(本記事は、鈴木颯人氏の著書『最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

会話が弾まないときに使える相手の本心の探り方

会話
(画像=Tero Vesalainen/Shutterstock.com)

「打合せ後、すぐ資料を作って提出しますと言ったのに、なかなか上がってこない」

こうしたメンバーの行動に戸惑った経験のある人はたくさんいると思います。

なぜこのような事態が起きてしまうのでしょうか。

それは、「言葉の解釈」が人によって異なるからです。

たとえばあなたがメンバーに資料を「すぐ提出して」と言った場合、相手はその「すぐ」をどんなふうに解釈すると思いますか。5分後を想像する人もいれば、1時間後、あるいは翌日と捉える人もいるかもしれません。

経験上、あなたの言う「すぐ」が「1分以内」だとわかっていれば、メンバーは1分以内に行動しますが、発言者の意図を確認しないまま行動すると、大幅な認識のズレにつながってしまいます

同じように、クライアントから「自由に制作して」と言われて、予算もスケジュールも仕様も全く確認することのないまま、自由に制作する人はいないと思います。

どんな人にも、それぞれ独自の考えがあります。

そのため、言われたことを自分の解釈で受け止めるのではなく、

「この人はどのような意図でその言葉を使っているのだろうか」

という視点を持って接すると、相手の本心が見え、言葉の認識のズレもなくなり、スムーズな関係を築きやすくなります。

言葉の意図を丁寧に確認することは、人間関係を築くうえでの「礼儀」と言っても良いかもしれません。

最初は「いちいち面倒くさい」と思うかもしれません。しかし丁寧に続けることで、認識のズレを防ぎ、トラブルをなくすことができるようになります

私がコーチングを行う際も、相手の「言葉」には細心の注意を払っています。

あるとき、コーチングをしているプロ野球選手のCさんから、「小さなことが気になって仕方がない」という相談を受けたことがあります。

通常、このように言われれば「神経質なのかな」「気が小さいのかな」と受け取って、「なぜ小さなことが気になるのですか?」と聞いてしまいがちです。

しかし、本人は小さなことが気になる原因を探りに来ているのですから、その質問をしたところで、答えは出ません。まずはCさんの言う「小さなこと」が何を意味しているのか、明らかにする必要があります。

そこでCさんに「小さなことって、具体的にどんなことですか?」と尋ねたところ、驚きの回答がありました。Cさんの言う小さなこととは、「毎日の些細なルーティンができていないこと」を指していたのです。そこから悩みを紐解いていったところ、本人も納得したようで、1時間後には笑顔で帰っていきました。

私がもし「Cさんは自分の神経質な性格を気にしているのだろう」と思い込んで質問していたら、Cさんの悩みを解決することはできなかったでしょう。

相手の言葉の裏にある本心を探るには、「それはどういうことですか?」「具体的に言うと何ですか?」といった質問を使って確認することをおすすめします。

意図を一つひとつ確認し続けることで、相手が本当に伝えたいメッセージがつかめるようになります。

または会話が嚙み合わないように感じた時点で、「そもそもどういう意味でその言葉を使っていますか?」と振り出しに戻る質問をすると、会話のズレを未然に防ぐことができます。

二流のリーダーは自分の解釈で話を進める
一流のリーダーは相手の解釈を理解し話す

「リフレーミング」でメンバーに暗示をかける

言葉というのは恐ろしいもので、意図せず相手を傷つけてしまうことがあります。

期待を込めて伝えているつもりでも、相手にとってはプレッシャーとなるケースもあります。

代表的なのが、「期待しているよ」という言葉。

極真空手選手のDさんは、たくさんの期待する声に「期待に応えないといけない」というプレッシャーを感じ、しばらく表彰台から遠ざかっていました。

そのことを知った私はまず、「期待ってどういう意味だと思う?」とDさんに尋ねました。

するとDさんは、「(期待とは)応えなければいけないもの」「期待してもらったエネルギーの分だけ結果として返さなくてはいけない」と、半ば脅迫観念を持って捉えていることに気づきました。

Dさんが、期待という言葉をネガティブに受け止めていることを感じた私は、デジタル大辞泉で「期待」の意味を調べてみました。

そこには「あることが実現するだろうと望みをかけて待ち受けること。当てにして心待ちにすること」という内容が載っていました。私はその内容をDさんに伝えました。そのうえで、

「Dさんを応援してくれる人たちは、Dさんが『きっと良い結果を出せる』と信じて『期待』という言葉を使っているはずです。決してネガティブな意味で使っているわけではないのです。だからこそ、『期待』という言葉を『あなたを信じている証拠の現れ』だと思って受け取ることができたらどうですか?」と提案しました。

するとDさんは、“人の期待に応えるための行動”ではなく、“自分が今なすべき具体的な行動”を紙に書き出しました。そして、自分を信じてくれている人の想いを嚙みしめながら、今やるべきことに全力で意識を向けるようになったのです。

その後Dさんはケガに苦しみながらも、見事、世界大会で優勝を果たしました。

このときに私がしたのは、「リフレーミング」。言葉の捉え方を変える方法です。

相手が発した言葉を、プラスの意味で捉えるのも、マイナスの意味で捉えるのも、その人の受け取り方次第です。仮にある言葉がその人をマイナスの意味で縛っているのなら、正しい意味に基づいて、前向きな形でリフレーミングすることが、良い結果をもたらすこともあるのです。

言葉を発した側には悪気がなくても、受け取り手がその言葉をどう捉えるかは、コントロールすることができません。いくらプラスの意味で発していたとしても、相手がマイナスの意味で捉えているなら、その時点で言葉のギャップが生じています。

「そんなの、受け取る人がネガティブなだけじゃないか」
「そんなことまで気にしていたらやっていけないよ」

そんなふうに思うかもしれません。

たしかに、「相手がどう思うか」ばかり気にしていたら、仕事になりません。

ただ、言葉が人に与える影響は多大です。自分の発した言葉が100%、思惑通りに相手に伝わっているとは限らないことを認識しておいたほうが良いでしょう。

気になる人は、自分がよく使っている言葉を周りの人に聞き、どんな印象を持っているかヒアリングしてみるのも一つの方法です。

あなたがプラスの意味で使っているつもりでも、意外とマイナスの意味で捉えられていることがあるかもしれません。もちろん、その逆もあるはずです。

些細なことではありますが、言葉が人の意識に与える影響は大きい。そう感じるからこそ、言葉の使い方には敏感であろうと私も気をつけています。

二流のリーダーは伝えるだけで満足する
一流のリーダーは「伝えた言葉を相手がどう受け取るか」までこだわる

最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす
鈴木颯人(すずき・はやと)
1983年、イギリス生まれの東京育ち。脳と心の仕組みを学びながら、勝負所で力を発揮させるメソッドを構築。金メダリストから学生アスリートまで、野球、サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、そのコーチングによってパフォーマンスを激変させるアスリート、チームが続出中。スポーツ指導者や選手の親へのコーチングも好評で、「70歳の教え子を昇段させた」など、うれしい報告が続々届いている。15万人を超えるTwitterフォロワーに日々メッセージを発信中。

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