(本記事は、財産ドック氏の著書『税理士が知らない不動産オーナーの相続対策』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
税理士や金融機関に不動産相続の相談をすべきではない理由
不動産が絡む相続が発生する場合、もしくは将来発生することが予測される場合には、相続対策のための専門家のアドバイスを受けることが賢明です。相続がすでに発生しているのであれば「どのようにその不動産を分けるべきか」と方向性を示してくれますし、将来相続が起こるとわかっているのであれば、今からできる対策について提案をしてもらえるからです。
では、このように相続対策について相談したいと考えたとき、皆さんは一体誰に相談したらいいのでしょうか。
まず相続と聞いて最初に頭に浮かぶ専門家といえば税理士でしょう。税理士は税務の専門家です。相続税を抑えるためのテクニックも知っています。だから相続対策も税理士に相談すれば問題ないと多くの人は考えがちです。もちろん、税理士が税務のプロフェッショナルであるという点について異論は全くありません。
また、相続税の節税をするための要点もしっかりと押さえているため、相談に行けば相続税対策についての提案をしてもらえることでしょう。しかし、節税が本当の意味で相続対策になるのかは、その人の置かれた条件によって異なると言えます。
相続財産のほとんどが金融資産であるならば税理士は相続対策について最適なプランを提案してくれることでしょう。しかし、相続財産に不動産が含まれてくるのであれば、話は別です。不動産を今後どのように承継していきたいかということについては、人それぞれの思いがあります。
資産価値の低い土地は売却しておいた方がトラブルを起こさないという考えもありますし、先祖代々の土地は何が何でも承継することを優先するという考えの人もいるでしょう。税理士は相続税を低く抑えるためのアドバイスは適切にしてくれるでしょうが、不動産をいかに受け継いでいくか、将来にわたってどう活用していくかというところまでは、専門外のため適切な解決策を考えられないことがほとんどなのです。
「税理士に言われた通りにしたら土地が売れなくなった」というのは、私たちが受ける相談の中でも非常に多いパターンの一つです。
考えてみていただきたいのですが、不動産を購入しようと思ったとき、不動産会社ではなく先に税理士にアドバイスを求める人がどれほどいるのでしょうか。「不動産を買うのにどうして税理士に相談するの?」大抵の方がそう思うことでしょう。
しかし、なぜか相続が絡んでくると税理士に「この土地はどのようにしたらいいですか?」とアドバイスを求めてしまうのですから、本当に不思議な話です。
ちなみに、これは弁護士にも同じことが言えます。弁護士は法務のプロフェッショナルです。相続人同士でトラブルが生じ、弁護士が間に入って解決することはありますが、そこで重視されるのは法律の上での平等です。
もちろん依頼人がいる場合には弁護士は依頼人の最大の利益になるよう動くことになりますが、そこで提案される内容が今後の不動産の活用や運用についてまで考慮されたものであるかは疑問です。弁護士は、あくまで法律という観点から相続人や依頼人が納得できる提案をしていくため、その後どのように不動産が活用されるかまで考えることは、ほとんどないのです。
信託銀行などの金融機関にも同じようなことが言えると思います。金融機関に言われるがまま作った遺言書が、財産を分ける際の対策上、問題があるということを指摘させていただいたことが多くあります。
相続対策を提案できる不動産会社の選び方
税理士や弁護士、金融機関に相談できないとなると、登場してくるのが不動産のプロフェッショナルである不動産会社の存在です。餅は餅屋ということで、不動産会社に相談するのがベストだと結論づけたいのですが、それも一概には言い切ることができないというのが残念な話です。なぜならハウスメーカー系の会社などに相続について相談した場合「これはチャンス」とばかりに自分たちの利益にしかならないような提案をしてくることが多いからです。
例えば最近受けた相談でこのようなことがありました。相談に来られた方は、ハウスメーカーから勧められた相続税対策として、10年から20年ほど前にマンションを建てたそうです。話を聞くと、お父様の相続が起きた場合の対策のためだったと言います。しかし、想定していたより随分とお父様が元気で長生きしたため、問題になっているというのです。
普通であれば長生きは喜ばしい話なのですが、想定外に長生きしたことで借入の元本がどんどん減り、マンションの老朽化も始まってしまったとのこと。しかも建物のメンテナンスについては全く対策をとれておらず、どうしたらいいのかと悩んでおられました。
そのマンションも、新築時は満室で経営されていたそうです。しかし老朽化とともに入居率は低下し、今ではかなり空室が目立つようになっていました。しかもお父様は年齢を重ねかなり高齢になっており、相続が近々起こるような可能性が高い状況です。
もし今、お父様が亡くなってしまった場合、このマンションは空室が多く、かつ、大規模なメンテナンスが必要な不良資産として相続されることになります。よかれと思って行っていた相続税対策が、結果的にこの家族の首をしめてしまうという結果になっていたのです。
新しい建物を建てさせるために「これは相続税対策になりますから」とハウスメーカーや不動産会社は調子のいいことを言います。その口車に乗せられアパートやマンションを建てた結果、大きなトラブルにつながったというケースはよく聞きます。
今回のケースのように、とりあえず建物を建てさせ、その後のケアは全くしないというハウスメーカーや不動産会社は残念ながら多いのです。ひどい場合には、後から相談に行くと「新しい建物を建てませんか? 借金をすると相続対策になりますよ」と、再び高額な融資を受ける建築を提案してくるのですから、本当に困ったものです。
本来であれば、既存の不動産の再生や活用を提案する力も、相続対策には欠かせない専門家としての力です。真剣に顧客目線で相続対策を考えて建物を建てる提案をするのであれば、築年数が15年を超えても健全な状態を維持できるようプランを立てておく必要があります。
古くなったとしても、それを活かして収益力を高められるように管理をしていけば、それほど資産価値が下がることはないからです。実際、何億もの借金を新たにして建物を建てるよりも、数千万円の再投資で設備を入れ替えたり外壁の手入れをしたりした方が、キャッシュフローは良くなることがあります。それを、将来発生する相続税の納付資金として貯めておけばいいわけです。
今回相談を受けたケースも、設備の交換と一部の間取り変更をして、最低限の投資で収益化できるプランを組み直しました。結果、半年で満室状態に近くなり、キャッシュフローも改善しました。
あえて付け加えるなら、お父様が認知症になってしまうと、各種対策はできなくなってしまいます。早めに家族信託契約などを検討することも重要な対策であります。
本来ハウスメーカーや不動産会社もこういった提案を行うべきなのですが、このような顧客目線に立った相続対策というのは「会社」としての立場で考えるとあまり旨味がなく、ビジネスとして儲かる話ではないのも事実です。設備投資をした方が顧客にとっていい提案だということはハウスメーカーも不動産会社もわかっているはずなのですが、新しい建物を建ててもらった方が自分たちの利益は多く、そうした現実が有益な提案を妨げているのだと思います。
相談料を明示している不動産会社を選ぶべき理由
ハウスメーカーや不動産会社に相続の相談をする場合、前述のような理由から、会社の利になるような提案しか出てこない可能性は否定できません。そのため、私たちは相続対策について相談を受ける場合には相談料として、コンサルタント料をいただくようにしています。
顧客にメリットがある提案をするためには、自分たちのビジネスが成立していなければなりません。相続対策のための相談料をいただくことで、それがビジネスとして成立することになりますから、結果的に自社の利益を生むことを優先させず、責任を持って顧客を優先した着地点を提案することができる、私はそう考えています。
このコンサルタント契約は相談者にとっても利がある話だと思います。しかし、相談者にはそのメリットを正しく受け止めてもらえないことも多く、難しい面もあるというのが本音です。相談を受ける際にコンサルタント料を提示すると、どうしても相談者側に敬遠されてしまうのです。
「他の会社は無料だったのに」と言われることもあります。これは価値観の違いなので、どうすることもできない話ではあるのですが、「無料」という部分のメリットだけに注目しているせいで、結果的に相手にとって都合のいい形に誘導されてしまっているのが現状です。
金融機関で作成された遺言書にもその傾向が見受けられる場合も少なくありません。非常に残念ではありますが、相談する側にビジネスの現状を知ってもらうことで、価値観は変わってくるものだと私は信じています。
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