(本記事は、鈴木颯人氏の著書『最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

相手のやる気に火をつける「キラーフレーズ」

ノート術
(画像=AOMCHANI/Shutterstock.com)

相手のイメージ力に訴えてパフォーマンスを上げる方法もあります。

伝え方のコツは、先ほど紹介した「否定語を使わない」に加え、次の2点です。

・具体的であること
・相手と自分の共通点を話題に取り入れること

営業成績で伸び悩む人に「もっと訪問件数を増やしたほうがいい」と伝えても、具体的にどうアクションを起こせば良いか、イメージがわかないと思います。

「具体的であること」を意識すると、少し言い方が変わります。

「訪問件数を今の1.5倍にするにはどうしたらいいと思う?」

このようにリーダーが問いかけることで、言われた側は、何をすべきか、具体的に考え始めることができます。

「相手と自分の共通点を話題に取り入れること」というのは、話す相手との共通の話題を会話に盛り込むということです。趣味や職歴、住んでいる場所、年齢など、共通することなら何でもOKです。

たとえば、なかなか結果を出せなくて悩んでいるメンバーとあなたの間に「ラグビー好き」という共通点があるとします。そしてラグビーの話を引き合いに出し、「今のこの状況、リーチマイケルならどうすると思う?」などと会話のきっかけにします。要は、相手とあなたで共有できる話題を話の“架け橋”とするわけです。

この「共通点を話題にする」効果はあなどれません。

コーチングをしていると、ある特定の言葉で選手のモチベーションが大きく刺激される瞬間に立ち会うことがあります。共通点を話題に取り入れ、会話を進めるうちに、「合言葉」のようなものが出てくるのです。

あるサーフィンの選手は「伝説のサーファー」という言葉で一気にテンションが上がりました。とある射撃の選手は「3回連続オリンピックチャンピオン」という、他の人ならプレッシャーに感じそうな言葉で気持ちが盛り上がるそうです。

メンバーとの対話の中で、ある特定の言葉で相手の目がキラキラと輝いたり、テンションが上がったりする様子が見られれば、その言葉を「キラーフレーズ」とし、折に触れて口に出すようにします。するとメンバーのやる気に一気に火がついたり、頑張る原動力になったりすることがあります。あなたとメンバーの「合言葉」としても機能するようになり、コミュニケーションを円滑にしてくれるはずです。

ちなみに、青山学院大学陸上競技部の原晋監督も、合言葉を利用して選手たちの気持ちを盛り上げています。

原監督の場合は「スローガン」として、「ワクワク大作戦」(2015年)、「神ってるぞ 青山大作戦」(2016年)、「ゴーゴー大作戦」(2019年)など、ユニークな合言葉を設定しています。このスローガンがチーム全体を一丸とさせ、誰もが唸る圧倒的な連覇につながったことは疑うべくもありません。

なお、共有できる話題や合言葉がなかなか見つからない場合は、「時事ネタ」と「ゲーム」の活用をおすすめします。

とくに、どの世代でも把握している時事ニュースや時事ネタは話題の宝庫。今はテレビを観ない人も多いので、SNSで情報を集めると良いでしょう。

おすすめはYouTubeやツイッターの「トレンド」です。とくにツイッターは、検索画面のタブにある「おすすめトレンド」内に、ツイート数の多い内容が表示されています。そこをのぞくだけで、リアルタイムで何が話題になっているか把握でき、会話に活かすことができます。

二流のリーダーは相手がやる気になるのをひたすら待つ
一流のリーダーは相手との共通点を見つけてやる気に火をつける

他人の言葉に振り回されない「1行ノート術」

どれだけリーダーが使う言葉に気をつけていても、誰かの心ない一言でメンバーが傷つくケースもあります。そういったケアをするのもリーダーの腕のみせどころ。

彼らが人の言葉に振り回されることなく、実力を発揮できる方法を紹介します。

ポイントは、「客観的な視点を持ってもらうこと」です。

この視点があれば、きつい言葉を受け取ったときも、ムダに落ち込むことを避けられます。腹の立つことを言われても、内心、冷静に見る感覚が持てます。感情にのまれることも少なくなるでしょう。

客観的な視点を持つことは、メンタルの健康を保つコツとも言えます。

具体的な方法として、1日の終わりに1行だけ、その日あった出来事を書く「1行ノート術」がおすすめです。

アウトプットする内容は、メンバーの状態に合わせて決めます。

「成長したこと」「感謝したこと」「幸せだと感じたこと」など、前向きなテーマが基本になります。書く文字数は、ノート1行分で十分です。

アウトプットするときの注意点は、ここでも「否定語を含む表現を使わない」こと。実はこのノートを書く目的は、「俯瞰する目」を養うことだけではありません。日常的に使う言葉、捉え方を前向きなものにすることも目的の一つ。

前向きな言葉を使い続けることによって脳の無意識に訴え、イメージ力を養うことができるのです。

あるレスリングのS選手は、大学進学をきっかけにレスリングの成績が振るわなくなり、私の元を訪れました。そこから、この「1行ノート術」を開始。

書く内容はお互い話し合って、「成長したこと」にしようと決めました。

S選手は字が大きいのでいつも2〜3行書いていましたが、書いているうちに徐々に自分を肯定できるようになり、コーチングでも前向きな発言が目立つようになりました。その結果、直近で行われた選抜大会で、自身初の3位入賞を果たしました。

私がアドバイスしたのは、否定語になっている表現を「肯定語にするにはどう表現したらいいと思う?」ということくらい。あとはノートに書かれている内容を見ながら「へ〜。タピオカを飲んだんだね」などとうなずいたり、「こんなチャレンジをしたんだね」と、感想を伝えたりしていました。

このように、リーダーがメンバーの書いたものに対し地道にフィードバックすることで、メンバーの日常的に使う言葉が変わってきます。最初は否定語が多くても、だんだん肯定的になり、考え方も徐々に前向きになってくるのです。

言葉の使い方は、イメージトレーニング(イメトレ)の成否にもつながります。

実際、イメトレによってパフォーマンスの向上を図る人もいます。フィギュアスケートの羽生結弦選手やテニスの錦織圭選手などがそうです。

科学的にも、1991年にアメリカのルイジアナ州立大学医学センターで行われた実験や2015年のフランス・リヨン大学での実験などで、イメトレが筋力アップに貢献することが報告されています。いずれも、「筋肉が収縮していること」をイメージした結果、筋力アップが認められたそうです。

このように、スポーツの世界では積極的に活用されているイメトレですが、自己肯定感の低い人や、過去の出来事を引きずりやすい人は、概してイメージすることが苦手です。その原因は、ふだん使っている言葉にあるかもしれません。ネガティブな言葉を使っていると、どうしてもネガティブな結果を引き寄せやすくなります。

そういう意味でも、思い描く結果を手にできていないメンバーには、「1行ノート術」をおすすめします。毎日書いてもらいながら、日常的な言葉の使い方を見直すことで、望む結果を得やすくなるはずです。

二流のリーダーはメンタルのケアまで手が回らない
一流のリーダーはメンタルの根本から前向きにする機会を作る

最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす
鈴木颯人(すずき・はやと)
1983年、イギリス生まれの東京育ち。脳と心の仕組みを学びながら、勝負所で力を発揮させるメソッドを構築。金メダリストから学生アスリートまで、野球、サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、そのコーチングによってパフォーマンスを激変させるアスリート、チームが続出中。スポーツ指導者や選手の親へのコーチングも好評で、「70歳の教え子を昇段させた」など、うれしい報告が続々届いている。15万人を超えるTwitterフォロワーに日々メッセージを発信中。

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