起業アイデア3.0
大須賀 祐(おおすか ゆう)
ジェトロ認定貿易アドバイザー(現:AIBA認定貿易アドバイザー)。著述家、講演家、日本貿易学会正会員。早稲田大学商学部卒。東証1部上場企業入社後、3年目で最優秀営業員賞受賞するも、国内ビジネスに失望し会社を退社。その後、輸入ビジネスの世界にその身を投じる。2004年「ジェトロ認定貿易アドバイザー」を取得。現在は輸入ビジネスアドバイザーとしてコンサルティング業務に従事。クライアントとともに年間100日強を海外で過ごし、全世界的に活躍中。これまでのセミナー受講者は1万人以上、海外での実践講座のクライアント数は、2019年2月時点で885名を超える。株式会社インポートプレナーの最高顧問。

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モノが売れない。サービスが売れない――大量生産・大量消費の時代が過ぎ、モノやサービスが飽和した現代。「買ってもらう」ことは簡単ではない。だが、モノが売れない時代だからこそ「高い価格で売る」ことが重要であり、その「値決め」こそが経営者の役割だ、と自身も約40年にわたり輸入ビジネスに携わってきた大須賀祐氏は説く。なぜ、「価格」が大事なのか。その理由を著書「価格はアナタが決めなさい。」から読み解こう。

収益性を高めるなら「価格」が重要

利益
(画像=Minerva Studio/Shutterstock.com)

経済産業省の発表(※)による企業のROE(自己資本利益率)の国際比較では、米国の22.6%、欧州15.0%に対して、日本はわずか5.3%。国際的にみても、日本企業の収益性が低いことがわかるだろう。

出典:経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」(2014年8月)

多様なモノやサービスがあふれている今の時代に、「いいモノを作れば売れる」「使ってみればわかる」という昔ながらのやりかたを踏襲し、利益の薄い低価格競争を繰り広げて疲弊している。これが、日本企業の低い収益性の正体だ。

収益、すなわち手元に残る現金を決定づけるものは、「売上」でなく「粗利」だ。あなたが稼ぎたい、ビジネスを成功させたいと考えるなら、十分な利益を見込み、高い粗利率を確保できるだけの価格設定こそが重要なのだ。

なぜ、高い値段を付けられないのか

「適正な価格を付けるべき」と頭ではわかっている。でもなかなか踏み切れない……そう嘆く経営者は多いだろう。大須賀氏は、高い価格に踏み切れない原因として、以下の5点を挙げている。どれかひとつでも、思い当たるものがあるのではないだろうか。

適正な価格設定に踏み切れない5つの原因

1.商品力が十分でない商品やサービスがお客様に満足してもらえるクオリティに達していないなら、まず高める努力を
2.原価にとらわれている顧客に提供する価値が高いのであれば製造(仕入れ)原価に関係なく、価値に合った価格を付けるべし
3.相場主義競合他社やネットでの相場を参考に価格を決めるとレッドオーシャンな価格競争に巻き込まれてしまい、中小零細企業には不利。相場とは異なる独自の価格で勝負すべし
4.高値を付ける自信が持てない提供する商品やサービスに自信があるなら、価格に見合う価値があるという覚悟をもって、もっと高い価格を提示すべし
5.儲けるのは「悪」とする文化的な壁適正な利益を得ることで会社も税金を納めることができ、従業員の暮らしも安定する。稼ぐことは「悪」ではなく社会福祉

「価格を自分で決められるビジネス」に共通する3つのポイント

利益を確保できる価格を自分で決められるビジネスには、共通する3つのポイントがある、と大須賀氏は言う。

一つめのポイントは「メーカーである」こと。メーカーとは、ここではその商品やサービスを「最終的な形にする立場」のことを指す。

ユニクロは、もともとは山口県にある小さな衣料品量販店だった。それが、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel=生産機能を持ったアパレル専門店)という概念を自社に取り入れ、自社開発の商品・ブランドを店頭で展開し始めた。その後、世界的なアパレルブランドに変貌を遂げたのは周知のとおりだ。

「メーカー」といっても、必ずしも企業とは限らない。街の小さなケーキ屋も「ケーキメーカー」、キャベツを生産している農家も「キャベツメーカー」。だれもが「メーカー」になれる可能性を持っているのだ。

「差別的優位性」があれば、選ばれる

二つめのポイントは「差別的優位性」。提供するモノやサービスに、他と比べて差別的優位性があれば、ライバルより高値であってもお客様に選ばれる。大須賀氏は、差別的優位性のパターンを1.オンリーワン型と2.トップランナー型に区分している。

1.オンリーワン型…自社しか持っていない独自の機能やノウハウを持っている
2.トップランナー型…これまで世の中になかったものを最初に創り出し、提供する

オンリーワン型は、さらに2つのパターンに区分される。
ひとつは「付加価値を高める」パターン。商品なら形やデザイン、機能。そのほかにも商品の提供方法、アフターサービスの充実など、付加価値を高めるアプローチはいくらでもある。

もうひとつは「ニッチを狙ってオンリーワンになる」パターン。大企業の主戦場である大きなマーケットでなく、ターゲットの限られた小さなマーケットなら、競争相手が少ないため差別的優位性を出すことが可能だ。

機能ではなく「価値」を伝えるスキル

三つ目のポイントは、「価値」を伝えるスキルだ。差別的優位性を持っていても、お客様にその価値が伝わっていなければ、それは存在していないのと同じである。

価値を伝える基本は、「ベネフィット」を伝えること。その商品を使うことで、どんな不便や不満を解消することができるのか。どんな欲求を充足させられるのか。つまり、商品を購入した先の「未来」を想像させることが重要だ。

エスキモーに冷蔵庫を売るのに「製氷機能がナンバーワンで氷が短時間でできます」と言っても響かない。ところが、「これでアザラシの肉を保管すると凍らないのです」と伝えれば、冷蔵庫の必要性に気づかせることができるだろう。

「値決め」こそが経営である

京セラの創業者である稲盛和夫氏は、「値決めは経営である」と言っている。まさにそのとおりで、値決めによって、稼げるかどうか、会社を持続的に成長させることができるかが決まるのだ。

繰り返すが、価格を決めるうえでは原価や市場の相場、清貧を美徳とする文化など、さまざまなバイアスがかかる。特に、現場の従業員はそのバイアスにとらわれてしまいがちだ。それを取り払い、自信を持って適正な価格を決めることこそ、まさに経営者の役割といえるだろう。(提供:THE OWNER

文・堀尾大吾