外部から資金を調達する方法は、借り入れと増資の2種類に大別できる。第三者割当増資は、資本金を増やす増資に該当する資金調達方法だ。今回の記事では、第三者割当増資の概要やメリット・デメリット、手続きなどについて詳しく解説する。

第三者割当増資とは?

第三者割当増資
(画像=Song_about_summer/Shutterstock.com)

最初に第三者割当増資に関して最低限知っておくべき項目について解説する。

第三者割当増資の概要

第三者割当増資とは、新たに発行した株式を特定の第三者(法人や個人)に引き受けてもらうことで資金を調達する方法だ。新株を引き受ける側の企業や個人は、引き受ける株式数や株価に応じて出資する。

第三者割当増資の対象は、自社や取引先の役員、銀行、ベンチャーキャピタルなど、関わりの深い相手が大半だ。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資の目的は主に3つだ。

目的1.資金調達

良好な関係を持つ第三者に新株を引き受けてもらうことで事業に必要な資金を増やせる。

目的2.他社との関係性強化

原則保有する株式の割合が多いほど、株式会社に対する権限(議決権)が強くなる。つまり、第三者割当増資により新株を付与することで相手企業に一定の議決権を与えられるわけだ。

相手企業に自社の議決権の一部を持ってもらい、経営に参画してもらうケースは少なくない。このように、新株の付与によって相手企業と関係性を強化することも第三者割当増資の目的といえる。

目的3.M&Aの実施

議決権株式の保有数が過半数を超えると役員の選任・解任などを普通決議により独断で行える。また、3分の2以上であれば定款の変更や解散といった重要事項も独断で行える。

つまり、第三者割当増資により、過半数または3分の2以上の発行済株式を相手企業が保有する形にすれば、実質的に経営権を譲渡できる。マイナーであるが、この方法でM&Aを実施するケースも散見される。

公募増資や株式譲渡との違い

第三者割当増資と類似する手法である公募増資と株式譲渡の違いを簡単に確認しておく。

まず、資金調達における第三者割当増資と公募増資の違いは、株式の引受先にある。特定の企業や個人に新株を引き受けてもらう第三者割当増資とは違い、公募増資では不特定多数の投資家に新株を引き受けてもらう。

M&Aの手法としての第三者割当増資と株式譲渡の違いは、株式の取得割合と譲渡する株式の種類だ。株式譲渡は発行済株式を原則すべて相手企業に渡す形で経営権を移転する。

一方で第三者割当増資は、新株を相手企業に引き受けてもらうため、既存株式は自社経営陣やほかの株主が引き続き保有する。

したがって、完全に経営権を移転する場合は株式譲渡、会社経営に引き続き携わる場合は第三者割当増資が適している。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資を実施するメリットは下記の5つである。

メリット1.信用力の強化や事業規模の拡大

第三者割当増資により資本金を増やせば、今まで以上に事業資金を投入でき、事業規模を拡大することが可能だ。

また、資本金は会社の信用力の指標でもある。取引先や金融機関にとって、資本金が多い企業は財務基盤が安定し、突然倒産するリスクが小さいように見えるだろう。

そのため、第三者割当増資により資本金を増やせば信用力が高まり、取引や資金調達を有利に進められる。

メリット2.比較的容易に資金調達できる

公募増資などの調達手段と比べると、第三者割当増資に必要な手続きは少ない。そのため、第三者割当増資を実施すれば比較的短期間で事業資金を調達できる。スピード感が求められる新規事業などの資金調達で重宝するだろう。

メリット3.引受先との関係強化

第三者割当増資は引受先との関係強化にもつながる。相手側は新株を引き受けることで定期的に配当金を受け取ったり、会社売却時に持ち株数に応じて譲渡所得を受け取ったりできるからだ。

しかし、配当金や譲渡所得を受け取るには株式会社の事業拡大が不可欠である。そこで第三者割当増資を引き受けた側は、事業拡大のために情報提供するなどして、できる限りの協力するようになるわけだ。

メリット4.株式を付与する相手を選べる

公募増資では株式の引受先を選べないため、経営に批判的な株主や将来的に敵対する株主に新株を付与することはリスクになりかねない。

一方、第三者割当増資では自社に友好的な相手を指定できるため、安心して出資を受けられる。

メリット5.敵対的買収の防衛策になる

マイナーなケースではあるが、第三者割当増資を敵対的買収の防衛策として活用できる。敵対的買収とは、経営陣の意向を無視して行われる買収で、成功すると経営陣は会社から締め出される。

厄介だが、第三者割当増資の仕組みを応用すれば対処可能だ。敵対的買収のタイミングに友好的な株主に第三者割当増資を行うことで、買収側の持ち株比率を強制的に下げて買収を阻止できる。

第三者割当増資のデメリット

経営者にとってメリットの多い第三者割当増資だが、4つのデメリットに注意したい。

デメリット1.既存株主の利益が減少する

希薄化とは、発行済株式数が増加することで1株あたりの価値(純利益÷発行済株式数)が下がる現象だ。第三者割当増資により引受先以外における既存株主の利益が減少する恐れがある。

希薄化を恐れた既存株主が株式を手放し、株価に悪影響が生じる場合もあるので注意したい。

デメリット2.既存株主の持ち株比率が低下する

第三者割当増資により引受先以外における既存株主の持ち株比率が低下する。持ち株比率(議決権比率)は会社に対する権限の強さを表す。

そのため、第三者割当増資により経営陣の持ち株比率が低下し、会社の意思決定が滞る事態も起こり得る。

デメリット3.変更登記に手間がかかる

第三者割当増資によって財務諸表に記載される資本金の額が増加する。資本金が増減した場合、会社法第915条の規定に従って必ず変更登記をしなければならない。

変更登記に必要な書類を作成し、法務局に申請する手間が生じるため、事業運営で忙しい経営者にとってはデメリットに感じられるだろう。

参考:会社法第915条 e-Gov

デメリット4.納税額が増える

中小企業が第三者割当増資を実施する際は、資本金の増加により納税額も増えるリスクがある。例えば、第三者割当増資により資本金が1,000万円を超えた場合、消費税の納税が必要だ。

また、資本金が1億円を超えると法人税の軽減税率が適用されなくなる点にも注意したい。第三者割当増資の実施にあたっては、1,000万円と1億円を超えない形で増資するとよい。

参考:中小法人に対する課税に関する資料 財務省

第三者割当増資の手続き

第三者割当増資は、下記の順番で手続きを進めていく。

手順1.募集事項の決定と通知

まず、第三者割当増資の募集事項を決定する。具体的な内容は主に下記の項目だ。

・発行する株式数
・払い込みの金額および金額の算定方法
・払い込みの期日もしくは期間
・現物出資で出資される財産の内容およびその金額(金銭以外で出資を受ける場合のみ)
・増加する資本金および資本準備金の事項

募集事項を決定したら第三者割当増資の引受先にその旨を通知する手続きに進む。なお、通知に際しては、会社法第203条1項の規定にもとづいて下記の内容を含めなくてはならない。

・株式会社の商号(会社名)
・募集事項
・金銭の払込みをすべき場合は、払込みの取扱い場所
・上記3つの項目以外の法務省令で定める事項

参考:会社法第203条1項 e-Gov

手順2.新株募集の申し込み

次に、第三者割当増資を引き受ける側が新株募集に申し込む。なお、申し込みでは、「申し込みをする者の氏名または名称および住所」、「引き受けする募集株式の数」を記載した書面を株式会社に提出する。

手順3.割当増資の決議

申し込み完了後、第三者割当増資を実施する企業が割当増資の決議を行う。取締役会または株主総会の特別決議では、株式を割り当てる相手と割り当てる株式の数を決定する。

参考:会社法第203条2項 e-Gov

手順4.出資金の払い込みと株式の発行

決議後に株式の引受人が出資金を払い込む。また、第三者割当増資を行う企業は、相手側に株式を発行・交付しなくてはならない。

手順5.登記変更手続きの実施

登記変更手続きを済ませることで第三者割当増資の手続きは完了となる。なお、登記変更の期限は、効力発生日から2週間以内である。

第三者割当増資によって株価はどうなる?

第三者割当増資による株価の変動は、自社や相手企業、市場の動向などの要素で異なる。ここでは株価が下落・上昇するケースについて示しておく。

ケース1.株価下落

増資に対して市場がマイナス評価を下す場合に株価が下落する。

具体的には、既存株主が希薄化に反発するケースや、一時的な財務状況の改善を目的に第三者割当増資を行うケースが該当するだろう。株主が一斉に株式を売却するので株価が下落する。

ケース2.株価上昇

第三者割当増資により株価が上昇するケースは、株価が下落するケースと正反対である。つまり、市場が第三者割当増資に対してプラス評価を下した場合は、株価は上昇する。

具体的には、新規事業の立ち上げや研究開発の強化といったポジティブな理由で資本金を増やすケースや、第三者割当増資により相手企業とのシナジー効果が見込めるケースなどが該当する。

業績が良くなると判断した投資家から買いが集中することで株価が上昇する可能性がある。

第三者割当増資で注意すべき有利発行

第三者割当増資の実施にあたって、会社法に規定された有利発行に注意する必要がある。ここでは有利発行の概要や有利発行で第三者割当増資を行う場合の手続きを解説する。

有利発行とは

有利発行とは、時価よりも安い価格で第三者割当増資を行うことだ。一般的には、時価よりも10~15%以上安い価格だと有利発行と見なされる。

有利発行による第三者割当増資で必要な手続き

有利発行で第三者割当増資が行われると、株式の希薄化によってほかの株主に大きな損失を与える恐れがあるので注意したい。

そこで会社法第199条3項では、有利発行による第三者割当増資を行う企業の取締役は、株主総会で有利発行が必要である理由を説明しなければならないとしている。

また、公開会社は取締役決議により第三者割当増資を行えるが、有利発行の場合は会社法第201条1項の規定にもとづき特別決議が必要だ。

参考:
会社法第199条3項 e-Gov
会社法第201条1項 e-Gov

第三者割当増資における株価の決め方

第三者割当増資における株価の決め方は、大きくマーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチの3種類に大別される。それぞれのメリットやデメリット、具体的な計算方法を紹介しよう。

方法1.マーケットアプローチ(市場株価法・マルチプル法)

マーケットアプローチとは、株式市場や類似企業などとの比較により株価を決める方法である。

具体的には、過去1ヵ月から半年間の市場株価をもとにした平均株価を用いる市場株価法や、類似企業の株価指標(EBITDAやPERなど)を用いて株価を算定するマルチプル法が一般的だ。

市場や類似企業を基準に用いるため、客観性が高い評価方法である。一方、企業が上場していないケースや、類似事業を展開する企業が存在しないケースでは株価の算定が難しい。

方法2.インカムアプローチ(DCF法)

インカムアプローチとは、今後の収益性を基準に株価を決める方法である。インカムアプローチでは、今後得られるキャッシュフロー(CF)から、リスクに応じた割引率を引いて株価を算定するDCF法が用いられることが多い。

将来的な収益性を考慮するため、今後成長が見込める企業の株価を求めるのに適している。しかし、収益性は事業計画をもとに推測するため、楽観的観測や恣意に株価が左右されるリスクがある。

方法3.コストアプローチ(純資産価額法)

コストアプローチとは、財務諸表に記載された資産や負債を基準に株価を求める方法である。具体的には、貸借対照表に書かれた純資産をそのまま用いる簿価純資産価額法や、資産と負債を時価に直してから株価を算定する時価純資産価額法などがある。

純資産を発行済株式総数で割ることで簡単に株価を算定できる点がコストアプローチの特筆すべきメリットだ。一方、今後の収益性は一切考慮しないため、ポテンシャルの高い企業が関与する第三者割当増資には適していない。

第三者割当増資はメリットが多いが活用する際は慎重に

第三者割当増資は、資金調達やM&A、取引先との関係性強化など、あらゆる目的に有効だ。しかし、既存株主の持ち株比率低下など、経営陣が注意すべきポイントも少なくない。第三者割当増資を活用する際には、あらかじめ問題に対処したうえで実行するのが好ましい。(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)