(本記事は、亀田達也氏の監修『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)

人は自分の行動に一貫性を持ちたがる

従業員
(画像=Firma V/Shutterstock.com)

●段階的に要求を受け入れると、一貫性を持ちたいという心理が働く

訪問販売員に「話だけでも聞いてもらえませんか?」と言われ、断るつもりでしぶしぶ話を聞いていたらいつの間にか商品を購入していた、という経験はありませんか?このように相手が承諾しやすい小さな要求から段階的に要求を大きくし本来の要求を成功させる技術を「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」と言います。この技術を調べるためにフリードマンとフレージャーは戸別訪問による実験を行いました。

実験者たちは、「交通安全の市民会」と称して住宅街を訪問し、「安全運転をしましょう」と書かれた看板を玄関先の庭に設置させて欲しいと頼みました。ふつうに看板設置を要請した場合の承諾率は16.7%でしたが、2週間前に小さな要請を承諾した家の場合は、なんと承諾率が最大で約76%まで上昇したのです。

2週間前に行った要請は全部で4パターンあり、看板設置のときとは別の団体として訪問しました。

ひとつ目は「安全運転」と書かれた10センチ角のステッカーを車や窓に貼ってもらうという要請。ふたつ目は地域美化のステッカーを貼ってもらうという要請。3つ目は交通安全の立法化を求める嘆願書への署名。4つ目は地域美化の立法化を求める嘆願書への署名。これらの小さな要請を事前に行ったことで、ひとつ目の要請後の看板設置承諾率は約76%、それ以外の要請後の看板設置率は約47%でした。被験者は、小さな要請を承諾したことで「自分がいいと感じた要請は受け入れるべき」という一貫性を持ちたいと思う心理が働き、看板設置の承諾率が上がったのです。こういった一貫性を持ちたいと思う心理のことを「一貫性欲求」といいます。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)

他人からの評価で意見や行動が変わる

●肯定または否定で人の言動は変化する

わたしたちはさまざまな場面で他者からなんらかの評価を受けています。その代表的な例が、肯定と否定です。自分が持つ意見(考え)に対して「そう思う」または「そう思わない」という評価を受けることで、自分の態度に変化が生じます。肯定された場合は、自分の意見に確信を持ち、以降もその意見を持ち続ける傾向が強くなります。否定された場合は、自分の意見に自信がなくなり、以降は別の意見を持つ傾向が強くなります。こういった態度の変化には「オペラント条件づけ」と呼ばれる心理プロセスが働いています。

オペラント条件づけは、肯定や否定だけではなく、褒められるなどの「報酬」を得た場合や、叱られるなどの「罰」を与えられた場合にも発生します。

たとえば、上司に仕事を褒められると、そのことに対してより積極的になり、その人のやる気を引き出してさらなる生産性の向上が見込めます。逆に仕事に失敗して上司から叱られるなどの罰を与えられると、態度を改めるようになります。すると人は「叱られないためにはどうすればいいのか」を考え、失敗しない方法や新たな考えを模索するようになります。その瞬間だけで考えたら叱ることで仕事の生産性は減少するかもしれませんが、ゆくゆくは、生産性の向上に繋つながる可能性もあるのです。

周囲の人々の「やる気を引き出したい」または「間違った軌道を修正したい」という場合は、オペラント条件づけによって起こる態度の変化も考慮しながら「飴(報酬)と鞭(罰)」を与えましょう。それによって、その人の生産性を高められるかもしれません。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)

生産性を上げるカギは労働条件より人間関係

●従業員を取り巻く人間関係が仕事に影響を与える

当時主流だった、照明の照度や休憩時間などの物理的な労働条件が生産性に影響を与えるという考え方に基づいて、メイヨーらは1924年から8年間、アメリカの工場で「ホーソン実験」を行いました。照明実験では、照度を一定に保つ場合と段階的に明るくする場合とで生産性を比較。いずれも生産性が上昇し、照明を暗くしても上昇した生産性は維持されたのです。

5名の従業員を隔離して行った継電器組み立て作業実験では、作業部屋の温度や湿度、労働日数や休憩時間などを徐々に改善していった結果、生産性が向上。その後、以前の労働条件に戻す「改悪」を行いますが、生産性は上がり続けました。実は、実験の中で従業員に一定の心理状態で働いてもらうために面談を行い、要望を聞き入れて物理的な労働条件以外の条件を少しずつ変えていました。これにより従業員の間で被験者として特別な役割を果たしているという心理的な変化が生じ、物理的な労働条件の改悪があっても生産性を上げ続けたのです。このように観察者によって被験者の行動が変化することを「ホーソン効果」といいます。

2万人の従業員を対象にした面接実験では、従業員の来歴や職場の人間関係の満足度が、職場での労働意欲などに影響を与えていると判明。またバンク巻き取り観察実験では、14人の作業集団を観察した結果、社内の中で自然と生まれたインフォーマルな集団や規範のほうが、生産性に影響を与えるとわかりました。ホーソン実験によって、生産性を向上させるには、物理的な労働条件よりも従業員を取り巻く人間関係が重要であることが明らかになったのです。

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(画像=『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』より)
眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学
亀田達也(かめだ・たつや)
1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科修士課程、イリノイ大学大学院心理学研究科博士課程修了、Ph.D(心理学)。現在は東京大学大学院人文社会系研究科社会心理学研究室教授。著書に『モラルの起源──実験社会科学からの問い』(岩波書店)、『合議の知を求めて──グループの意思決定』(共立出版)、共編著に『複雑さに挑む社会心理学──適応エージェントとしての人間』(有斐閣)、『「社会の決まり」はどのように決まるか』(フロンティア実験社会科学6、勁草書房)、『文化と実践──心の本質的社会性を問う』(新曜社)、『社会のなかの共存』(岩波講座 コミュニケーションの認知科学 第4巻、岩波書店)などがある。

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