(本記事は、細入 徹氏の著書『将来の年金不安を解消したいなら今すぐiDeCo・つみたてNISAをはじめなさい』自由国民社の中から一部を抜粋・編集しています)
10年、20年、30年と長期で続けたら?
■ 時間の経過と共に元本割れの可能性はだんだん小さくなる!
「長期で徐々に資産が増えていく期待の一方で、上下のバラツキも同じようにどんどん大きくなっていくとしたら、いつまで経っても元本割れの可能性は無くならないのでは?」という疑問が残りました。
結論から言うと、バラツキの広がりも確かに段々と大きくはなるのですが、それ以上に資産の増え方の方が大きいので、(理由はこのあと、図表5−9で説明します)、最初は元本割れの確率が高くても時間の経過とともに元本割れの可能性は段々と低くなっていきます。
これが長期で運用することの本当の意味合いで、ここに至るために面倒くさいつりがねの講釈にも我慢して付き合っていただいたわけなのです。この長期で運用する話の中には、これから堅実に資産を育てていく皆さんにとって、とても大切な事柄がいろいろと含まれていますので、一つ一つ説明していきます。
■ まず、不確かな期待リターンを想定することから始めます
将来を予測するうえで一番知りたいのに一番不確かなのが期待リターンです。期待リターンを想定するのにいろいろな方法が採られていますが、過去の実績データをそのまま使う方法としては、利回りが高めに計算される傾向がありますが、毎月の騰落(月次のリターン)の平均をだして、これを年率にして将来の期待リターンとしています。
単純に最初と最後の価格で利回り計算をする訳ではありません。それですと途中の山谷の変動が全く無視され、また、最後のある日の瞬間の価格で将来に期待する利回りが決められてしまいます。ですから毎月の変動を平均して使っているのです。
図表5-8の上の図は、76頁図表5-3で示した月次のリターンの図です。このグラフを左端から平均していったものが下の図です。外国株式市場については、年利約10%の成長が期待されるという計算結果になります。
また、この間のデータを計算すると(計算過程は省略しますが)リスクは19%となります。
ところで実際の機関投資家は外国株式に10%のような高い期待リターンを設定しているわけではありません。別途の計算方法をとって7、8%とか低いところは5%程度で期待リターンを設定しています。次章では皆さんが自分のポートフォリオを決める話になりますが、その際の外国株式市場の期待リターンは機関投資家の実例にそって7%程度で皆さんと考え合うつもりです。
しかし、この章では過去の市場の実績をいろいろな角度で皆さんと確認し合いたい意図もあって、過去の毎月の当落の平均で期待リターンを出しました。
図表5-9の上段は、期待リターン10%、リスク19%の場合、外国株式市場は将来、ほぼこのような範囲に収まりながら推移していくだろうということになります。ちょうどつりがねを横倒しにして並べていったイメージですね。
下の図は期待リターンが7%の場合を重ねて示しています。10%と7%では、7%の方がブレが広くなっているように見えますが目の錯覚です。同じ経過年数のところではリターンの大きさに関係なくブレ幅は同一です。
前項で、投資した1年後のつりがねの図を見てきた印象と比べると、「この95%のブレ幅は思ったより、やけに狭い。もっとずっと広がっていても良いのでは?」と思いませんか。そうです。そこがポイントなのです。月次リターンの図でわかるように、バラツキはある月はプラス方向に、ある月はマイナス方向にとバラバラに散らばっていましたね。これを長い期間で見るとどうでしょう。お互いに相殺しあいますから、ブレの広がる程度は緩やかになっていくだろうと思いませんか?
ブレの幅自体は時間と共に段々大きくなってはいくのですが、ブレが相殺しあう結果、図表5−9のように広がり方の程度が抑えられるのです。時間の経過に沿った、これも分散の効果ですね。
■ 株の投資信託は10年ぐらい、元本割れの覚悟が必要!
この図にはもう一つ、とても大事なことが示されています。図が小さくてちょっと見づらいかもしれませんが、外国株式市場は暴落や恐慌でなくても投資し出してから10年程は元本割れが起こりうるということです。これは日本の株式市場でも同様です。
ですから確率的に堅実な運用の成果を期待するには時間が必要だということですね。
ところが株にしろ投資信託にしろ実際の売買は、証券会社と顧客の間で短期勝負になりがちです。顧客は価格が上がる上がると、どこかでまた落ち出さないか、一旦解約して利益を確保した方がいいのかソワソワしだします。逆に低迷しだすと、このままでいいのか不安に駆られます。証券会社も顧客が売り買いをしてくれる度に販売手数料が転がり込みます。前項で登場した若いセールスマンは「自分たちは10%上がった下がったで顧客に次の商品を勧めに行かされます」と言っていました。短期売買で手早く利益を増やしたい客、堅実な資産づくりを目指す客と人それぞれでしょうが、このセールスマンは図表5−9等のグラフを見て、短期の売買に客を囲い込んでいく日頃の営業活動に疑問を抱いたということです。
それにしても図表5-3の、あの因果関係なく毎月バラバラに上げ下げしているだけのデータが、私たちにこれ程の情報を提供してくれているわけです。
このように、「長期」と「リスク」は、別々でなく一緒に考える必要があることもおわかりいただけたのではないでしょうか。
■ 理屈はもういい、でも実際はどうだったの?
図表5-9で変哲もないただの曲線を見せられてもピンとは感じにくいです。
「理屈はそうなのかもしれないけれど、でも実際の動き方はどうだったの?」とよく聞かれます。この図は、過去の毎月のデータのバラツキ具合をもとに、将来への期待値を想定しようというものですが、それではイメージが湧かないので、分析した期間(1985年から直近)の実際の市場の動きを当てはめてみます。
図表5-10は、この間の外国株式市場の実際の動きを重ね合わせたものです。リーマンショックの爪あとがいかにすごかったか一目瞭然です。
さて、図表5-11では前図(図表5-10)に日本債券の動きを書き添えてみました。日本債券はリスクが小さいので95%に収まる幅がこんなに狭くなります。でも、バブル期前後に売り出された高い利息が付いた日本債券が満期(償還)を迎える2000年前後までは市場が異常に高騰していますが、それにしてもバラツキの少なさが目を引きます。
さて、「日本債券だけでは物足りない。もう少しリスクをとってもリターンを期待したい」ということで、日本債券に4分の1だけ外国株式を加えたケース、それから半々にしたケースを書き加えてみました。リターンが高まるに連れリスクも大きくなっていく様子が見て取れます。
なお、日本債券は1990年代までの異常な高値を含んだ数字で期待リターンが算出されているため、ここでは単なる比較のための参考資料程度に捉えてください。
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