売り手であれば、誰もが会社売却でできる限り多くの利益を得たいと思うだろう。希望の売却価格を実現するためには、企業価値を高く評価するための情報が必要になる。
不相応な価格を提示すれば買い手市場から見放されるだけではなく、経営者としての資質も疑われることになるだろう。いくつかのポイントを押さえれば、会社を高く売ることができる。この記事では、会社を高く売る5つの方法と、M&Aの具体的なやり方について解説する。
【方法1】他社との競争優位性を明確にする
売却価格を引き上げる第1の方法は、他社との競争優位性を明確にすることである。買い手は売り手を買収して得られるメリットが明確でないと、売り手企業を高く評価することはない。
したがって売り手の強みを明確にし、収益の根拠をはっきりさせておく必要がある。この分析は仲介業者が代行することもあるが、売り手自身が自社の経営資源の利点を訴求できなければ、仲介会社や買い手に足元を見られて売却価格を引き下げられるおそれがある。
逆を言えば、エビデンスに裏付けられた事業の競争優位性を適切に説明できれば、高い売却価格を実現できる可能性は高まる。
【方法2】会社の将来性を可視化する
売却価格を引き上げる第2の方法は、会社の将来性を可視化することである。これは方法1にも関連するが、現時点で優位性を明示できたとしても、将来にわたって収益を生み出すビジョンが明確でなければ、買い手は買収後の収益計画を立てられない。
M&Aで提示される情報は複雑なものが多いため、メリットとビジョンを可視化しておくことが交渉においては重要だ。
【方法3】有能な人材がいることを明示する
売却価格を引き上げる第3の方法は、有能な人材がいることを明示することである。事業は、人がいなければ成立しない。優れたシステムを持っていても、それを管理・運営する人間がいなければないのと同じだ。買い手にとって、売り手側で働く従業員の能力は買収における重要な判断材料となる。
買い手は、買収後の効率的な運営を妨げるリスクを持つ売り案件を回避するだろう。売り手として自社の人材に自信があるなら、それを明示することで買い手を安心させることができる。従業員が汎用性の高い能力を持っている場合、買い手が有する事業に参画させることもできるため、売り手の企業価値を上げることができるだろう。
【方法4】手数料が安い仲介業者を選ぶ
売却価格を引き上げる第4の方法は、手数料の安い仲介業者を選択することだ。会社売却で得られる利益は、M&Aによって発生する費用の差額なので、コストを下げれば売却価格は実質的に高くなる。
一般的に、仲介業者に支払う費用体系は契約書によって定められている。業者によって手数料が異なるため、複数の仲介会社にアプローチして手数料を確認すべきだ。
またM&Aを速やかに行うことで、費用を抑えることができる。予算管理を徹底して、効率よくM&Aを進めることが、コストを削減するポイントだ。
【方法5】資金調達コストを最適化する
売却価格を引き上げる第5の方法は、資金調達コストを最適化することである。企業価値を査定するにあたって、債務の内容は極めて重要になる。たとえば利息が高い借入金がある場合は、借り換えをするなどしてコストを下げておくべきだろう。
また、事業の将来性が担保されているならば、新たな投資先を見つけることも有効な手段となる。仲介業者のなかには、テクニカルな観点から売り手の企業価値を高めるために将来的なキャッシュ・フローに見込みがあれば投資家を繋ぎこむといった業務を実行するところもある。これを利用すれば、資金調達コストの最適化をスムーズに行うことができる。
会社を売るための5ステップ
実際に、会社を売るためにはどうすればいいのだろうか。ここでは、大きく5つのステップに分けて会社売却の方法を解説する。
STEP1……M&A仲介会社と契約締結
第1ステップは、M&A仲介会社と契約を締結することである。M&Aには高度な専門知識が必要となるので、自社で単独で行うことは難しい。買い手候補探しは、仲介業者の力を借りたほうが圧倒的に速い。まずは複数の業者に問い合わせて、実際に相談してみるといいだろう。
契約方法には、仲介業者を1社に限定する専任契約と、複数の仲介会社と取引する非専任契約がある。信頼できる仲介業者が見つかった場合は、専任契約を結ぶといいだろう。
STEP2……買い手候補探し
第2ステップは、買い手候補探しである。買い手候補を適切に選定するには、会社売却の目的や条件を詳細かつ明確に設定することが不可欠である。
仲介業者と契約した場合、その担当者が買い手候補をリストアップするのが一般的だ。買い手マーケットとのコネクションは仲介業者の実績から判断するほかないので、特別なメリットがない限り大手のM&A業者を選択したほうがいいだろう。
STEP3……交渉~基本合意
第3のステップは交渉~基本合意である。交渉方法は、大きく分けて2つある。1つは「個別交渉方式」だ。「相対方式」とも呼ばれ、買い手候補を1社に絞って条件が合うまで交渉を続ける方法である。個別交渉方式は買い手とのマッチング率が高い場合は有効だが、交渉が決裂すればゼロからやり直さなければならない。
M&Aの交渉が長引くほど費用負担が大きくなることを考えると、個別交渉方式はそのリスクをはらんでいると言える。
もう1つが「オークション方式」で、買収を希望する複数の業者が入札を行い、最も良い条件を提示した企業が買い手として独占交渉権を獲得する方法だ。「入札方式」や「コンペ・ビット方式」とも呼ばれる。
この方式では、複数の買い手が入札価格を競うため、売却価格が高くなりやすい。ただし、オークション方式で決定された価格にはマーケットの需要が反映されているので、そこからさらに価格交渉を行うことは難しいだろう。
STEP4……デューデリジェンスの実施
第4ステップは、デューデリジェンス(Due Diligence)の実施である。これは、企業価値を評価するために税務・財務・法務・人事・事業などを総合的に調査することで、買い手が売り手の企業価値を評価するために必要な情報となる。デューデリジェンスは専門性の高い業務なので、一般的には仲介会社が担当する。
STEP5……最終契約の締結
最後は、買い手と売り手が互いの条件に納得してM&Aの成約に合意したことを証明する最終契約を取り交わす。最終契約書では、以下の項目が定められる。
1 表明保証条項
表明保証条項とは、売り手が買い手に対して他の債務が存在しないことを保証するものだ。表明保証には、簿外債務や偶発債務などの貸借対照表には記載されない財務上のリスクを防止することで、買い手の利益を保護する目的がある。表明保証をしたにもかかわらず新たな債務が見つかった場合、買い手には損害賠償請求の権利が発生する。ただし、通常であれば表明保証の期間は1~2年程度である。
2 善管注意義務
善管注意義務とは、契約締結日から経営権が譲渡されるまでの間、売り手が企業価値に重大な影響を及ぼす意思決定を行わないことを約束するものだ。賃金水準を大幅に変更したり、取引先との契約関係を見直したりすることなどが、これにあたる。
3 競業避止義務
競業避止義務とは、売り手が買い手に会社の経営権を譲渡した後、一定期間は同業のビジネスに参入することを禁止するものだ。売り手が買い手の競合になることを防ぐ目的がある。
上記の義務は、社会通念上売り手に求められるモラルの最低ラインを示すものと言える。
高値で売却するにはエビデンスが不可欠!
会社の売却価格を高くするためには、ファクトベースの情報が不可欠だ。査定方法には複数の種類があるため、自社に適したものを選定する必要があるだろう。
ただし、査定においては担当者の恣意的な判断が反映されることがあるため、査定ルールを理解するだけでなく、エビデンスをもとに交渉することを徹底すべきだ。
加えて、仲介業者の力を借りて自社の優位性を精査することも大切だ。買い手にとって会社買収はリスクの高い経営判断なので、失敗は決して許されない。交渉のテーブルでは、メリットを具体的に提示するだけではなく、リスクに対するアカウンタビリティを果たしていくことで信頼を獲得できるだろう。
会社を高く売るためには、売り手側による主体的な情報管理が欠かせないのだ。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部