筆者はファンドマネージャーとして日本企業に限らず、欧米の企業経営者との直接面談を数多くこなしてきた。その上で、外資系プライベートバンクのISSヘッド(インベストメント・ソリューションズ・スペシャリスト)時代には投資家としての顔の起業家に対し「どんな商品を提案するのがベスト・ソリューションか?」を考えるチームを率いた経験がある。つまり、20年以上にわたり起業家(アントレプレナー)の「経営者の顔」と「投資家の顔」をつぶさに見てきた。

そこで、今回は少々趣を変えて、起業家として成功するタイプの投資信託の選び方について、筆者の経験から考えてみたい。投資初心者はもちろんのこと、起業を志している人、或いは起業家をお客様に持つ金融パーソンの日常業務の何らかのヒントになればと思う。

投資家の投資特性は多種多様だ

起業,成功
(画像=everything possible / shutterstock, ZUU online)

今までも何度かお伝えしてきた通り、投資家の投資特性は多種多様、ひとつとして同じ答えとなるものは無い。にもかかわらず、一般的に金融機関のリテール営業の現場では、本部が決めた「主力(或いは注力)商品」を満遍なくお客様にセールスしてしまう。

だが、流石にプライベートバンクやウェルスマネージメントと呼ばれる部署ではそこまで露骨に吊るしのスーツを販売するような合理化はしない。何故なら、一件々々のロットが大きいので、当然収益も大きく、より丁寧な対応をしても、充分にコストに見合うからだ。

先日報道されたゴールドマン・サックスが日本の富裕層ビジネスに参入する計画の狙いは、極めて単純にこの算数だけで説明がつく。

とはいえ、富裕層ビジネスはそう簡単ではない。何故なら、成約となれば大きな収益になる取引は、逆に成約を逸すれば大きな損失となるからだ。他行、他社にお客様の取引を持って行かれないように、各金融機関は知恵を絞りまくる。ダブルのスーツしか着ない富裕層に、もし「最新流行のスーツです」とシングルのスーツを提案したら、もしかすると二度と玄関をくぐれなくなるかも知れないぐらい厳しい世界でもある。

だからこそ、富裕層ビジネスになればなるほど、その投資家の投資特性分析は極めて重要になる。どんピシャリの提案を一発で当てない限り、そう簡単にリベンジの機会は無い。だが投資家の投資特性は十人十色、100人の富裕層がいたら100通りの投資特性がある。

起業家の投資特性の典型的な例

ちなみに、富裕層が財を成した背景も様々である。相続だったり、先祖代々の土地売却だったり、宝くじの当選者なども居る。その中で起業家は自らビジネスを興し、会社を大きくし、一代で巨万の富を作り上げた人ということになる。起業家は「ビジネスで大成功した人」だ。

たとえばAmazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏を描いた『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP)等を読んだ人は容易に想像出来ると思われるが、成功者がその位置に辿り着くまでには、途方もない苦労や失敗の積み重ねがあり、驚愕するほどの努力の結果が今をつくっている。こうして成功した起業家の投資特性には、共通する傾向が三つある。これは筆者が経験上感じているものでもあるし、ある統計データもそれをきちんと証明している。