(本記事は、亀田達也氏の監修『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)

同調が起こりやすい状況とは?

眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学
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●集団凝集性の高い集団ほど同調が起きやすい

同調が起きやすい要因として、「自分以外の全員の意見が一致している」という全員一致の圧力の他に、グループの「集団凝集性」の影響も指摘されています。

集団凝集性とは、集団と個人の結びつきの強さのことで、集団凝集性が高い、すなわちメンバー同士の結びつきの強い集団ほど、グループの結束を乱したくないという心理が働きやすく、結果として同調も起こりやすい傾向にあります。

実際、高校生を集団凝集性の高い仲良しの4人グループと、そうでもない4人グループにわけ、重要度の異なるさまざまな社会問題について各自に賛否のボタンを押させる実験では、そうでもないグループに比べて、集団凝集性の高い仲良し4人組のほうが同調しやすいという結果が出ました。こうした同調は、その集団に対して自分が価値や魅力を感じているほど、起きやすいと考えられます。

また、同調には「情報的影響」と「規範的影響」のふたつがあるとする考え方もあります。情報的影響とは他者の判断を有用だと考えて自分の考えに取り入れることです。ある商品を購入する際に、ネットのレビューで評価の高い商品を選択するといったことがこの情報的影響に当たります。

もうひとつの規範的影響とは、「他の人から嫌われたくない」とか「集団の輪を乱したくない」という心理から行う同調のことです。たとえば「本心では別の意見があるにも関わらず、批判を恐れてつい多数派の意見に合わせてしまった」というのは、規範的影響のひとつといえます。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)

人は権威に服従する

●人は誰でもアイヒマンになりうる

人は権威によって命令されると、たとえ正しくないとわかっていても、その命令を実行してしまうことがあります。これを明らかにしたのが、ミルグラムによる服従実験、別名アイヒマン実験です。

アイヒマンとは、ナチス政権下において、ユダヤ人の強制収容所移送の指揮的立場にあった人物の名で、この実験は「特定の条件下であれば、人は誰でもアイヒマンような残虐な行為を犯すのか」を検証するために行われました。

実験では、まず「学習における懲罰の効果に関する研究」という名目のもと参加者が集められます。参加者はそれぞれ教師役1名、生徒役1名のペアにわかれ、別々の部屋に通されます。部屋にはマイクとスピーカーがあり、お互いの姿は見えませんが声は聞こえる状態です。

次に教師役は生徒役が出題された問題を間違うたびに、電気ショックを与えるよう研究者から命令されます。その電流は軽微な15ボルトから、命の危険性もある450ボルトまで30段階に設定されており、生徒役が間違うたびに、研究者はより高い電流を流すよう教師役に命令します。電圧が上がるごとに生徒役の悲鳴は大きくなり、300ボルトを超えると「もうやめてくれ!」と懇願するようになります。しかし、研究者はあくまで続行するよう命令し、教師役が拒否するまで実験は続きます。その結果、教師役40人中26人が命じられるまま最大450ボルトのスイッチを押し続けました。教師役は命令を拒否してもなにか罰があるわけではありません。にも関わらず、半数以上の人が命令に従い続けたのです。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)

人の残忍さはどこから来るのか?

●役割を与えられると人は残忍になる?

与えられた役割や状況によって、人の行動はどのように変化するのか。このことを検証したのが模擬刑務所実験(スタンフォード監獄実験)です。

この実験は、スタンフォード大学の地下に、本物に似せた模擬刑務所をつくって行われました。

参加したのは、心身ともに健康で、これまで反社会的行為をとったことのない21名の男子学生。参加者たちはランダムに看守役と、囚人役にふりわけられ、模擬監獄の中で2週間に亘ってそれぞれの役を演じてもらいます。看守役は1日8時間の3交代制、囚人役は24時間の参加です。

リアリティを出すため、看守役はサングラスと制服を着用し、警笛と木製の警棒も支給されます。一方の囚人役は名前でなくID番号で呼ばれ、足に鉄製の鎖をはめられて監獄に収容されました。

こうして始まった模擬監獄実験でしたが、その影響は実験者の予想以上でした。時間とともに看守役は囚人役に対して命令的、侮蔑的、支配的な言動をとるようになり、囚人役への精神的な虐待が蔓延。ついには禁止されていた暴力行為も発生したことから、わずか6日で実験は中止となりました。

この実験は、他人を服従させることのできる役割を与えると、人はその役割に染まり、残忍な振る舞いも平気で行うようになる事例とされています。ただ、その一方で「看守役は役割を与えられただけで自然と残忍になったわけではなく、実験者によって残忍に振る舞うよう誘導があった」とする批判もあり、その実験結果の信憑性を疑問視する声もあります。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)
眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学
亀田達也(かめだ・たつや)
1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科修士課程、イリノイ大学大学院心理学研究科博士課程修了、Ph.D(心理学)。現在は東京大学大学院人文社会系研究科社会心理学研究室教授。著書に『モラルの起源──実験社会科学からの問い』(岩波書店)、『合議の知を求めて──グループの意思決定』(共立出版)、共編著に『複雑さに挑む社会心理学──適応エージェントとしての人間』(有斐閣)、『「社会の決まり」はどのように決まるか』(フロンティア実験社会科学6、勁草書房)、『文化と実践──心の本質的社会性を問う』(新曜社)、『社会のなかの共存』(岩波講座 コミュニケーションの認知科学 第4巻、岩波書店)などがある。

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