(本記事は、鈴木颯人氏の著書『最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)
秘密の「裏目標」で相手のモチベーションを引き出す
「職場の期待とその先にある個人の期待を探したけど、なかなか見つからない……」
いざ行動を起こしても、こんなふうに悩むことがあるかもしれません。
「希望と違う部署に配属されてしまった」「クリエイティブなことがやりたいけれど、営業で数字を作ることを会社から求められている」など、会社の期待と個人の期待のすり合わせが難しいケースもあるでしょう。
そんなときは、「アメとムチ戦法」がおすすめです。
本人独自の「やる気になる目標」を考えたうえで、「会社から求められる目標」(ムチ)の達成法を考えるのです。
まず、リーダーとメンバーとの間で「裏目標」(アメ)を考えます。
この裏目標は、メンバーの叶えたい目標にします。
会社の期待に関係なく、ワクワクする目標をノートに書き出してもらいましょう。
「○年後に希望の部署に異動する」「半年後に、誰でも参加できるアイデアコンテストで入賞し、希望を叶える足がかりにする」といった仕事に関わる目標もあれば、「1年後に結婚する」「年内に1週間、家族と海外旅行に行く」といったプライベートに関するものでもかまいません。あるフェンシングの選手は、プロ野球の試合で行われる始球式で投げることを裏目標にしています。
本人が考えただけでワクワクする目標であることがポイントです。
「やってみたい」と心から思える目標があれば、すすんで動きたくなるはずです。
裏目標が決まったら、次に、「会社から求められる目標」(ムチ)を達成する方法を一緒に考えます。いきなり「会社の目標をどうやって達成しようか」と言っても、相手はその気になりづらいもの。裏目標が決まって本人がワクワクしているときに「よし、裏目標が決まったところで、会社の目標はどうやって達成しようか」と提案すると、前向きな気持ちで取り組みやすくなります。また、「一緒に考える」という行為を通じてメンバーに「××さんは、自分の希望を応援してくれているんだな」と感じてもらうことができれば、仕事に取り組む姿勢も変わるはずです。
もちろんリーダー自身も、言葉で応援するだけでなく、目標が達成できるよう行動に表すことも大切です。
ある高校のサッカー部のキャプテンは、私とのコーチングで学んだことを仲間にも惜しみなく伝えていました。すると仲間から、私に直接会いたいという声があがったそうです。しかし、チームの監督は外部からの口出しを嫌う人。生徒の親御さんたちにさえ、部の方針に口出しさせないために誓約書を書かせるほどの人でした。
そんな中キャプテンは、監督が休みの日を見計らって、30名の仲間と私のセミナーを受けに来てくれました。その内容が響いたのか、彼らはその後、かつてない活躍を見せるようになりました。数年後、プロサッカー選手になった選手もいます。
セミナーに皆を誘ってくれたキャプテンはその後、監督から怒られたそうですが、それと引き換えに、かけがえのないものを手に入れることができました。仲間からの絶大なる信頼です。メンバーの期待に誠心誠意応えようとしたこと、そしてチームが大きく変わったことが理由であることは言うまでもありません。
このように、折に触れてメンバーが希望する情報を集めたり、希望を叶える姿勢を見せることは大切です。
一緒に働いている間に力になり、関係性を築いておけば、仮にそのメンバーが異動しても、別部署に心強い味方ができることになります。
社内で部署間の垣根なく立ち回れる人材は、上層部からも重宝されるはず。「人脈作り」という意味でも、メンバーの本当の希望を叶えようとする努力は決してムダにはなりません。むしろ、何らかの形で必ず実を結ぶことでしょう。
私がサポートしているゴルフ選手にRさんという人がいます。Rさんは、親からの期待を一心に受け、プレイしていました。
ところがRさんは、ゴルフに対し、モチベーションが高まらないという悩みも持っていました。ゴルフの腕前については高校時代から素晴らしい成績を残していたものの、本人はずっと前から競輪選手になりたいという夢を持っていました。Rさんのおじいさんが競輪選手ということもあり、密かにずっと憧れていたのです。
コーチングでRさんの本心を確認した私は、本人が本当に叶えたい目標を設定しました。メディアにはゴルフでの目標を語り、私とのコーチングの場では、競輪選手になる夢を叶えるためにどうすれば良いか、一緒に考えるようにしたのです。
まだ夢の実現には至っていませんが、Rさんは、ゴルフに対して良いモチベーションで向き合えるようになったと話してくれています。
異動や出向など、職場の会社が、個人の意思や希望を無視した決定を下すことは珍しくありません。リーダーも忙しいので、会社の決定事項をそのままメンバーに伝えて、自分の仕事に専念したいという気持ちもわかります。
しかし、メンバーを助けることは、将来の自分を助けることでもあります。
社内に「味方」を作ることにもつながります。
“将来の種まき”と捉えて、メンバーの声に寄り添ってみてほしいと思います。
二流のリーダーは会社の目標達成に固執する 一流のリーダーは会社の目標+個人の目標達成に尽力する
相手のパフォーマンスが劇的に上がる“正しい”期待のしかた
相手に対する期待と結果に「ギャップ」があると、人は怒りを感じやすくなると伝えましたが、“正しく”期待する方法を身につければ、怒りを感じづらくなるどころか、相手のパフォーマンスを劇的に上げ、良好な関係性を築くことができます。
期待することで相手のパフォーマンスを上げた事例があります。
1964年、心理学者のロバート・ローゼンタールは、サンフランシスコの小学校の生徒向けにあるテストを行いました。教師には事前に、(今から行うテストは)今後成績が伸びてくる子どもを割り出すためのテストであると伝えていました。
テスト終了後、「今後成績が伸びると思われる子ども」を無作為に選んでリスト化し、その教師に見せました。そして、教師がリストに名前がある生徒に期待を持って接したところ、該当する子どもたちの成績が向上したのです。
教師が「期待」を込めて生徒と接し、その生徒が「その期待に応えたい」と感じたことが、このような結果を生んだと考えられています。
期待された通りに成果を出す傾向があることを、教育心理学では「ピグマリオン効果」や「教師期待効果」と呼んでいます。
このピグマリオン効果の反対現象が「ゴーレム効果」です。
相手に対して期待していなかったり、無関心だったりすると、相手は良い結果を出すことができないという内容です。
では実際に、どのように期待すれば、メンバーのパフォーマンスを上げることができるのでしょうか。
一つは「いつもと違う行動を取ること」です。
ふだんから同じ行動を取り、チームとして成果が出ていれば問題ないのですが、そうでないと、メンバーの、リーダーに対する期待値は低くなりがちです。
そこで、あえていつもと違う行動を取ることで、リーダーが皆に期待し、チームを良くしようとしている気持ちを表現するのです。
「期待」をうまく利用し、選手の圧倒的なパフォーマンスを引き出すのに長けている指導者に、北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督がいます。
日本のプロ野球では、ピッチャーの先発予告は数日前に行うのが一般的です。
しかし同監督は、2019年、予想外の行動に出ました。キャンプ中に、エースである上沢直之選手に先発を打診。さらに開幕戦の2週間以上も前に、マスコミに公表したのです。これが功を奏し、オリックス・バファローズとの初戦に7対3で勝利。引き分けを挟んで2連勝しました。
また同年6月には、入団する前年、その闘志で甲子園を沸かせながら、二軍でなかなか結果を出せていなかった吉田輝星投手を交流戦に登板させることを1週間前に発表。吉田選手は見事、1年前のセ・リーグ覇者である広島東洋カープ相手にプロ初先発で初勝利を収め、ファンを驚愕させました。
このような采配が周囲を驚かせる成果に結びついた要因の一つは、選手自身の努力はもちろん、監督が選手への「期待」をうまく利用したこともあると考えます。
各球団が、選手の調子を見ながら先発投手の見極めをしようとしている段階で、開幕戦の2週間以上も前に上沢選手に先発をお願いしたいと伝えることで、栗山監督の「あなたを信じているから頑張ってほしい」というメッセージと強い覚悟が伝わります。
いつもと違うタイミングで仕事を依頼したり、今までにない仕事を依頼したりすると、相手も「リーダーが何だかいつもと違うな」という変化を感じ取ります。さらにリーダーが前向きな言葉を投げかけることで、「期待してくれているのかも」「期待に応えたい」と感じ、パフォーマンスが上がる可能性が高まります。
ふだんの接し方ではメンバーに変化がないと感じるときに、ぜひ試してほしいと思います。
二流のリーダーはいつもと同じ接し方を貫く 一流のリーダーはいつもと違う接し方で“期待”を表す
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