徹底した情報共有で、「その人にしかできない仕事」をなくす

サイボウズ,青野慶久
(画像=THE21オンライン)

グループウェアの開発や販売を通じて、組織や社員の働き方改革を支援しているサイボウズ。同社では、一人ひとりの社員が多様で自由な働き方ができる組織作りを行なっている。実際に、社長の青野慶久氏は、これまで3児の父として3度の育児休暇を取得した。時間に縛られない自由な働き方を実現するために、組織はこれからどうあるべきか。

取材構成:長谷川 敦

3人の子供の子育てが仕事のやり方を変えた

青野慶久氏は、サイボウズの経営者を務めながら、3児の父親として、仕事と育児の両立を実践している。「仕事が中心」という経営者が多い中で、異色の存在だ。

「私も以前は仕事中心の生活を送っていました。でも、子供が増えていくにつれ、仕事に割ける時間が次第に圧迫されてきました。特に大変だったのは、子供が6歳、3歳、1歳だった3年ほど前のこと。

夫婦2人でも、手に負えないくらいでした。そのため、仕事の効率化を図らざるを得なかったのです。

そこで、私が活用しているのが当社のグループウェアです。グループウェア上に『青野慶久からの無茶ぶり』というスペースを設けて、『誰かに任せたい』と思った仕事は、他の社員にどんどん任せています。

具体的には、『この人が適任だから、この人に任せたい』と思える社員に読んでもらえるように@マークをつけて、『よろしく』とメッセージを送ります。

ただし、そのメッセージは、すべての社員が共有で読むことができるので、私が頼みたいと思っていた社員が仕事を受けられなくても、『それ、自分ができます』と、誰か他の社員が引き受けることができます。

仮に、これをメールでやろうとすると、Aさんに仕事を任せようとしたが断られ、Bさんにも断られ、やっとCさんが受けてくれるといたやりとりが生じる可能性があり、とても非効率です。その点グループウェアであれば、短い時間で適任者が見つかります」

やりかけの仕事も誰かが拾ってくれる!?

サイボウズの中で他の社員に仕事を任せているのは、青野氏だけではない。同社では全社的にグループウェアを通じて、ワークシェアを進めている。

「いわばグループウェアは、オフィスの中に設置した掲示板のようなものです。掲示板には、『○○の案件ができる人を求む』といった書き込みがされている付箋紙が貼られていて、社員は付箋紙を見ながら、自分がやりたい仕事を取っていく――そんなイメージです。

今日は時短で夕方4時に帰らなくてはいけないという人は、1枚しか付箋を取れませんし、その日はフルタイムでバリバリ働けるという人は、2枚でも3枚でも取ればいい。

状況に合わせて、仕事の量や内容を自己判断で選べるわけです。もちろん、バリバリ仕事をする人はそのぶん評価されます。

ただ、自ら手を挙げて受けた仕事でも、急に発生した家庭の事情などで、どうしても完遂できないのならば、他の社員に引き継いでもらってもOKです。情報はすべてグループウェア上で共有されていますから、スムーズに引き継ぐことができます。

これがもし『この仕事はあの人の担当』というように、属人的な仕事だったら、その人は自分の仕事が終わるまで家に帰ることができなくなってしまいます。

しかし、サイボウズでは皆に仕事が共有されているから、社長でも育児で忙しいときには、誰かに任せて時短で帰ることができるのです」

やりかけの仕事を誰かに任せることに不安はないのだろうか。

「情報がオープンになって共有化されていれば、本当に心配ならその人がどう仕事を進めているか、確認することもできます。それに、代わりに仕事を受けた人も、心配になればすぐに相談できますから、仕事を任せた人からアドバイスがもらえます」

仕事の状況をつぶやく「分報」でフォローし合う

サイボウズには、社員が分単位で仕事の状況をつぶやける『日報』ならぬ『分報』がある。

「『今こんな仕事に取り組んでいるんだけど、こういう課題に直面していて難航している』と誰かがつぶやくと、『そこはこうするといいですよ』とか、『その部分は私が手伝いましょうか』といったフォローが誰かから返ってきます。

課題を共有することで、一人で仕事を抱え込まず、みんなで助け合える仕組みができています。だから安心して仕事を頼めるし、引き受けられるのです」

なぜ、ここまで、それぞれが自律的な働き方をする組織作りができるのだろうか。

「徹底して情報を共有化しているからです。サイボウズでは、一部の社員だけが知っている情報も、経営陣だけが知っている情報もありません。

よく、『経営者目線で仕事をせよ』と語る方がいますが、そのためには経営陣が持ちうる情報も公開しなければ、フェアではありません。経営者と社員の間の情報格差は、組織の分断を生むだけです。

でも、情報をオープンにコミュニケーションすれば、一人ひとりが役割を意識し、自ずとチームワークを高める働き方が実現できるのです。これが結果的に生産性向上につながっているのかもしれません」

サイボウズでは、会議もすべてオープンになっていて、誰でも参加できる。終了後には議事録が即時公開され、会議に出席できなかった人も、その内容を知ることができるという。

「ただし、もしその会議でなされた意思決定に疑問を抱いたときには、意見を表明しなくてはならないという条件を徹底しています。当然私も、疑問を抱いたときにはその場にいなくても発言をします。

ですから、意思決定の場に参加できなかったとしても、コミットをまったくしないというわけではありません」

「社長にしかできない仕事」なんてない!

青野氏自身、仕事を社員にどんどん任せながら、社長としてやるべき仕事に専心している。

「正確には、自分がやりたい仕事や、社長がやったほうが効果的な仕事を選んでやっている感じですね。

例えば、部門をまたがった意思決定が必要な案件については、私のように組織全体についての知識を持っている人間のほうが、精度の高い判断ができます。

あとは広報活動のような仕事についても、『社長』という肩書きがついた人間が出てきて話をしたほうが、皆さんも話を聞いてくれることがあります。だから、できるだけ私が引き受けるようにしています。

ただし、この二つにしても、私がしたほうがいいかもしれないが、私でなくてもできるものです。

私のところに来た講演依頼でも、「ちょっと空いていないので、○○さんよろしく」と頼むことがよくありますし、部門を越えた意思決定にしても、たまたま私がその日会社にいなければ、副社長や役員が代わりにやれば良い。そのほうが、効率的です」

「社長がやったほうが良い仕事はできるだけ受けるが、それもできないときは権限を委譲する」と断言する青野氏。しかし会社には、「社長にしかできない仕事」というのが、本来あるのではないだろうか。

「うーん、ないんじゃないかな(笑)。そもそも社長という役職が本当に必要なのかも、疑ってかかったほうがいいと思います。

今年サイボウズの開発部では、部長という役職を廃止しました。『部があることが、かえって仕事を進めていくうえでのボトルネックになっていないか?』という議論が巻き起こり、部を廃止してプロジェクト制に移行することにしたんです。

これはけっして部を否定しているわけではありません。『やっぱり部のほうが仕事はやりやすいよね』ということになったら、また元の体制に戻すと思います。 

大切なのは今ある組織体制や、それぞれのポジションに割り当てられている役割を当たり前のものと思わないことです。疑ってみるところから、新しい組織のスタイルや生産性向上の糸口が見えてきます。

苦手なことを抱え込んで一人で悩む時間はムダ

サイボウズの組織の特徴を一言で表わせば、「チームワークで成果を挙げることを目指す」と言えるだろう。

「一人で仕事を抱え込んで悩むことほど、何時間もムダな時間を過ごし、もったいないことはありません。しかもそれで成果が出るとは限らず、精神的にもその人を追い込んでしまうことになります。

だったら困ったときには、『困った』とすぐに声を挙げることができて、誰かそれが得意な人が『それは私に任せて』と頼める組織にしたほうが、断然良いですよね。

助けられたほうには感謝の気持ちが、助けたほうには他者に貢献できたという気持ちが生まれますので、組織としてのモチベーションも上がります。『これは私に与えられた仕事だから』といって、苦手なことに無理して取り組む必要はないんです。

組織としての生産性を上げようと思ったら、それぞれのメンバーが『得意な仕事』や『やりたい仕事』に集中できる体制にしたほうがいい。今はグループウェアによって、そのマッチングが容易になっています。

『そんなので仕事が回るのか』という意見もあるかもしれません。でも、社内で誰もやりたがらない仕事があったとしたら、そんな仕事はやめてもいいと思っています。それでもやらなければ経営が成り立たない仕事については、アウトソースするという選択肢もあります。

これからの時代は、自立した個人が好きな仕事をやっている組織を目指すべき。私はそう考えています」

青野慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ代表取締役社長
1971年、愛媛県生まれ。1997年にサイボウズを設立。2005年4月に代表取締役社長に就任。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーや一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。著書に『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など。(『THE21オンライン』2019年12月19日 公開)

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