SDGs時代においては、企業のあり方にも大きな変化が生じています。自社の利益のみを追求する時代は終わり、社会的課題の解決に向けた企業行動が求められるようになったのです。この記事では、新たなSDGs時代を担う事業として注目を浴びる「ソーシャルビジネス」の起源や仕組みについて紹介していきます。

最近話題の「SDGs」とは?

SDGs
(画像=PIXTA)

SDGs(エスディージーズ)とは、2015年9月の国連サミットで採択された、国際社会が持続可能な発展のために2030年までに達成すべき国際目標のこと。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」をスローガンに、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などの17の目標で構成されています。

SDGsは、新興国だけでなく先進国も含めたすべての国々に課された目標であり、日本でも積極的な取り組みが始まっています。

ソーシャルビジネスの特徴とは?

現代社会には、飢餓や温暖化といった国際的なトピックから、子育てや介護・福祉、地域活性化などの生活に身近なトピックまで、さまざまな課題があります。このような社会的課題の解決に、ビジネスの手法を用いて取り組む事業を「ソーシャルビジネス」と呼びます。政府広報オンラインでは、ソーシャルビジネスは、以下の3点を満たすものとしています。

1 社会性
現在解決が求められる社会的課題(※)に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
※社会的課題の例:環境問題、貧困問題、少子高齢化、人口の都市への集中、高齢者・障害者の介護・福祉、子育て支援、青少年・生涯教育、まちづくり・地域おこしなど。

2 事業性
①のようなミッションにビジネスの手法で取り組み、継続的に事業活動を進めていくこと。

3 革新性
新しい社会的商品・サービスやそれを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。

上記3点のうち、①社会性と②事業性を同時に満たしていることがソーシャルビジネスの大きな特徴です。一般企業やボランティア活動と比較してみましょう。

ソーシャルビジネスと一般企業との違い

ソーシャルビジネスも一般企業も、マーケティングやマネジメントなどのビジネススキルを駆使する点では変わりありません。②事業性があるという点では同じなのです。

一方で、一般企業の行う営利事業には①社会性が欠落しています。一般企業の目的はあくまで「自社の利益の最大化」であり、「社会問題の解決」を第一の目的とするソーシャルビジネスとはまったく異なります。

ソーシャルビジネスとボランティア活動との違い

「社会問題の解決」を目指すボランティア活動には①社会性がありますが、活動資金を寄付や助成金などの外部に頼っているという点で②事業性が欠落しています。活動資金をビジネスの手法を用いて稼ぎ出すソーシャルビジネスとは、その点が異なるのです。

またソーシャルビジネスの場合は、事業が円滑に進めば継続的な資金調達を行えるため、ボランティア活動では限界がある「財務的・経済的な持続可能性」を実現することができます。

つまり、ソーシャルビジネスの最大の特徴は、ビジネスの持つスピードや継続力(事業性)を、行政の手の届かない社会的課題の解決(社会性)に活用することができるという点にあるのです。

ソーシャルビジネスの雛形は、ユヌス博士のグラミン銀行

ソーシャルビジネスの歴史は意外に古く、サッチャー政権下のイギリスで始まったと言われています。当時のイギリスでは新自由主義的な経済改革が行われ、公共サービスの大幅な縮小が実施されていました。

そこで市民たちは、失われた公共サービスを補うために、さまざまな事業を立ち上げ、これがソーシャルビジネスの起源となったのです。しかし、当時はソーシャルビジネスという言葉が一般に広まることはありませんでした。

ソーシャルビジネスという言葉が広まり、その概念が世界中の人々に認知されたのは、バングラデシュのグラミン銀行とその創設者であるムハマド・ユヌス博士が、2006年にノーベル平和賞を受賞したことがきっかけでした。

THE OWNER編集部
(写真=九州大学のユヌス&椎木 ソーシャル・ビジネス 研究センターHPより)

バングラデシュで生まれアメリカで経済学の博士号を取得したユヌス氏は、32歳の時に母国へ帰ります。その際に彼が見たのは、飢餓に瀕し貧困に苦しむ母国民の姿でした。そこでユヌス氏は、貧困に苦しむ人々に対してポケットマネーを使い、以下の条件で少額の融資を始めます。

・返済期限は無期限
・借りた人が返済できない場合はユヌス博士が保証する

このような条件で融資するわけですから、当然貸し倒れのリスクを覚悟していたユヌス氏。しかし驚くべきことに、貸し倒れは一度も起きなかったのです。この経験から、ユヌス氏は「人はきっかけがあればやり直せる。そのきっかけは少額のお金でいい」と確信します。そして、ユヌス氏はグラミン銀行を設立します。

グラミン銀行では、「マイクロクレジット」と呼ばれる無担保の少額融資を通じて、1日1~2ドルで暮らす最貧困層の人々に数十ドルの資金を貸し付けました。借りた人たち(その大半は女性でした)は、それを元手にさまざまな小規模ビジネスを立ち上げ、その多くが貧困から抜け出すことができたのです。グラミン銀行の取り組みは単なる融資を超えて、貧困層に経済的自立のきっかけを与えたのです。

また、ユヌス氏はグラミン銀行の利益を再還元することで、バングラデシュで問題となっていた白内障の手術を行う眼科病院を設立し、ソーシャルビジネスの一環として運営しました。

この病院を慈善事業として運営した場合は、外部からの多額の寄付が必要になります。しかし、事業性を伴うビジネスとして運営したことで収益が生み出され、持続的な運営ができたのです。さらに、その利益で新たな病院を設立することができました。

「母国の貧困層を救いたい」という想いをビジネスの手法を用いて形にしたユヌス氏が、ノーベル平和賞という国際的な評価を受けると、ソーシャルビジネスの概念は世界中に一気に広がりました。

ユヌス氏に賛同してビジネスを立ち上げた日本企業も

ユヌス氏とグラミン銀行がノーベル平和賞を受賞したことは、日本の企業にも大きな影響を与えました。ここでは、ユヌス氏に賛同してソーシャルビジネスを実際に立ち上げた日本企業の例を2つ紹介します。

グラミンユーグレナ(ユーグレナ社)

「グラミンユーグレナ」は、グラミン財団と日本のユーグレナ社が共同で立ち上げたソーシャルビジネスです。

もやしの原料である緑豆をバングラデシュで育て、同国と日本で販売するという「緑豆プロジェクト」は、「バングラデシュの貧しい農民の所得向上や生活改善」「日本の食料事情改善」「バングラデシュの貧しい農民の所得向上や生活改善」に大きく貢献しており、社会効果と事業の持続性を両立しているソーシャルビジネスの好例と言えます。

THE OWNER編集部
(写真=JICA)

グラミンユニクロ(ファーストリテイリング)

「グラミンユニクロ」は、グラミン財団と日本のファーストリテイリング社が共同で立ち上げたソーシャルビジネスです。グラミンユニクロの主な目的は、「バングラデシュの繊維産業の発展と社会課題の解決」です。

従業員が安心して働ける職場環境の提供や取引先工場の従業員支援を行うことで、バングラデシュの現地コミュニティの発展を推進しています。グラミンユニクロの服は現地で生産・販売され、その収益のすべてが事業に再投資されています。従来の利益追求型のビジネスとは対極にある、社会性に富むソーシャルビジネスの好例です。

どうすれば、ソーシャルビジネスに投資できる?

ここまで読み進めて、ソーシャルビジネス分野への投資に興味を持った人も少なくないと思います。実際に、多くの富裕層がフィランソロピーに関わる中で、日本でも「ソーシャルビジネス」への関心が高まっています。

実際にソーシャルビジネスに投資する際に問題になるのが、「投資先を選ぶうえでの物差しはあるのか?」ということです。

一般のベンチャー企業への投資であれば、投資会社が評価した企業の資本価値を参考にして投資先を選ぶことができます。しかしソーシャルビジネスの場合は、金銭的な物差しだけではその企業の価値を正確に測ることができません。そこで、ソーシャルビジネスへ投資する際の物差しとして開発されたのが「ソーシャルインパクト指数」です。

ソーシャルインパクト指数は、株式会社ソーシャルインパクト・リサーチが新たに開発した指標で、「扱う社会的課題の深刻さ」や「経営基盤、持続性」などの5つの観点で算出される、ソーシャルビジネスを評価するための物差しです。この指標を参考にすることによって、異なるソーシャルビジネスを比較し、投資先を検討することができます。

ソーシャルビジネスへの投資とはいえ、リターンをまったく期待できないとなると、出資を募ることは難しいでしょう。

ソーシャルインパクト・リサーチは第二種金融商品取引業者となることで、投資する側のインセンティブとして、ソーシャルビジネスへの投資にも金銭的リターンを得られる仕組みを整えました。さらに、リターンの一部を商品や体験型サービス、寄付に廻すことで、お金だけをリターンとしない新しい投資市場を提供しています。

ソーシャルビジネスへの投資は、SDGs時代の富裕層に求められる新たな素養となることでしょう。「自分さえ儲かればいい」という利己的な価値観から脱却し、社会への還元を意識した行動を始めてみてはいかがでしょうか。私たち一人ひとりの取り組みが、次の世代の幸福を築いていくのです。(提供:THE OWNER