(本記事は、清水 久三子氏の著書『話しベタさんでも伝わるプレゼン 人見知り、心配性、アドリブが苦手な人でも堂々と発表できる!』翔泳社の中から一部を抜粋・編集しています)

プレゼン,説明
(画像=PIXTA)

資料や説明に対する期待値をコントロールする

突然ですが、プレゼンの満足度は何によって決まると思いますか?

これは相手の期待値に一致しているかどうかによって決まります。

上司に頼まれて資料を作ったのに「イメージと違うんだよね」「もっと詳細な説明をしてほしかった」と言われ、さらに修正後も同じようなことを言われてしまう場合には、この期待値コントロールに失敗しているということです。自分からプレゼンをさせてほしいと頼む場合を除くと、プレゼンを依頼する相手にはすでに聞きたいことのイメージがあります。

聞き手分析で相手の期待をきちんと把握した上で、期待値のコントロールをする必要があります

期待値とは、相手が資料や説明に対してどれくらいの水準を求めているかということです。具体的には品質(Quality)、費用(Cost)、納期(Delivery)という3つの条件を相手と合意することです。頭文字を取ってQCDと呼ばれ、もともとは製造業の生産管理で重要な視点ですが、他の仕事にも当てはまります。

期待値をコントロールできれば、少々品質が低かったとしても「この条件ならこれくらいできていればOK」と相手が満足するので、効率良く終わらせることができます。逆に言えば、期待値コントロールができなければいくら内容の品質が高かったとしても満足度は低く、ダメ出しされてしまい、無駄な作業となってしまいます。

この3つはトレードオフの関係にあります。ある品質を満たそうとすれば、投入する費用(時間やお金)や時間がある程度必要になります。もし、費用をあまりかけられないとすれば、品質を犠牲にするか、納期を遅らせるということになるわけです。

話しベタさんでも伝わるプレゼン
(画像=話しベタさんでも伝わるプレゼン)

求められた品質(Q)に合わせる

まずは品質に求める水準を相手に確認します。全体情報については概要レベルか詳細レベルか、数値については確定済みか仮の概算でよいのか、リサーチ結果についてはどれくらいの範囲や精度が必要なのか、計画発表については関係者の合意まで必要なのかどうかなどです。

また表現方法も品質の水準として確認しましょう。凝った体裁は不要でコンパクトにまとめた方がよいのか、枚数やボリュームはどれくらいがよいのか、グラフなどで加工した見やすい表現が必要なのか、加工しない数値のままでよいのかなどです。

できれば手書きでノートやホワイトボードなどに書いてイメージをすり合わせておくとよいでしょう。

例えば、手順の説明資料を求められた場合、簡単な箇条書きレベルかフロー図レベルか、数値は表とグラフのどちらの表現がよいのかを確認します。当然図解の方が作業時間はかかります。内容と表現は資料作成の工数に大きく影響を与えるため、基準をはっきりしておけば無駄な作業を省くことができます。

〈品質(Q)の確認により工数が変わる〉

ニーズ調査報告の場合
●品質
部内会議での検討レベル

●工数
調査範囲を限定した簡単な調査で済ませる
●品質
経営会議で意思決定するレベル

●工数
しっかりした根拠となりうるデータサンプルを集める
提案プレゼンの場合
●品質
どんな商品があるかがわかればよいレベル

●工数
既存の提案資料をもとに数枚で概要紹介資料を作成
●品質
コンペで意思決定されるくらい詳細なレベル

●工数
導入成功事例や競合他社との比較など強みを訴求する詳細な情報を集める

プレゼンの費用(C)と納期(D)はセットで伝える

次に費用と納期の交渉をします。納期は他の仕事とのバランス、費用は調査費用などのお金がかかるものに加え、どれだけの人手をかけるのかも含まれます。例えば、「明日までに仕上げてほしい」と言われ、納期はずらせない場合には、以下の費用を確認します。

確認事項
・他の仕事を中断してもこのプレゼン準備をしてよいのか?
・長時間の残業をしてでも間に合わせるのか?
・他の人に手伝ってもらうことはOKか?
・調査にお金を使うことは可能か?

これらの確認はそのプレゼン準備にどれだけの費用(=金額と人手)をかけてよいのかという確認です。例えば、有料データを使ってよければ、短時間で精度の高い情報の入手が可能になります。

以前は仕事時間が費用という認識が薄かったと思いますが、長時間労働が見直されている現代では、準備にかける時間を依頼者とすり合わせておくのが基本です。結果的にこれが期待値コントロールになります。

資料の品質や完成度を上げて完璧にすることは大切ですが、無駄な努力にならないように、相手の期待値を3つの点で確認しましょう。

〈費用(C)と納期(D)を交渉する〉

●ニーズ調査報告の場合
【費用のパターン】調査を自前で行う(人数×時給)
【納期】2週間

【費用のパターン】外部のオンライン調査会社を使う(目安10万円程度)
【納期】1週間

【費用のパターン】適用できそうな既存の有料データを使う(目安3万円程度)
【納期】2日

●提案プレゼンの場合
【費用のパターン】現状の仕事と並行して準備する
【納期】3日

【費用のパターン】現状の仕事を中断して準備する
【納期】2日

【費用のパターン】現状の仕事を中断し、同僚にも手伝ってもらう
【納期】1日

相手からの反論を意識しておこう

反論も聞き手分析で考えておく

一生懸命に準備しても反対されずにプレゼンがすっと通ることは稀です。立場の違いからくる反論はあって当たり前と思っておきましょう。大切なのはその反論を「自分へのダメ出し」と捉えないことです。様々な視点による反論はプレゼンテーマへの理解を深める道具です。

とはいえ、プレゼン中に反論に何も答えられないのは困りますよね。一番良いのは、聞き手分析をする際に、相手から言われそうな反論も一緒に予測することです。反論を考えてみましょう。これらの反論を受けてもフリーズせず、きちんと考えた内容であることをアピールする対応が必要です。

〈聞き手の反論を予測して対応を用意しておく〉

結果重視の人の反論
「それで売上はどれくらい見込めるのか?」
⇒「売上については概算ですが最小で◯円、最大で◯円くらいです」
革新性重視の人の反論
「うーん、ありきたりだなあ」
⇒「普及してきていますが、この領域においてはまだ新規性があります」
確実性重視の人の反論
「スケジュールは納期に間に合うのか?」
⇒「関連部門に確認したところ3日間のバッファがあれば吸収可能とのことです」
関係性重視の人の反論
「それは営業部が反対しそうだ」
⇒「個別説明会を実施して理解を得たいと考えています」

「ちゃんと考えたのか?」という意味で聞かれていることも

反論があると自分では反対されたと思ってしまいますが、実は案自体に反対しているわけではない場合もあります。

相手に「きちんと検討したのか?」「しっかりと考えたのか?」という意味で聞かれている場合です。これは提案や企画に対しての熱意や覚悟を問われているとも言えます。

こういう場合にフリーズしてしどろもどろになってしまったら、「やっぱりきちんと考えてないな。ということは、この案はよく練られてないんだな」と受け取られてしまうかもしれません。

このように試されている場合には、相手のそれぞれの反論に対してその場しのぎであれこれと答えるよりも、思い切って不安がある点を伝えて協力を仰いでしまった方が得策です

不安を伝えてみる
・「〇〇の点については私自身不安に感じていたところです。相談に乗っていただけないでしょうか?」
・「〇〇の視点は抜けていました。どのように進めたらよいでしょうか?」
・「この点について、協力していただくとしたらどなたでしょうか?」

こちらの本気度をうかがう反論に対しては、このように、前向きに進める意思を示しつつ、協力を仰ぐのです。反論に対して反論すると、さらに厳しい反論で攻められた挙句「やっぱりダメだな。やり直し」ということにもなりかねません。

反論に備えるということは、あらゆる視点で自分の企画や提案を成功するものにすることにもつながるのです。

話しベタさんでも伝わるプレゼン
清水 久三子
株式会社AND CREATE代表取締役社長。1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、多くの新規事業戦略立案・展開プロジェクトをリード。2005年に当時の社長から命を受け、コンサルティングサービス&SI事業の人材開発部門リーダーとして5000人の人材育成に携わる。2013年に独立。執筆・講演を中心に、年間4冊を超えるビジネス書の執筆や全国での講演・講師活動を行う。2015年6月にワーク・ライフバランス、ダイバーシティの実現支援を使命とする株式会社AND CREATEを設立。ビジネススクールや大手銀行系の研修提供会社で講師をつとめ、創造性と生産性を向上させるスキルアップのプログラムを提供し、高い集客と満足度を得ている。

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