(本記事は、財産ドック氏の著書『税理士が知らない不動産オーナーの相続対策』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
子どもに迷惑をかけないために複雑に権利関係の入り組んだ土地を整理
神奈川県川崎市にお住まいのLさんのケースです。Lさんは80代で、ご主人が亡くなられてからは息子さん夫婦と一緒に暮らしています。近くには嫁いだ娘さんの一家も住んでおり、家族仲は良好です。最初は、単純に土地の売却についてのご依頼でした。
Lさんは地元でも有数の地主で、Lさんのご主人が生前の頃からのお付き合いのある方です。非常に多くの土地を持っているLさんですが、固定資産税が高い割に収益化できている土地が少なく、そのような不良資産となってしまっている土地をどうしたら良いか考えていらっしゃいました。Lさんは賃貸経営はあまり好きではないということもあり、ご自身がお持ちの老朽化したアパートを建て替えるよりは、その敷地を売却して、今後の生活資金や将来の相続税資金として現金化しておきたいとの明確な希望をお持ちでした。
さらにLさんは、ご自身に万が一のことがあった場合に、子どもたちのトラブルの元になることだけは絶対に避けたいと思っており、相続対策の一環としても不動産を問題のない形に整理しておきたいと考えていました。Lさんの義父が亡くなった際に、相続が原因となって親族内で大きく揉め、それが非常に辛い思い出となっていたため、ご自身の相続のときには、そのときのようなトラブルにはならないようにしたいと強くお話しされていました。
Lさんからご相談いただいた土地は約1000㎡あり、もともとはLさんの義父が所有していた土地でした。そして、義父が亡くなった際にLさんのご主人が相続しました。しかし、この土地の上にあるアパートのうち一棟と戸建ては、Lさんにとっては義弟にあたるXさんとYさんがそれぞれ相続していました。
事情をお聞きしたところ、XさんとYさんは未婚でお子さんがいなかったため、「どの道、自分たちが亡くなったあとはLの子どもたちに相続させるので、ここは自分たちに相続させてほしい」と主張し、ご主人は弟さんたちの生活のことを考えてそれに応じたということでした。そのため、土地はLさんのご主人、二つの建物はご主人の弟さんたちが相続することになったそうです。
その後、Lさんのご主人が亡くなったとき、顧問税理士から「ここを相続するのであれば旗竿状に分筆しておけば奥の土地も後々有効利用できますよ」とアドバイスを受け、下図「最初の状況」のように土地を分筆して相続したということでした。
●問題点 利用しにくい土地の状況を把握していなかった
ご相談いただいた土地は一見すると売却しやすそうでした。しかし、よく調べてみると、Lさん単独名義ではなく、息子さんや娘さんとの共有名義になっていました。しかも、前述の通り旗竿状に分筆されて複雑な形状になってしまっています。そして、それらの入り組んだ土地の上にまたがるように義弟名義のアパートや戸建てが建っています。この状態で道路に面した土地の一部を売ろうとすると、後々残った土地を利用したいと思ったときに問題となることは明らかでした。
このように共有で不動産を持つ相続の仕方は、不動産の相続をあまり理解していない税理士主導の分け方の典型です。今となっては知る由もありませんが、ご主人の相続の際、税理士は何らかの意図があってこのように土地を分筆したのでしょう。
それが節税のためなのか、もしくは相続トラブルを避けるためなのかはわかりませんが、少なくとも現状では、この状態で土地を売ることは得策ではありません。しかも、この状況でLさんが認知症になってしまったり、万が一のことが起こったりすれば、その後の対応はとても大変になることが予想できます。この事実をLさんに伝えると、非常に驚いた様子で「私は税理士の言う通りにしただけなんですけどね……」とおっしゃっていました。
●解決策 専門家チームで土地を整理し直し、売却しやすくする
権利が入り組んだ複雑な土地は、売却しにくいだけでなく相続が発生したときのトラブルの種にもなります。今回のケースでは、Lさんと息子さん、娘さん、それぞれの共有名義で土地を持っていたため、まずはそれぞれの持分を計算し、その比率に合わせ三名それぞれの名義の土地に分筆し直すことが最優先だと提案をしました。
土地の分筆のやり直しは不動産業者単独では難しい作業です。資産税に強い税理士や、信頼できる司法書士、土地家屋調査士など、様々な専門家を入れチームを組んで対応することとなりました。
しかし、この土地の再分筆にはかなり難航しました。
専門家チームでの話し合いを進める中で、早い段階で奥側の土地を有効利用できるようにするためには、東側に「位置指定道路」を作り、この土地全てが建築基準法上の道路に接する形にするのがベストだという見解に達していました。位置指定道路というのは、行政で決められた基準をクリアすること、隣接する既存の建物を不適格建物にしないことなどが条件になります。
ここで問題になったのが、東側隣地の戸建てでした。今までなかったところに道路ができると、道路に接する土地には「道路斜線制限」という建築基準法の制限がかかってしまいます。この制限により、将来戸建てを建て替えようとすると、現況と同じ形の建物は建てられなくなることから、隣接地全ての所有者より、位置指定道路の設置についての同意を取り付ける必要がありました。これは難しいことが容易にわかります。
行政との協議の結果、位置指定道路が東側の戸建てに接しないよう未利用地を設けることで指定を受けることができましたが、その他、義弟所有のアパートの敷地のこともあり、測量と合わせて、電柱位置や下水管、ガス管、水道管など並行した調整作業に随分と時間がかかりました。
さて、もう一つの問題が、現在の土地に対して、Lさん、息子さん、娘さんがそれぞれ持っている持分と再分筆した後の持分を等価にするということでした。できるだけ不要な費用負担をしていただきたくなかったので、「等価」とすることにはこだわりました。あれこれ計算をやり直し、最終的に再分筆が完了しました。
最後の仕上げとして、位置指定道路は行政に寄付し、管理を行政にやってもらうこととしました。これで、これらの土地は公道に接する資産価値の高い土地となりました。
現在、Lさんは分筆された土地について売却の手続きをしているところです。分筆をし直して土地の資産価値も上がったことで、希望価格で買い取り手を見つけることができました。義弟Xさんのアパートがある土地は息子さんがそのまま保有して、Xさんから地代を得ています。娘さんは近い将来、自分名義になっている土地に自宅を建築するそうです。
今回のケースのように、相続の際に税理士や弁護士からの意見を鵜呑みにしてしまい、土地の状況を複雑にしてしまうケースはよく聞きます。もちろん不動産に詳しい税理士や弁護士も存在していますが、彼らはあくまで税務や法律の専門家であり、不動産の専門家ではありません。
相談をする際には、そこをしっかりと理解しておく必要があります。全ての意見を鵜呑みにするのではなく、受けたアドバイスが本当に自分たちにとってメリットになるものなのかどうか、不動産の専門家も交えて考えることが、ご自分の資産を守る上で重要になると言えるでしょう。
●まとめ
専門家をうまく活用するには、アドバイスを検討する余裕も必要です。いざというときになってから動き始めて、焦って判断しなくてはいけない状況にならないよう、落ち着いて早めに相続対策を始めましょう。
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