(本記事は、一般社団法人金融財政事情研究会の編集『イベント・トレンドで伸びる業種、沈む業種 逆引きビジネスガイド2020』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)
終活の背景
終活に携わる業種のなかでも供養に携わる業種が特に、見込客の獲得やリピート率増加に向けた企業努力が必須となっている。
異業種の参入や生活者意識の変化に対応するため、葬儀業界では価格競争が激しくなり、葬儀の簡素化、価格低下につながってしまったからだ。
もともと葬儀社は、小規模な会社が葬儀業界全体の大多数であるため、開業も廃業も激しい。そこに小規模の葬儀を数多く行わなければならない状態に置かれ、厳しい会社は廃業・撤退せざるをえない。
後述する石材店や石材卸業、寺院なども、いわゆる「墓(石)離れ」や「寺離れ」があり、仏壇業も以前のような大きな仏壇を備える人が少なくなったことから需要減になってきている。
いまの時代だからこそのニーズ
(1)墓じまい
①言葉が後押し
「墓じまい」とは、墓所をさら地にして墓地管理者に返却し(その場所で永代供養できる場合もある)、別の場所に改葬(遺骨の移転)することをいい、ここ数年でよく使われる言葉になった。
その理由は、先祖代々の墓を次世代に継がせるのはむずかしいなどから、その墓の行く末を考える人が増えたからだ。また、子どもがいても、離れた地域に住んでいる場合には墓参りや墓の管理がむずかしいため、いまのうちに先祖代々の遺骨を別の場所に移して供養したいという人が増えてきている(図表1)。
これらに加えて、終活によって供養のあり方や選択肢が増え、永代供養(一定期間、墓の管理・供養を行ってもらう)の墓が増えたこと、「改葬」ではわかりにくい内容が、「墓じまい」という言葉によってイメージしやすくなったことも後押しをしている。
②寺離れ・墓(石)離れの現状
通常、墓地霊園の管理者が寺院や民営の場合、同じ墓地内にある納骨堂や樹木葬、合葬墓などの永代供養の墓に改葬されたり、空いた墓所に別の墓が建立されたりすれば、永代供養の墓の契約金や御布施などが納入される。
しかし、近年では、檀家になるのを嫌がって寺院墓地を避けたり、墓の建立を望まなかったりする人が増えたこともあり、寺離れ・墓(石)離れが進んでいる。
墓じまいによって別の墓地や散骨、手元供養などが改葬先であったり、墓所が空いた状態であったりする場合には、寺院等の維持管理が大変になる。
そのような状況で墓の建立が減少していることから、寺院等だけでなく、石材店や墓石の卸業者も同様に苦しい立場にある。
石材店は、墓所をさら地にする作業の収益があっても、改葬先で新規の墓契約が成立するとは限らない。そもそも石材店は、公営霊園以外の寺院墓地や民営霊園に自由に出入りできるわけではなく、指定の石材店のみがその墓地で作業できるという縛りがあるからだ。墓石の卸業者も同様に、墓石のニーズが減ることで苦しい立場になっている。
③ニーズがある業者
墓じまいによって、供養業界は苦しい状況にある一方で、新しい供養の形態として「散骨」や「手元供養」を望む人が少しずつ増えてきている。
散骨の主流は海洋散骨であるが、散骨といっても、海、山、空、成層圏、宇宙など多くの選択肢がある。船で散骨場所まで移動してまいたり、寺院などが所有している山にまいたり、ヘリコプターやセスナなどで空から海にまいたり、遺灰を入れた巨大なバルーンが成層圏で破裂することにより散骨したり、ロケットに遺灰数グラムを搭載して海外から打ち上げて宇宙に散骨したりなど、選択肢はさまざまだ。
亡くなった本人や遺族が散骨を希望する場合もあるが、すべての遺灰をまくのではなく、少し手元に残しておきたい人もいる。そのようなニーズに対応しているのが手元供養である。
手元供養もここ最近は少しずつ売上げを伸ばしている。遺骨や遺灰の一部をミニ骨壺等に入れて供養したり、遺骨自体を宝石のように加工したり数珠の一部にしたりなどさまざまである。
散骨も手元供養も、爆発的に需要が増える業種ではないが、これらの供養形態は定着してきている。
(2)遺品整理
①モノ社会だからこそのニーズ
単身世帯が増加しているといえども、単身者の家には多くのモノがある。遺族が自分たちで遺品整理をしようと始めても、みえない部分に多くのモノがあり、途中で断念して遺品整理業者に依頼する場合もある。もちろん、最初から業者に依頼する人も多い。モノ社会だからこそ、そのモノの処分で困るのだ。
同じように、生前整理についても「施設入居で自宅を処分するため片づけてほしい」「病気や介護等で親が施設に入居するため部屋を片づけてほしい」「2階への昇降がむずかしくなったため1階に拠点を移したい」など、さまざまなニーズがある。
そのため、生前整理や遺品整理は、長寿、単身、核家族などにより、ニーズが増えている業種である。
②携わっている業者
いまは、生前整理・遺品整理業に新規参入する業者や個人が増えている。また、既存の業者がいま行っている業に生前整理・遺品整理業を加えるケースも多い。
たとえば、ごみ処分業、産業廃棄物処理業やリサイクルショップ、家事代行業、ハウスクリーニング業、不用品回収業などがそうだ。「生前整理」「遺品整理」の言葉をつければ、その業者としての位置づけで業務を行うことができる。また整理収納アドバイザーなど整理収納のスキルを身につけノウハウを指導・アドバイスする専門資格も生まれている。
既存の業務の延長で行う仕事なら、遺品整理業として受注すれば売上げを増やすことも可能だ。
また、遺族にとっては不要物でも、価値あるモノにできる業者にとっては、そこから収益を生み出すこともできる。
しかし、これらの業者でも行わないことがある。その部屋で事件や事故、自死、孤独死などにより発見が遅れてしまった案件だ。これらの場合、特殊清掃を請け負っている業者が行う。
遺品整理業者が特殊清掃を行うケースもあるが、特殊清掃を外部に依頼し、遺品整理のみ業者が行うケースもある。部屋の状況や状態などによりケースバイケースであるが、すべてを行っている業者ばかりではないということだ。
本来の遺品整理業者は、先に記述した産業廃棄物処理業やリサイクルショップなどのように主軸とした業はない。主に、不要品と遺品の分別をし、重要な書類を見つけたり不要品の処分を行ったりし、エアコンなどの電化製品は電気店、本は古本店、骨とう品は古物店というように通常は遺族がやるべき必要な業者の手配をする。手配後は遺族とその業者のやりとりで行ってもらう。
リサイクルショップでの買取りがあればその店舗から支払われる金銭は遺族が受け取る。
なお、生前整理や遺品整理は需要が伸びる業種ではあるが、値段の設定も経験もその業者次第である。そのため、費用や日数の超過、室内の傷、モノの損傷や紛失、仕事ぶりや応対など、依頼者と業者とのトラブルが少なくない。
不安を抱える生活者が求める支援やサービス
長寿、単身、核家族が多いことから、生活者は多くの不安を抱えている。そのため、自分の今後に関する不安を補ってくれるサービスを求める傾向にある。
認知症やケガ・病気などでの介護に関する不安、孤独死の不安、自分の死によって家族に迷惑をかけてしまうかもしれない不安、財産や遺産に関する問題など、これらの不安や問題を少しでも取り除き、安心できる環境を手にしておきたい心理が働くからだ。
生活者が求める傾向にある支援やサービスなどには、次のものがある。
(1)見守り
①どのような不安があるか
一人暮らしで頼れる身内がいない高齢者は、「自分が認知症になっている状態に気づいてほしい」「孤独死してもすぐに発見してほしい」など、安否を気にする人が多い。また、実際に孤独死の件数も増加傾向にある(図表2)。
室内に機器を設置してセンサーで安否を確認するものもあるが、機器での安否確認ではなく、「不安や困りごとを相手に相談したい」「孤立を避けたい」などの場合には、だれかと会話ができる形態の契約が安心だからだ。
これは、子どもがいない夫婦にも当てはまる。夫の死亡後は妻が単身で住み続ける場合が多いからだ。
そのため、いま現在このような見守りニーズが増えてきていることから、事業を展開している、もしくは展開していこうとする業者や専門家もいる。
②積極的に取り組んでいる業種
郵便、宅配便等の配達業者、飲料や弁当などの宅配業者、公共料金の検針担当者など、定期的に訪問しやすい業者が安否確認サービスを行っている。
最近このサービスで売上げを伸ばしているのが、飲食料の宅配業者だ。健康維持と配達者による安否確認や会話などが単身高齢者に安心を与えているからだ。
しかし、これらだけでは不十分と考えている人たちもいる。安否や相談のみならず、その先に起こるかもしれない出来事に対しての不安があるからだ。
見守りだけでは足りない不安を解消するには、あらかじめ相続等を行っている弁護士・司法書士・行政書士など(以下、士業という)の専門家や、後述する高齢者サポートサービス提供事業所と契約をしておくことで回避が可能だ。
たとえば、当面は「見守り契約」で定期的な連絡や訪問をしてもらい、身体が不自由になってきたら財産管理も行ってもらう「任意代理契約(財産管理等委任契約)」へ移行。判断能力が低下してきたら、後見人として支援してもらう「任意後見契約」への移行など、状況や状態に応じた依頼をしておけるからだ。
このように、飲食料配達業者などの見守りのみならず、先々までの不安に対するサポートを提供している士業の専門家や事業所が増えてきている。
(2)死後事務委任契約
①どのような不安があるか
頼れる身内のいない人や身内がいても疎遠で頼れない人など、いわゆる“おひとりさま”は、自分が死亡したときの葬儀や納骨、役所の手続、遺品の整理などに関する不安が強く、事前に対策をとりたい人が多い。おひとりさまは、生前に起こる可能性がある出来事よりも、今日起こるかもしれない死亡への対策が急務だからだ。
②積極的に取り組んでいる業種
このようなニーズに対応しているのが、主に相続を行っている士業の専門家や高齢者サポートサービスを行っている事業所だ。
しかし、死後事務委任契約の実行援助には費用がかかる。葬儀代、納骨等の費用、遺品整理業者への支払、受任者の報酬などが必要だからだ。
そのため、死後事務委任契約の受任者は、これらの金銭で困らないよう、公正証書遺言の作成もあわせて行うケースが多い。死後事務委任契約で預り金をもらうだけでは、費用や報酬などの金銭精算が行いにくいからだ。遺言執行者となって最後に遺産の精算をすれば、死後のすべてを行うことができるうえ、本人の要望どおりに遺産を渡すことができる。死後の案件を託されるのならば、すべて行えるほうがお互いによいからだ。
このように、死後事務委任契約と公正証書遺言の依頼を同時に受けることができるため、これらを受任したい相続業務を行っている士業の専門家や高齢者サポートサービス事業所は多い。
③ユニークな取組みをしているケース
死後事務委任契約は、契約者本人が行ってもらいたい内容を決められるため、一部分のみをほかの者に依頼することも可能だ。それを上手に活用している、墓管理のサービスを展開している石材業者がある。
そのサービスは一定期間墓を管理し、その後改葬(遺骨の移転、「墓じまい」ともいわれる)を依頼しておく契約だ。
たとえば、祭祀承継者がいないが先祖代々の墓を承継している人が、「自分たちも先祖代々の墓に入った後、契約で設定した期限になったら永代供養の墓に移転してもらう」などができる。
祭祀承継者がいなくてその墓に入れない、もしくは、入る墓を建立できないとあきらめていた人たちにとってはニーズがある。
墓に着目した死後事務委任契約で、現在、石材業者が中心となり全国で取組みを進めている。
(3)身元保証サービス
①どのような不安があるか
賃貸住宅を借りたり、病院入院・施設入所などをしたりする際に求められる身元保証人。しかし、頼れる身内がいない、身内はいるが疎遠で頼めない、依頼したが断られたなどの理由で困るケースがある。士業などの専門家も身元保証は避ける傾向があるからだ。
身元保証人になるということは、依頼者の損害賠償等も含む金銭保証になるため、個人事業もしくはそれに近い形態で業務を行っている士業にとって、そのリスクは大きい。
しかし、いまの団塊世代は子どもに迷惑をかけたくない意識が強い傾向にあるため、あえて第三者に依頼したい人が少なくない。特におひとりさまなど頼る人がいない場合には、身元保証に関するニーズが高い。また、身元保証のみならず、生前の困りごとや死亡後のことなどに関する準備や対策も求められている。
②身元保証等高齢者サポートサービス
身元保証を行ってほしいニーズがあっても、身元保証サービスのみでは業として成り立ちにくい。そのため、身元保証を必要とする人たちがさらに必要とする他のサービスを展開していくことになる。それが、あらかじめ事業所と依頼者が契約をしておき、必要時に実行援助してもらう「身元保証等高齢者サポートサービス」などといわれるものだ。
たとえば、定期的な見守り、病院等への付添い、入院時に必要な着替え等の準備、認知症になったときの後見人、死亡時の葬儀、納骨、遺品整理、遺言執行など、生きているときに困ることから死亡後に行ってもらいたいことまで対応している。
事業所は、必要としているサービスの契約をしてもらうことで、契約書作成の報酬や実行援助する際の報酬、月会費などの収入を得ることができる。
事業所が外部に委託してサービスを提供するケースもあるが、事業所で数人から数十人の実行援助者がいれば、士業では行えない細部まで援助も可能だ。
このように、葬儀や納骨などにかかわる寺院や葬儀社、医療や介護、福祉などに強い専門家などが法人等をつくり、身元保証等高齢者サポートサービスに取り組んでいる、もしくは取り組みたいという人たちは多い。
しかし、身元保証等高齢者サポートサービスは、トラブルに発展するケースも少なくない。依頼者が一定額の金銭を預ける仕組みをとるため、その預り金を流用して裁判になったり、破綻してしまったりするケースも実際にあるからだ。
また、子どもに迷惑をかけたくないからと高齢者サポートサービスと契約をしたが、それをよく思わない子どもが、事業所に対して不信感を抱き、トラブルに発展するケースもある。
③士業への依頼プラス身元保証
高齢者サポートサービスで支援を依頼する場合は、費用がかかる。預り金や定期的な会費が必要であり、支援してもらうにも費用がかかるからだ。そのため、依頼者側にとっては資産状況により最低限の支援しか依頼できないケースもある。
そのような場合、士業で対応してもらえるものは士業へ依頼をし、身元保証など必要なもののみを事業所に依頼(部分的な依頼が可能な場合)するかたちもとれる。事業所にすべてを依頼するよりは、費用がかからないケースが多いからだ。
事業所は会費等がかかるが、士業の場合は契約を交わしたからといって会費等がかかるわけではない。実行援助を依頼した月から契約で決めた報酬が発生するが、支援のつど費用がかかるものではないからだ。
ただし、士業の場合は個人レベルで受任していることから、多くの人数で対応している事業より細かい対応はむずかしい。
いまや相続は、終活と同様に自分の今後を考える生活者が増えており、高齢化と団塊世代の人数が多いことから、相続案件を扱いたい専門家が増えている。見守り契約、任意代理契約、任意後見契約、死後事務委任契約、公正証書遺言などの依頼を受けたい士業の専門家は多いからだ。
終活業界のさまざまな取組み
終活を行っている事業者たちは、自社を窓口にしたワンストップサービスの展開のほか、供養、相続、福祉、遺品整理など他業種との連携体制づくりをする者が多くいる。生活者が必要とする導線に業を構えることによって、そこから仕事につながるため、他社との連携や提携がいまでは不可欠なものとなっている。
なかには、他業種相手の資格ビジネス業の展開や、終活を扱いたい他業種の集まりで法人等をつくって顧客アプローチをするなどの取組みも、数多く見受けられた。しかし、軌道に乗せるのがむずかしく、すぐに消滅するケースも多くある。
ここ近年は、葬儀社が介護施設との連携や提携をするケースが多い。小規模ではあるが、案件につながるからだ。なかには、葬儀社が介護施設をつくって運営し、その施設入居者の葬儀をそのまま請け負うケースもある。また、介護施設が永代供養の墓を建立し、提供しているなど、いまや供養に携わる業種は生残りをかけた戦略を見出していかざるをえない状態である。
発信される情報に左右される
「終活」ブームによる影響は、業界・業者にとってプラスにもマイナスにも働いた。生活者が求めるものを提供したり、いままでにない新しい提案を打ち出したりしたことにより「変化」があった。そのため、業界内の考え方やとらえ方、価格の低下、生活者の意識などが次第に変わっていった。しかし、「業界内の競争」により変化した部分もあるが、いわば「植付け」によって起こった部分もある。
それは、メディアのみならず、事実をよく知らない者たちや自社に有利な情報を提供したい者たちが、レアケースをさも多いように発信して不安をあおったり、事実とは違う情報を伝えてしまったり、本来考えなければならない根本部分を無視して供養不要論を唱えたりしたからだ。
「終活」がブームとなり、発信する人の思惑によってさまざまな情報が発信されたことにより、大きなマイナスに動いてしまった業界・業者が結果としてあった。
しかし、「相続対策」と同じように「終活準備」も当たり前のこととして定着してきたことから、いままでの終活ブームのようなトレンドに左右されない、顧客のニーズに応じた動きになるだろう。