(本記事は、一般社団法人金融財政事情研究会の編集『イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)

社会経済環境の変化

五輪後,東京,姿
(画像=dreamstory/Shutterstock.com)

日本経済は、高度成長期から安定成長期を経て、バブル崩壊後の低成長が続くなか、現在は成熟期に入っているといわれる。成熟社会では、人口の減少、人口ボーナスの消滅、家計貯蓄率の低下などにより、社会経済基盤が変容し、高度経済成長期のような量的拡大は見込めない。所得や消費が右肩上がりを続けることは不可能となり、経済成長率も鈍化あるいは低下する傾向にある。

また、日本は2005年頃から人口減少社会に転じたといわれる。今後はさらに人口減少が進み、超高齢社会となることが確実視される。加えてグローバル化の影響などもあり、社会や経済のさまざまな面で大きな変化が続くと考えられる。こうした変化のうち、消費のあり方にも大きな影響を与えると考えられるものには、①産業構造の変化、②経済成長率の鈍化・低下、個人消費の減少、③グローバル化、④情報通信などの技術革新、⑤就労形態・働き方の多様化、などがある。

また、核家族化、単身世帯・夫婦のみ世帯の割合増加、世帯数の減少、婚姻率の低下、晩婚・晩産の増加といった“家族のあり方”の変化も重要である。近年は、高齢者層以外でも単身世帯が増加しており、日用品、中食・外食、娯楽・レジャー、旅行などの分野を中心に単身者向けの商品・サービスも増えている。ひとりカラオケ、ひとり焼肉、ひとりクルーズ、ひとりウエディングなど、「おひとりさま市場」は幅広い分野に拡大しつつあり、この傾向は今後も続くと予想される。

「平成29年度年次経済財政報告」(内閣府)は、「近年のスマートフォンの普及やICTの革新、都市化、単身化や高齢化といった世帯の構造変化は我が国の個人消費の構造を大きく変えている」とし、実店舗での販売からインターネットを通じた販売へのシフト(ネット消費の拡大)も続いている、と指摘している。これは技術革新により実現したものであるが、女性の社会進出、買い物に時間をあまりかけられない共働き世帯や、移動手段に制約がある高齢世帯の増加も大きな要因となっている。また、こうした状況を背景に、今後、家事代行業、保育サービス、生鮮品・日用品のネット宅配サービス、惣菜や持帰り弁当などの調理済食品や外食などの分野でもさらなる消費拡大が見込まれる。

個人の意識の変化と価値観の多様化

人生100年時代,定年,雇用の延長
(画像=Jacob Lund/Shutterstock.com)

社会経済環境が変化するなかで、個人の意識も大きく変わりつつある。その1つが、“豊かさ”や“幸福”に対する意識の変化である。内閣府の調査によると、心の豊かさに重きを置きたいとする人の割合が、物の豊かさを重視する人の割合を超えたのは1970年代後半であり、以来、一貫して心の豊かさを重視する人が上回っている。「「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)報告書(2017年3月)」(経済産業省)では、「1980年以降、人はモノの豊かさよりも心の豊かさに重きをおいた生活を送りたいという傾向が強まっており、ものを多く所有することが生活の豊かさではないという価値観に変わってきている」と指摘している。これは、“所有する価値(モノ)”から“利用・体験する価値(コト)”への移行を意味するが、こうした意識の変化は、所有する資産をシェアする「シェアリングエコノミー」にも通ずるものである。

経済成長や物質的な豊かさが必ずしも幸福に結びついていないという考え方が広がるなか、精神的な豊かさや質的成長が重視され、“絆”や“つながり”など経済指標では測れない価値を重視する傾向も強まっている。

こうした意識の変化や人口減少、人生100年時代の到来などを背景に、近年は働き方や生き方にも大きな変化がみられ、多様化が進んでいる(図表1)。

図表1
(画像=イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020)

所有(モノ)から利用・体験(コト)へ

アップル
(画像=Getty Images)

消費者の価値観の変化や技術革新、サービス経済の進展などによって、モノを所有するのではなく、必要なときだけ利用するという消費スタイルがさまざまな分野に広がっている。代表的な例として、サブスクリプション(定額制)がある。これは、商品・サービスの利用期間や回数に対して対価(定額)を支払うものであり、音楽、映画、動画、電子書籍、ソフト、システムなどデジタル系の分野だけではなく、車、自転車、アパレル、家具、住居など幅広い分野に拡大している。最近は、コーヒーなど飲食分野でも多くみられる。

また、「平成29年版情報通信白書」(総務省)では、シェアリングエコノミー(共有型経済)やソーシャルメディア、クラウドファンディング等の例をあげ、インターネットの普及により「つながる経済」が進展していると指摘し、「いつ、どこで誰が商品を使ったかを把握して細かく管理・課金する形態や、売り切り型ではなく多様な貸与・利用許可型ビジネス(いわゆる「モノ」から「コト」へ)の潮流を生んでいる」としている。

コト消費とは、購入したモノやサービスによって得られる経験や体験に価値を見出す消費行動のことで、「体験型消費」と呼ばれることもある。コト消費は、ある特定の世代に限ったものではなく、幅広い世代にみられる。ただし、特にその傾向が顕著なのは若者である。消費者庁の「平成29年版消費者白書」は、コト消費の傾向は、デジタルネイティブと呼ばれる世代に当たる若者の消費行動において、他の年齢層より強く表れるとみることができるとし、その背景の1つとして、「情報化の進展によりデジタル化されたコンテンツが複製によって簡単に手に入るようになり、モノを所有することの意義が低下する、また、デジタル化されていない情報やコンテンツの価値が相対的に高まるという影響が生じたことなど」も考えられると述べている。

コト消費の拡大

ミスターラグビー,平尾誠二,人心掌握術
(画像=PIXTA)

コト消費では、“いま、ここでしか経験できない”“いま、ここでしか味わえない”コト、すなわち体験や時間が重要となる。代表的なものには、観光(旅行)、スポーツ観戦、レジャー・イベント、映画、コンサート・ライブ、交際(飲食を含む)などがある。また、コト消費に対する需要の高まりを受けて、商品・サービスと体験を結びつけることで消費の拡大につなげようとする動きが産業界全体に広がっている。

なお、コト消費に対しては、次のような分野でも大きな効果が期待されている。

①地域経済活性化......経済産業省は「コト消費空間づくり研究会」を設置し、報告書(2015年9月)を公表している。

②インバウンド(訪日外国人旅行者)......政府は、訪日外国人旅行者数などの数値目標を設定している。コト消費は、こうした目標を実現するためのカギとして、期待されている。

③製造業......総務省の「平成25年版情報通信白書」では、「昨今、「コトづくり」が産業界復活のキーワードとして取り上げられることが多くなってきている」とし、その背景として「商品の価値はモノ自体の機能にあるというよりも、モノに付随するサービスや、ユーザーがモノの新しい利用体験を作り出すことが価値だとみなされている場合が多い」としている。

デジタル経済の進展と新しい消費スタイル

フリマアプリ,手数料,比較
(画像=PIXTA)

「平成29年度年次経済財政報告」(内閣府)は、デジタル経済を「デジタル化された財・サービス、情報、金銭などがインターネットを介して、個人・企業間で流通する経済」と定義し、デジタル経済の発展によって従来の消費のあり方が変化し、インターネットを通じた個人間での取引(シェアリングエコノミーなど)、無料または低価格のサービス提供など、経済価値の測定が困難な財やサービスが出現しつつある、と指摘している。

無料または低価格のサービス提供については、音楽業界を例にあげ、インターネット無料動画サービスとスマートフォンの普及によって、旧来のCD等の音楽媒体に対する需要(「モノ消費」)は縮小しているが、これにかわりアーティストの演奏を生で聞くという体験型の消費活動(「コト消費」)が増加し、最近では「コト消費」が「モノ消費」を上回りつつある、としている。

インターネットへの接続が容易になったことで、ネット消費は年々増加している。経済産業省の「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書(平成31年5月)」によると、2018年における国内BtoC-EC市場規模は17兆9,845億円(前年比8.96%増)、その内訳は物販系9兆2,992億円(前年比8.12%増)、サービス系6兆6,471億円(前年比11.59%増)、デジタル系2兆382億円(前年比4.64%増)である。一方、国内CtoC-EC市場をみると、2018年のフリマアプリの推定市場規模は6,392億円、ネットオークションの推定市場規模は1兆133億円となっている。フリマアプリについては、“売ることを前提とした買い物”という新しい消費スタイルを確立しつつある、と指摘している。

第4次産業革命とスマートフォン経済

スマホ決済
(画像=Getty Images)

第4次産業革命は、あらゆるモノがインターネットでつながり、そこで収集・蓄積されるさまざまなデータ(いわゆるビッグデータ)を、人工知能を使って解析し、新たな製品・サービスの開発につなげるものである。

「日本経済2016―2017」(内閣府)は、第4次産業革命の進展により、個人のニーズにあった財やサービスを必要なときに必要なだけ消費することが可能になるとして、シェアリングサービス(財や資産を所有せずに好きなときにレンタルして利用)、デジタル・エコノミーの進展によるネット上でのコンテンツ提供(好きなときに好きなだけコンテンツを楽しむ)などの例をあげている。

第4次産業革命では、インターネット接続機器でもあり、膨大なデータを生成するスマートフォンが重要な役割を果たす。図表2はスマホ関連サービス・アプリの変遷である。

図表2
(画像=イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020)

スマートフォンの普及にあわせてSNSの利用も急増してきた。「平成29年版情報通信白書」(総務省)では、SNSはコミュニケーションツールにとどまらず他のサービスにおける活用や他のサービスとの連携も行われているとし、マーケティングでの活用や、FinTech、シェアリングサービスなどの事例をあげている。また、スマートフォン利用が消費に及ぼす影響について、次の2点をあげている。

①直接効果......スマートフォンを、商品やサービスの購入手続や予約を行うための端末として利用することによる消費促進効果。
②間接効果......スマートフォンによる情報収集が消費に及ぼす影響(需要を喚起する効果)。

こうした状況のなか、口コミや、インフルエンサーと呼ばれる存在が重視されるようになっている。図表3は、商品やサービスを検討するときの口コミの参考状況である。

図表3
(画像=イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020)

また、「平成28年度消費生活に関する意識調査結果報告書(2017年7月)」(消費者庁)によると、SNSからの情報をきっかけとした商品の購入やサービスの利用についての回答(複数回答)では、「SNS上の情報がきっかけで買物をしたことはない」が31.9%で最も多いものの、「友達がアップやシェアをした情報」が27.8%、「お店やメーカーの公式アカウントがアップやシェアをした情報」が26.2%である。また、「芸能人や有名人がアップやシェアをした情報」も19.9%となっている。

芸能人や著名人だけでなく、有名なYouTuberやブロガー、特定の分野(コミュニティー)で強い影響力や多くのフォロワーをもつ人物などはインフルエンサー(他者の意思決定や購買行動などに強い影響を及ぼす存在)と呼ばれる。インフルエンサーに、企業や商品・サービスなどへの興味・関心を喚起したり、好印象を与える情報などを拡散してもらい、取引先(BtoB)や消費者(BtoC)の行動に影響を与えるマーケティング手法が「インフルエンサーマーケティング」である。

BtoCでは、消費者に購入してもらう目的だけでなく、商品・サービス情報の拡散、話題性や認知の向上、ブランディングなども含めてPR活動を行うが、特に重要となるのが「いかに消費者の“共感”や“信頼”を得るか」という点である。

働き方・生き方の多様化が生み出す消費のかたち

働き方改革
(画像=PIXTA)

働き方改革やワークライフバランスの改善などにより自由時間が増えることで、買い物、旅行、スポーツ、レジャー、イベント、習い事、学習(資格取得・スキルアップなど)などで消費拡大が期待できる。また、現在は主にインバウンド向けに推進されているナイトタイムエコノミーでも消費拡大の可能性が見込める。具体的にはグルメ、ショッピング、各種エンターテインメント、ショー、ライブ、バー、クラブなどのほか、美術館・博物館などの文化施設、自然資源巡り(ナイトクルーズなど)、街をあげてのイベントなどがある。

一方、高齢者の消費動向が個人消費全体に及ぼす影響は今後ますます大きくなると予想される。年齢別の消費傾向について、内閣府の「平成29年度年次経済財政報告」は、「70歳代では、家事サービスや医薬品など保健・医療への出費が多くなっている一方、書籍や交際費の支出も多くなっており、教養への関心の高さやいわゆる「アクティブシニア」の存在感が確認できる」と指摘している。アクティブシニアの消費傾向をみると、旅行、趣味・教養、健康の維持・増進、交際などの支出割合が高いといわれる。とはいえ、高齢者においては、年金などに対する経済的な不安や、病気や介護に対する不安などから消費が抑制されやすく、今後も活発な消費が続くとは言いがたい状況もある。

高齢者のネット消費については、「平成30年度年次経済財政報告」では、今後、高齢者のITスキル向上や、ITスキルを職場等で使っている現役世代の高齢化が進めば、高齢世帯でもインターネットを利用した消費活動がより増加していく可能性が考えられると述べている。

社会的課題への関心とエシカル消費

情報通信技術の高度化により、消費者がさまざまな情報を容易に入手できるようになったこともあり、人や社会、環境、地域に対して高い関心をもつ消費者が増加している。それとともに、地球環境問題、人権、生物多様性、開発途上国の労働者の生活改善、被災地支援などに配慮し、よりよい社会の形成を目指す「エシカル消費」(倫理的消費)の動きも拡大している。図表4は、エシカル消費の具体例(一部)である。なお、消費者基本計画(2015年3月24日閣議決定)は、持続可能なライフスタイルへの理解を促進するため、消費者庁において、倫理的消費等に関する調査研究を実施すると規定している。

図表4
(画像=イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020)

消費と産業構造の行方

消費税増税,乗り切る
(画像=S_L/Shutterstock.com)

経済産業省の「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)報告書(2017年3月)」は、2030年の消費経済市場に社会的に大きなインパクトを与える変化の兆しとともに、消費経済市場における特徴的な消費行動を示している(図表5)。

図表5
(画像=イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020)

具体的には、自律的消費、他律的消費、偶発的消費の3タイプであるが、その他の消費者像(消費行動のタイプ)として「ものよりコト」「機能よりストーリー」を、サービス像として「付加価値/体験価値の提供」「VRを活用したサービス」などをあげている。

第4次産業革命が消費に与える影響も大きい。「平成30年度年次経済財政報告」(内閣府)では、従来、消費者はバリューチェーンのうち最終段階の小売でしか企業を選択する余地がなかったが、電子コンテンツなどのサービスでは、消費者は端末、通信契約、OS・アプリ、コンテンツストアといったそれぞれの段階で複数の選択肢から好みの機器やサービスを選ぶことができる(レイヤー構造)とし、こうしたレイヤー構造化は第4次産業革命によって、自動車産業など従来の産業へも広がりつつあると指摘している。インターネットによってさまざまなものがつながることで、今後、分野の壁が低くなり、異業種間の競争が激しくなることが予想されるが、さらに、業種の境界そのものがあいまいになっていく可能性もある。

情報通信分野での技術革新は消費の動向を左右するだけではなく、産業構造そのものを変化させる。次々と生み出される新しい市場は、既存の市場や事業を圧迫したり、脅威となりうる一方で、両者がつながって補完・強化しあうことで、新たな需要を喚起するなどさらなる発展も期待できる。

イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020
森 弘子(もり・ひろこ)

東京経営研究グループ 中小企業診断士

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