の中から一部を抜粋・編集しています)
サブスクリプションの事業計画の立て方
エクセルでつくるサブスクリプションの事業計画
では、実際にサブスクリプションの事業計画を立ててみましょう。ここではわかりやすさのために、架空のファッションレンタルのサブスクリプションを事例にして事業計画を理解していきたいと思います。
この事例では、シンプルなサブスクリプションの形態で基本をおさえます。本来であれば、サービスの利用が定着すればするほど、会員単価が上がったり、稼働率が良くなったり、解約率が減少したりするのですが、これらは一定として説明します。
また、実際には季節要因などもあり、毎月の広告によるパフォーマンスが変化しますが、これもいったん除外して考えたいと思います。
それでは、1月に事業を始め、10月までの経過を示した事業計画表を見ていきましょう。
1月の時点では、500万円の広告費を投下して、1000名の顧客(1か月のトライアル)を獲得しました。転換率が30%なので、新規会員になったのは300名となります。
このときの売上は、合計会員数300名×顧客単価8000円×稼働率80%=192万円となります。
一方コストは、商品原価(売上の30%を計上)、広告費、その他販促費(売上の20%を計上)、配送費(売上の5%を計上)、決済手数料(売上の5%を計上)を合計すると615万2千円となります。つまり初月は、約423万円の赤字になることがわかりました。
会員が増え、黒字になるまで
では、2月も同様に広告費を500万円使って、1000名の顧客(1か月のトライアル)を獲得し、そのうち300名が新規会員になったとすると、どうなるでしょうか。
新規会員数は変わらないのですが、前月から解約する会員が5%いたとしても、95 %の会員が継続して利用するので、合計会員数は、継続会員300名× 95%+新規会員300名=585名になります。
3月も同様の場合、合計会員数は継続会員585名×95%+新規会員300名=856名となります。
こうして会員数が積み上がっていくので、1月では423万円の赤字だった計画が、同じように新規会員を増やしていっても、2月には約350万円、3月には281万円と赤字幅が小さくなり、8月の時点で単月では約17万円の黒字となります。
このように、1月の時点では500万円の広告を出稿して、売上が192万円しかないとPL上は赤字に見えますが、継続する会員を増やしていけば、8か月後には黒字になります。
ここで肝となるのは、売上に関与するサービスの単価、解約率、稼働率、転換率という変数と、費用として計上する商品原価、その他販促費、配送費、決済手数料、販促費に加えて、広告費から算出する顧客獲得単価(CPA)、会員獲得単価(CPO)という変数です。
これらの変数をどのように試算するか、事業を進めるうえでまず取り組まなければいけないものはどれか、といったことを理解することが大切です。 また実際には、さきほど説明したとおり、会員が長期的に継続するに従って稼働率や解約率が変化します。
事業計画は精緻に立てた方がよいので、会員の利用期間ごとに「新規」「中堅」「ベテラン」などと区分して計算していきます。
毎月利用が発生するサブスクリプションの場合はとっかかりとして、顧客から会員に転換してから6か月以内の会員を新規、6か月を超えて1年以内の会員を中堅、1年を超えて利用している会員をベテランと定義するとよいでしょう。
クラウド型サブスクリプションの場合は、稼働率が高い分、新規を3か月以内と定義しても構いません。
以上が基本的な考え方となります。これを参考に、みなさんの事業に当てはめてみてください。
ここで、通常の販売方法の利益とサブスクリプションの利益を模式的にグラフにしてみます。通常の販売方法は一度利益が上がったと思っても、すぐにマイナスに落ち込むことがあったりと、浮き沈みが激しいことがあります。
一方サブスクリプションは、サービスをスタートしてから黒字になるまで、しばらくはマイナスにへこんでいる時期が続くことになります。この時期が、サービスを改善し顧客の成功を実現する時期にあたります。
やがて、一度黒字に転じると、堅調な伸びを見せていきます。
注目してほしいのは、サブスクリプションの利益の曲線がY軸(利益)の0を超えたときです。
ここが、LTVがCPOを超えたタイミングです。このときに初めて、広告に投資し積極的に新規会員を獲得する準備ができたと考えます。
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