言葉には魂が宿るといわれるが、研究者や経営者、政治家、アスリートとして名声を得てきた人物の多くは、時代を超えて伝承されていく名言を残している。それらは新たな事態を切り開いていく世代にとって、心の支えや“道しるべ”の役割を果たしている。

そこで、今回は偉人たちの数々の名言の中から、特に印象深いものを厳選した。もしも、あなたが部下のことで悩んでいたり、大なり小なりの挫折を味わっていたりすれば、名言がその迷宮から抜け出す大きなヒントとなるかもしれない。

常識を打破する「目からウロコが落ちる」名言

名言
(画像=skyNext/Shutterstock.com)

とかく世間一般は常識的な発想にとらわれがちだが、世界的な名経営者たちは大きく異なる視点から事象を見つめていることが多い。まずは、意表を突かれるような鋭い指摘を行っている名言から紹介してみたい。

例えば、多くの人たちは自分自身の長所を伸ばすとともに、欠点を克服していくことが成長につながると考えていることだろう。もしも、あなたが組織のリーダーだとしたら、部下に対してもそのようなスタンスで指導しているのではないだろうか。

名言1,本田宗一郎

ところが、ホンダの創始者である本田宗一郎氏は、こう喝破している。

「嫌いなことをムリしてやったって仕方がないだろう。私は不得手なことは一切やらず、得意なことだけをやるようにしている。金を稼ぐよりも時間を稼げ」

「嫌いなことなんてやっても伸びない。どうせ一度の人生なら、好きなことをとことんやるべきだ。そうすりゃ、それがやがて社会の役に立つ」

では、嫌いなこと(苦手)や欠点についてはどうすればいいのか。本田氏は、まさに目からウロコが落ちるような言葉を残している。

「各人が一番得意なものに全精力を打ち込んで人に惜しみなく与え、自分の欠陥は人に補ってもらうというのが、道徳教育の基本になるべきである」

名言2,ラリー・ペイジ

もう一つ、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジ氏の言葉にも、多くの人たちがハッとさせられるはずだ。ペイジ氏はミシガン大学において計算機工学で学士号を取得した後、スタンフォード大学の博士課程に進学し、在学中に友人のセルゲイ・ブリン氏とともにグーグルを興した。

母校・ミシガン大学の卒業式においてスピーチを頼まれたペイジ氏は、「途方もない夢であっても、実現へと前進させるのは意外とたやすい」と指摘。その理由として述べた以下のフレーズが名言として語り継がれている。

「そんな馬鹿なことはできないと誰もが思うなら、競争相手はほとんどいない」

もちろん、競争相手が出てこないのは、それだけ成功する可能性が低いからだ。しかしながら、ペイジ氏は失敗することをまったくためらっておらず、さらにこう述べている。

「失敗は失敗で、得られるものがあるから、悪いことではない。むしろ頻繁に失敗したほうが得られるものが多い」

ポジティブ・シンキングの重要性を説く名言

実は、先述のペイジ氏の言葉に近いことを、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も述べている。

名言3,ビル・ゲイツ

「成功を祝うのはいいが、もっと大切なのは失敗から学ぶことだ」

名言4, 柳井正

ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長・柳井正氏の以下の発言も、ニュアンス的に近しいものだと言えよう。

「僕はずっと失敗してきた。今までのどのビジネスでも一勝九敗くらい。唯一成功したのがユニクロです」

名言5,塚本幸一

異口同音、ワコール創業者の塚本幸一氏もこんな言葉を残している。

「失敗をする。しかし、それが人生の一番のターニングポイントだと思う」

名言6,トーマス・エジソン

発明王としてあまりに有名なトーマス・エジソン氏に至っては、さらに驚嘆するような名言を発している。

「私は今までに一度も失敗をしたことがない。電球が光らないという発見を、今まで2万回にわたって行ってきたのだ」

彼らに共通しているのが、「失敗は成功にたどり着くうえで必要不可欠となるものだ」という前向きな捉え方だろう。つまり、典型的なポジティブ・シンキングである。

優秀な経営者たちは、こうした思考で一貫しているわけだ。失敗をリスクという言葉に置き換えれば、さらにこんな言葉も挙げられる。

名言7,似鳥昭雄

「私は喜んでリスクを取るようにしている。リスクのないところには、利益も成長もないから」

ニトリの創業者で現取締役会長である似鳥昭雄氏の言葉だ。「不況、逆境を成長の糧とする」というのが似鳥氏の信条で、2008年9月のリーマン・ショック前後で6回もの値下げを敢行し、多くの企業が業績悪化に苦しむ中で増収増益の記録を更新させた。

名言8,孫正義

リスクを積極的に取る名経営者といえば、この人物のことも忘れてはならないだろう。ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏は次のように語っている。

「挑戦をしないことには、別の意味でもっと大きなリスクになる」

リーダーの心得について説く名言

組織のリーダーとして、常に心掛けておくべきことを端的に説く名言も数多く残されている。

名言9,ピーター・ファーディナンド・ドラッカー

日本でもいまだに信奉者の多い経営学者のピーター・ファーディナンド・ドラッカー氏はこう指摘する。

「過去のリーダーの仕事は『命じること(tell)』だが、未来のリーダーの仕事では『聞くこと(ask)』が重要になる」

名言10,セオドア・ルーズベルト

また、米国の第26代大統領を務めたセオドア・ルーズベルト氏の言葉は次の通りだ。

「リーダーとボスの違いは何かと問われれば、リーダーの仕事は開かれているが、ボスの仕事は隠されている。リーダーは導くが、ボスは強いる」

名言11,ジョン・F・ケネディ

これに対し、同じく米国大統領(第35代)を務め、悲劇の人物としてもあまりにも著名なジョン・F・ケネディ氏はこう述べている。

「中間管理職と真のリーダーシップとの微妙な半歩の違いは、プレッシャーの下で優雅さを保てるかどうかだろう」

名言12,ジョージ・ワシントン

さらに、米国初代大統領のジョージ・ワシントン氏はリーダーシップに関して、このような言葉を残している。

「他人を押さえつけている限り、自分もそこから動くことはできない」

部下の心を掌握できないリーダーは他人に対して強制的である一方で、自分には甘いと指摘する言葉も少なくない。

名言13,ニッコロ・マキャヴェッリ

ルネサンス期の政治思想家であるニッコロ・マキャヴェッリ氏はこう説く。

「名将と凡将との差は、作戦能力の優劣よりも、責任観念の強弱によることが多い」

名言14,松下幸之助

松下電器(現パナソニック)の創業者で「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助氏も数々の名言を残しているが、その一つが次のようなものだ。

「『それは私の責任です』ということが言い切れてこそ、責任者たりうる」

名言15,太宰治

自らの責任であることを強く意識すれば、おのずと言い逃れの言葉は出なくなるものだ。そのことを踏まえて、太宰治氏が自らの作品の中で用いた名言も目に焼き付けておきたい。

「自己弁解は、敗北の前兆である。いや、すでに敗北の姿である」

部下と接する際に思い出したい名言

まずリーダーが自らの責任をしっかりと認識することが出発点だが、部下にもその立場において同じような自覚を持ってもらうことも大事だ。前出のドラッカー氏は訴えかける。

「業績を上げる最大のカギは責任感である。権威や権限ではない」

これに対し、次の言葉はまったく対照的な指摘だと受け止めてしまうかもしれない。

名言16, 鳥井信治郎

「やってみなはれ。やらな、わからしまへんで」

サントリーの創業者である鳥井信治郎氏が残したものだが、この「やらせてみる」とは単なる権限の委譲ではないだろう。責任感を持って取り組む人物だから挑戦させてみるのだろうし、自分のことを信じてくれるからこそ、部下もおのずと責任感を抱く。

名言17,デール・カーネギー

このように部下へ投げかける言葉は非常にデリケートで、言い方次第で責任感が芽生えたり、逆にやる気が萎えてしまったりする。名著『人を動かす』(創元社)で知られるデール・カーネギー氏は、こんなアドバイスを残してくれた。

「命令を質問の形に変えると、気持ちよく受け入れられるばかりか、相手に創造性を発揮させることもある」

名言18,野村克也

先日亡くなった日本野球界の名将・野村克也氏もこう語っている。

「『叱る』と『褒める』というのは同意語だ。情熱や愛情がないと、叱っても、ただ怒られているという捉え方をする」

名言19,ジャック・ウェルチ

さらに、GE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOを務めて“伝説の経営者”と評されたジャック・ウェルチ氏は次のように話している。

「人に自信を持たせることが、私にできる何よりも重要なことだ。自信さえ持てば、人は行動を起こすからである」

悩みや戸惑いを断ち切る名言

常に強烈なリーダーシップを発揮して組織をグイグイと引っ張っている名経営者であっても、悩みや戸惑いとまったく無縁であるわけではない。周囲には迷っている姿をほとんど見せないリーダーたちは、常に自分自身との対話を繰り返し、胸の内に潜む「内なる声(インナー・ボイス)」に耳を傾けることで光明を見いだしている。

名言20,マーク・ザッカーバーグ

現に、Facebookの共同創業者兼会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏はこのようなコメントを残している。

「僕は毎日のように、こう自分に問いかけている。『今、僕は自分にできる一番大切なことをやっているだろうか』と」

名言21,スティーブ・ジョブズ

ひょっとしたら、彼にそのような習慣が身についたきっかけはスティーブ・ジョブズ氏の言葉にあったのかもしれない。スタンフォード大学の卒業式にゲストとして招かれたジョブズ氏は、多くの人たちの心を揺さぶり続けるスピーチを行った。

その中に出てきたのが次の言葉で、彼は17歳の頃から毎朝、鏡に映った自分に対してこう問いかけているという。

「もしも今日が人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを、自分は本当にやりたいだろうか?」

この問いかけに対し、「内なる声」は「違う」と返し続けたからジョブズは大学を中退した。そのうえで自分が興味のある授業だけを受講し続け、それが後に素晴らしいフォントを搭載したコンピューターの傑作を生むことになる。

しかも、ジョブズ氏は自分自身にこう言い聞かせてきたという。

「自分が死と隣り合わせであることを、絶えず意識すること。これは私が人生で大きな決断をするときに、最も大事な手がかりだった。なぜなら、例えば周囲からの期待、プライド、屈辱や失敗に対する恐怖、こういったもののすべては、死ねば消え去ってしまうからだ。残るのは、本当に大事なことだけである」

周知の通り、ジョブズ氏はすい臓がんにむしばまれ、さらに死を強く意識するようになった。それを踏まえて、彼はスタンフォード大学の卒業生に対してこんなメッセージを贈った。

「君たちの時間は限られている。だから、他の誰かの人生を生きて、時間をムダにしてはいけない。定説にとらわれるな。それは、他の人々が考えた結果にすぎないからだ。自分自身の『内なる声』を、他人の意見によってかき乱されてはいけない。最も大事なのは、心の声、直感に従う勇気を持つことだ。『内なる声』、直感は、あなたが本当になりたいものを知っている。だから、それ以外のことは、すべて二の次でいい」

挫折を味わったときに思い起こしたい名言

ジョブズ氏のスピーチは大きく分けて3つの話から構成されていたが、2番目のエピソードも多くの人たちの心を揺さぶった。彼がアップルを追放されたときの話だ。

アップルの経営を盤石なものとするためにジョブズ氏は外部から社長を招くが、自らが雇った経営陣に裏切られて解任された。その直後は落胆するものの、やがて彼は「人生で“最良の出来事”だった」と捉えるようになったという。

実際、アップルの経営からいったん離れたジョブズ氏はピクサーという名のアニメーション制作会社を立ち上げ、「トイ・ストーリー」シリーズをはじめとする名作が続々と世に送り出されていった。挫折を乗り越えた彼は、卒業たちにこう訴えかけた。

「人生には、たまにレンガで頭をぶん殴られるようなひどいことが起きる。しかし、信念を放り出してはいけない。私がやってこられたのはただ一つ、自分のやってきたことが好きだったからだ」

「心から満足が得られるただ一つの方法は、自分が素晴らしいと信じる仕事をすること。そして、素晴らしい仕事をするただ一つの方法は、自分の仕事を愛することだ」

ちなみに、ジョブズ氏は次の言葉でスピーチを締めくくっている。こちらも熱く語り継がれている名言だ。

「Stay hungry,stay foolish(ハングリーであれ。愚かであれ)」

一方、英国の名宰相として知られるウィンストン・チャーチル氏もこのように述べている。

「成功が最終でなければ、失敗は致命的なものでもない。肝心なのは続ける勇気だ。挫折とは、成功の前兆である」

名言22,アルベルト・アインシュタイン

「相対性理論」のアルベルト・アインシュタイン氏の次の言葉も胸に刻んでおきたい。

「挫折を経験したことがない人は、何も新しいことに挑戦したことがない人だ」

名言から学ぶ“伝わるメッセージ”

あなたが最も感銘を受けたのは、誰のどのような名言だっただろうか。いずれの名言においても共通しているのは、言葉の選び方が匠だということだろう。

同じような文脈のメッセージであっても、偉人たちは他者の心に響き渡る言葉をチョイスしている。意図したものであるケースもあれば、先天的にそういったセンスにたけているケースもあるだろうが、とにかく印象に残るフレーズとなっている。

もしも、あなたが部下になかなか真意を伝えられなくて悩んでいたとしたら、一度立ち止まって考えてみよう。そのメッセージの内容自体は間違っていないかもしれない。改めて名言を読み返しながら、伝え方(言葉選び)もあれこれ工夫してみると、異なる結果がもたらされる可能性がある。

一方、あなたが会社という組織を率いるリーダーだったなら、以下の2つの名言も肝に銘じておくといいだろう。前者はドラッカー氏、後者は三菱財閥を築き上げた岩崎弥太郎氏の言葉だ。

「驕るな。企業は社会に存在させていただいているものだ」

「自信は成事の秘訣であるが、空想は敗事の源泉である」(提供:THE OWNER

文・大西洋平(ジャーナリスト)