シンカー:米国では既に拡大しているネットの資金需要をFEDがマネタイズする形が再び鮮明となった。ネットの資金需要を中央銀行が量的金融緩和などで資金供給をしてマネタイズすると、金利上昇が抑制され、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力が強くなり、景気を拡大したり、物価を押し上げたりする力にもなると考えられる。2008年のリーマンショック後に見られた形であり、株価は2009年3月を底に力強く上昇していった。もちろん、新型コロナウィルス問題が終息していくことが前提条件であり、それにはまだ時間がかかりマーケットの不透明感が強い状況が続くとみられるが、終息後の経済・マーケットのリバウンドはマーケットが予想するより大きいかもしれない。日銀も金融緩和策の強化に動く可能性がある。しかし、日本の場合は企業の貯蓄率はまだプラスであり、財政政策を更に拡大しないと、ネットの資金需要が復活しない。先行して、日銀が金融緩和策の強化をするとみられるが、政府も大規模な補正予算を含む経済対策で、財政政策を早急に緩和し、ネットの資金需要を復活させる必要がある。そうしないと、日米のマネーが拡大する力、そして実質長期金利の差が拡大してしまい、円高のリスクとなってしまうだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

FOMC緊急利下げ

・Fedは15日、臨時のFOMCを開いてFF金利の誘導目標レンジを0-0.25%に100bp引き下げた(賛成9票、反対1票)。
・また、スワップラインを通じ、主要中銀5行と協力してドル供給を確保する措置に踏み切った。
・バランスシート拡大について、目先数か月で米債の保有額を少なくとも5000億ドル、MBSの保有額を少なくとも2000億ドル増加させるとしている。
・声明では、“新型コロナ乗り切ったと確信持つまで金利をゼロ近辺に維持”するとし、“この措置が経済活動と力強い労働市場をサポートするとともに、2%の対称的なインフレ目標到達を助けるだろう”とされた。

資金の借り手である企業と政府の貯蓄率の合計であるネットの資金需要は、総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力、信用サイクルが拡大する力となる。

このネットの資金需要を中央銀行が量的金融緩和などで資金供給をしてマネタイズすると、金利上昇が抑制され、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力が強くなり、景気を拡大したり、物価を押し上げたりする力にもなると考えられる。

2008年のリーマンショック後、米国でも企業のディレバレッジやリストラが加速し、企業貯蓄率が急上昇し、異常なプラスの領域に入り、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を追加的に破壊する力となり、内需低迷とデフレのリスクが高まってしまった。

しかし、財政を著しく拡大し、財政赤字がその企業の資金需要の減退を補う異常の働きをし、ネットの資金需要は縮小せず、逆に大きく拡大した。

その拡大したネットの資金需要を、FEDが数段の量的金融緩和によりマネタイズしたため、米国の資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力が蘇った。

結果として、インフレ期待が支えられながら長期金利が低下し、長期実質金利はマイナスとなった。

長期実質金利の低下は株価のバリュエーションを押し上げ、資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大する力とともに、2009年3月を底として株価を大きく押し上げていき、実体経済の回復も促進していった。

現在、米国経済のネットの資金需要は既に拡大気味で(それがこれまでFEDが金融引き締めをしてきた理由である)、今後は減税を含めた財政政策の緩和で更に拡大する可能性もある。

それをFEDがマネタイズする形にまたなるのだから、経済・マーケットは同じような動きをしていく可能性もある。

もちろん、新型コロナウィルス問題が終息していくことが前提条件であり、それにはまだ時間がかかりマーケットの不透明感が強い状況が続くとみられるが、終息後の経済・マーケットのリバウンドはマーケットが予想するより大きいかもしれない。

日銀も3月18・19日の金融政策決定会合で、新型コロナウィルスの影響で信用サイクルが下押されることを避けるため、低金利(マイナスもあり得る)で金融機関に流動性を供給する策を実施する可能性がある。

企業のファイナンス支援のため、社債やCPの買入れの拡大も決めるかもしれない。

更に、上下に動くことを許容されているETF買入れ額の上振れの可能性を示す可能性がある。

企業活動の活性化と財政政策の緩和でネットの資金需要が復活すれば、それをマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も強くなるとみられる。

しかし、日本の場合は企業の貯蓄率はまだプラスであり、財政政策を更に拡大しないと、ネットの資金需要が復活しない。

先行して、日銀が金融緩和策の強化をするとみられるが、政府も大規模な補正予算を含む経済対策で、財政政策を早急に緩和し、ネットの資金需要を復活させる必要がある。

そうしないと、日米のマネーが拡大する力、そして実質長期金利の差が拡大してしまい、円高のリスクとなってしまうだろう。

図)米国のネットの資金需要

米国のネットの資金需要
(画像=FRB、SG)

図)日本のネットの資金需要

日本のネットの資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司