(本記事は、一般社団法人金融財政事情研究会の編集『イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)
社会経済環境の変化
第4次産業革命は、あらゆるモノがインターネットでつながり、そこで収集・蓄積されるさまざまなデータ(いわゆるビッグデータ)を、人工知能を使って解析し、新たな製品・サービスの開発につなげるものである。
「日本経済2016―2017」(内閣府)は、第4次産業革命の進展により、個人のニーズにあった財やサービスを必要なときに必要なだけ消費することが可能になるとして、シェアリングサービス(財や資産を所有せずに好きなときにレンタルして利用)、デジタル・エコノミーの進展によるネット上でのコンテンツ提供(好きなときに好きなだけコンテンツを楽しむ)などの例をあげている。
第4次産業革命では、インターネット接続機器でもあり、膨大なデータを生成するスマートフォンが重要な役割を果たす。図表2はスマホ関連サービス・アプリの変遷である。
スマートフォンの普及にあわせてSNSの利用も急増してきた。「平成29年版情報通信白書」(総務省)では、SNSはコミュニケーションツールにとどまらず他のサービスにおける活用や他のサービスとの連携も行われているとし、マーケティングでの活用や、FinTech、シェアリングサービスなどの事例をあげている。また、スマートフォン利用が消費に及ぼす影響について、次の2点をあげている。
①直接効果......スマートフォンを、商品やサービスの購入手続や予約を行うための端末として利用することによる消費促進効果。
②間接効果......スマートフォンによる情報収集が消費に及ぼす影響(需要を喚起する効果)。
こうした状況のなか、口コミや、インフルエンサーと呼ばれる存在が重視されるようになっている。図表3は、商品やサービスを検討するときの口コミの参考状況である。
また、「平成28年度消費生活に関する意識調査結果報告書(2017年7月)」(消費者庁)によると、SNSからの情報をきっかけとした商品の購入やサービスの利用についての回答(複数回答)では、「SNS上の情報がきっかけで買物をしたことはない」が31.9%で最も多いものの、「友達がアップやシェアをした情報」が27.8%、「お店やメーカーの公式アカウントがアップやシェアをした情報」が26.2%である。また、「芸能人や有名人がアップやシェアをした情報」も19.9%となっている。
芸能人や著名人だけでなく、有名なYouTuberやブロガー、特定の分野(コミュニティー)で強い影響力や多くのフォロワーをもつ人物などはインフルエンサー(他者の意思決定や購買行動などに強い影響を及ぼす存在)と呼ばれる。インフルエンサーに、企業や商品・サービスなどへの興味・関心を喚起したり、好印象を与える情報などを拡散してもらい、取引先(BtoB)や消費者(BtoC)の行動に影響を与えるマーケティング手法が「インフルエンサーマーケティング」である。
BtoCでは、消費者に購入してもらう目的だけでなく、商品・サービス情報の拡散、話題性や認知の向上、ブランディングなども含めてPR活動を行うが、特に重要となるのが「いかに消費者の“共感”や“信頼”を得るか」という点である。
働き方・生き方の多様化が生み出す消費のかたち
働き方改革やワークライフバランスの改善などにより自由時間が増えることで、買い物、旅行、スポーツ、レジャー、イベント、習い事、学習(資格取得・スキルアップなど)などで消費拡大が期待できる。また、現在は主にインバウンド向けに推進されているナイトタイムエコノミーでも消費拡大の可能性が見込める。具体的にはグルメ、ショッピング、各種エンターテインメント、ショー、ライブ、バー、クラブなどのほか、美術館・博物館などの文化施設、自然資源巡り(ナイトクルーズなど)、街をあげてのイベントなどがある。
一方、高齢者の消費動向が個人消費全体に及ぼす影響は今後ますます大きくなると予想される。年齢別の消費傾向について、内閣府の「平成29年度年次経済財政報告」は、「70歳代では、家事サービスや医薬品など保健・医療への出費が多くなっている一方、書籍や交際費の支出も多くなっており、教養への関心の高さやいわゆる「アクティブシニア」の存在感が確認できる」と指摘している。アクティブシニアの消費傾向をみると、旅行、趣味・教養、健康の維持・増進、交際などの支出割合が高いといわれる。とはいえ、高齢者においては、年金などに対する経済的な不安や、病気や介護に対する不安などから消費が抑制されやすく、今後も活発な消費が続くとは言いがたい状況もある。
高齢者のネット消費については、「平成30年度年次経済財政報告」では、今後、高齢者のITスキル向上や、ITスキルを職場等で使っている現役世代の高齢化が進めば、高齢世帯でもインターネットを利用した消費活動がより増加していく可能性が考えられると述べている。
社会的課題への関心とエシカル消費
情報通信技術の高度化により、消費者がさまざまな情報を容易に入手できるようになったこともあり、人や社会、環境、地域に対して高い関心をもつ消費者が増加している。それとともに、地球環境問題、人権、生物多様性、開発途上国の労働者の生活改善、被災地支援などに配慮し、よりよい社会の形成を目指す「エシカル消費」(倫理的消費)の動きも拡大している。図表4は、エシカル消費の具体例(一部)である。なお、消費者基本計画(2015年3月24日閣議決定)は、持続可能なライフスタイルへの理解を促進するため、消費者庁において、倫理的消費等に関する調査研究を実施すると規定している。
消費と産業構造の行方
経済産業省の「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)報告書(2017年3月)」は、2030年の消費経済市場に社会的に大きなインパクトを与える変化の兆しとともに、消費経済市場における特徴的な消費行動を示している(図表5)。
具体的には、自律的消費、他律的消費、偶発的消費の3タイプであるが、その他の消費者像(消費行動のタイプ)として「ものよりコト」「機能よりストーリー」を、サービス像として「付加価値/体験価値の提供」「VRを活用したサービス」などをあげている。
第4次産業革命が消費に与える影響も大きい。「平成30年度年次経済財政報告」(内閣府)では、従来、消費者はバリューチェーンのうち最終段階の小売でしか企業を選択する余地がなかったが、電子コンテンツなどのサービスでは、消費者は端末、通信契約、OS・アプリ、コンテンツストアといったそれぞれの段階で複数の選択肢から好みの機器やサービスを選ぶことができる(レイヤー構造)とし、こうしたレイヤー構造化は第4次産業革命によって、自動車産業など従来の産業へも広がりつつあると指摘している。インターネットによってさまざまなものがつながることで、今後、分野の壁が低くなり、異業種間の競争が激しくなることが予想されるが、さらに、業種の境界そのものがあいまいになっていく可能性もある。
情報通信分野での技術革新は消費の動向を左右するだけではなく、産業構造そのものを変化させる。次々と生み出される新しい市場は、既存の市場や事業を圧迫したり、脅威となりうる一方で、両者がつながって補完・強化しあうことで、新たな需要を喚起するなどさらなる発展も期待できる。