昨今では働き方改革の影響で、求められる企業像が変わってきています。特に福利厚生などの待遇面は、多くの企業が見直す必要性に迫られるでしょう。今回はその中でも、今後注目される可能性がある「選択制退職金制度」の概要やメリットなどをまとめました。

選択制退職金制度とは?従業員に「加入・掛金」の選択権を与える制度

節税や人材不足の解消につながる?今だから押さえたい「選択制退職金制度」のキホン
(画像=PIXTA)

企業が実施する企業年金には、給付額を先に決定する「確定給付年金(DB)」と、掛金を先に決定する「確定拠出年金(DC)」の2種類があります。今回解説する選択制退職金制度は、これらのうち確定拠出年金(以下、DC)の仕組みを利用した制度です。

確定拠出年金の実施方法は、実は企業によって大きく異なります。掛金の全額を事業主が負担する、毎月決まった金額を給与から天引きするなどの形が一般的ですが、中でも以下の方法で実施されているDCを「選択制退職金制度(選択制DC)」と言います。

・「DCに加入するかどうか?」を従業員本人が決める
・すべての掛金を従業員が負担する
・掛金の金額を従業員が決定する

上記を見てわかる通り、選択制退職金制度は従業員に対して「加入・掛金」の選択権を与えるものです。仮に企業年金の掛金として手当を支給している場合であっても、従業員自身が「加入しない」と判断した場合には、加入を強制せずにその手当は通常の給与として支払います。

企業側が選択制退職金制度を導入する5つのメリット

上記の選択制退職金制度を導入することで、企業側には主に以下のメリットが発生します。

・社会保険料の負担が軽減される
・「柔軟性のある福利厚生を導入する企業」として、対外的にアピールできる
・魅力的な制度として認知されれば、既存従業員の満足度が高まる
・経営陣も制度を利用できる
・企業年金の掛金として支給した手当は、その全額を損金として扱える

社会保険料の金額は、従業員の「給与×料率」の計算式で決まります。したがって、仮に従業員が給与の一部をDCの掛金に回すと、支給される給与額が減ることになるので、企業・従業員が負担する社会保険料を抑えられます。

また、選択制退職金制度は従業員に選択権があるため、「柔軟性のある福利個性」といったイメージを与えやすいでしょう。求職者へのアピールにつながれば人材不足の解決策になり得ますし、導入によって従業員の満足度が高まれば離職率を抑えられます。

導入前にチェックしておきたいデメリットと注意点

上記では選択制退職金制度のメリットを紹介しましたが、この制度にはデメリットや注意点もいくつかあります。

社会保険料を抑えられる点は企業・従業員にとって大きな魅力ですが、そのぶん将来的に受け取れる年金が減ってしまう点には細心の注意が必要です。一時的な負担は抑えられるものの、年金を受け取る歳月によっては従業員が損をしてしまう点は、企業側・従業員側がともに理解する必要があるでしょう。

また、会社が企業年金に加入すると、原則として従業員の同意なしでは脱退できません。従業員側も退職するまで脱退しないことが前提となるので、従業員に対してしっかりと説明を行い、両者で合意することが必要になります。

さらに、導入時に賃金規程(給与規程)の改定が必須となる点も、経営者が事前に理解しておきたいポイントです。

働き方改革の一環で、選択制退職金制度はさらに注目される可能性が

今回紹介した選択制退職金制度は、将来的にますます注目される可能性があります。

その大きな要因となるのは、働き方改革の一環で2021年4月(中小企業以外は2020年4月)から施行される「パートタイム・有期雇用労働法」と「改正労働者派遣法」。これらの法律が施行されると、同じ仕事をこなす正社員・非正社員の待遇に差をつけることが禁止されます。

基本給や手当はもちろん退職金もその対象に含まれるので、定年を迎えた従業員が雇用を延長した場合、通常の退職金に加えて「第2の退職金」を受け取れます。この第2の退職金を効率よく貯め、かつ毎月の社会保険料を抑えるために、選択制退職金制度を希望する求職者が増加するかもしれません。

そのような状況に備えて、中小経営者は早めに導入を検討することが重要です。福利厚生などのほかの待遇面と合わせて、今一度自社の制度を見直してみてはいかがでしょうか。

制度の仕組みを理解したうえで、慎重に導入の検討を

選択制退職金制度は企業側・従業員側の双方にメリットが発生しますが、その反面で注意するべきデメリットもあります。実施してからデメリットが発覚すると、従業員からの不信感が強まってしまう恐れがあるので、導入前にはデメリットも含めてきちんと説明をしておくことが重要です。

企業によって導入するべき福利厚生は変わってくるため、今回解説したメリット・デメリットをしっかりと理解したうえで、慎重に導入を検討するようにしましょう。(提供:企業オーナーonline


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