ブランディング戦略は、テレビCMや雑誌などの広告に莫大な予算を投入できる大手企業が取り組む仕事だと思われがちだ。しかし、SNSが発達した今、すべての企業に自社をPRする機会が与えられている。今回は重要性が増すブランディング戦略について解説していこう。
目次
ブランディング戦略とは?
あるメーカーの名を耳にしたとき、「品質がよい」「環境に配慮した会社」など、消費者はさまざまなイメージを抱く。
化粧品であれば特定のメーカーを思い浮かべるように、すでに歴史のある大手であれば少なからず企業に対するイメージが湧く。
ブランディング戦略では消費者に抱かせるイメージを追求する。特に、名前や製品が広く知られていない中小企業の場合、ブランディング戦略が与える影響は無視できない。
ブランディング戦略がもたらす効果は、単に製品の販売促進という面だけにとどまらず、企業のイメージアップによる企業価値の向上が期待できる。
ブランディング戦略とブランディングの違い
消費者に抱かせるイメージの追求といえば「ブランディング」と混同する人もいるかもしれない。「ブランディング」とは、ブランド(企業や商品)を顧客のニーズや期待に合わせて育て発展させていくマーケティング活動のことをいう。ロゴや商品デザイン、商品名、キャッチコピーなどによって企業メッセージを伝え消費者の心を動かすことだ。
一方、「ブランディング戦略」は、自社自身や自社商品への認知を広げ価値・イメージを高めるために自社のビジネス計画に沿ってブランディングを行う戦略である。一般的にブランディングはマーケティングや企画部門など企業内の一部の組織が行うが、ブランディング戦略は、組織全体の一人ひとりが重要な役割を担うといっても過言ではない。
なぜなら自分たちのブランドがどんなもので、消費者にどんなメリットを提供できるか、社会での存在意義は何かといった認識を組織全体で共有しブランド価値を高めていくことが必要だからだ。
ブランディング戦略の必要性
冒頭でも述べたが、近年では中小企業や小規模企業においてもブランディングの必要性が高まっている。その理由の一つとして挙げられるのが景気の低迷だ。物価は上昇しても収入があまり増えない状況下では、消費者の購買力が縮小していく。このような状況のなか顧客に選んで購入してもらうことは、自社が生き残っていくために重要なことだ。
市場に競合商品がなく需要が常にある場合は、景気が低迷しても売上は望める。しかし現代社会の成熟した市場では、競合相手を意識しながら事業を行っている人のほうが多いだろう。このような場合には、自社の商品やサービスの差別化を図ることが重要となる。
しかし世の中に「似ている」商品・サービスがあふれている以上、差別化できるのは「消費者に与えるイメージ」が重要なカギを握る。つまりブランディング戦略なのだ。オンラインショッピングなど購買形態の変化もブランディング戦略が必要性を増している理由の一つである。自社商品を宣伝する方法といえばテレビCMや新聞や雑誌への広告、看板などが主流だが莫大なコストがかかるため、中小企業では厳しい。
しかしオンラインショッピング市場の拡大に伴い自分が気に入るモノやサービスをインターネット上で検索する消費者も増えている。なかには、インターネットやSNSを使った宣伝に力を入れている会社もあるのではないだろうか。言い換えれば中小企業や小規模企業でも宣伝しやすくなった分、ブランディングをして消費者の心をキャッチする戦略が必要なのだ。
ブランディング戦略の5つのステップ
ブランディング戦略を立てるには5つのステップを踏む。
ステップ1.市場調査とポジショニング
市場調査では、販売製品の市場規模や購買層の年齢・職業・性別などのデータを集計し、分析する。ポジショニングでは同業他社を位置づけする。
具体的には、縦軸に性能の高低、横軸に価格の高低を定めたグラフに類似製品を販売するライバル企業の各社を表示していく。
ステップ2.ターゲティング
次は顧客となるターゲットを絞る。その際、すでに実施した市場調査やポジショニングを有効活用する。
市場調査で顧客層の中心が判明したら主要となる顧客層に訴求するのか、手薄な顧客層を開拓するのかについて判断する。また、ポジショニングで他社と差別化しながら独自路線でターゲットの顧客にPRする。
ステップ3.コンセプトデザイン
コンセプトデザインの定義の一つはデザイナーの狙いや意図などの概念を視認できるデザインに落とし込むことだ。
具体例としては、3R(Reduce Reuse Recycle)のキャンペーンマークが挙げられる。このデザインは、3つのRに異なる色を配色している点が特徴的だ。オレンジは人間、グリーンは大地、ブルーは空を表現している。
2本の足になぞらえたRの文字には、3R活動を前進させる狙いが込められている。3Rを視認できるデザインにすることでブランドアイデンティティを築いたといえる。
ステップ4.ブランドイメージの統一
続いてブランドイメージを統一する。ブランドイメージの統一は、企業の一貫した価値観として市場・消費者に訴えることだ。コンセプトデザインが決まりロゴ・キャッチコピーなどを作る際にデザイン・フォント・カラーなどを統一。
可視化できるロゴ・キャッチコピー・カラーなどは、抽象メディアともいわれデザインを統一することで消費者に好感という心理作用を発生させる。企業サイトや会社案内、商品パッケージ、名刺、封筒、販促グッズなどさまざまな広報メディアやツールのデザインを統一するルールを守ることが大切だ。
ステップ5.訴求方法の策定
商品やブランドイメージ、ターゲットに合わせて訴求方法を策定する。訴求方法には、例えば広告、広報・PR活動、イベントやプロモーションなど方法はさまざまだ。しかし想定しているターゲットにブランドを認知してもらうために効果的な方法は何かを考え、それに沿った媒体やツールをしっかりと選びたい。
ひとくちに広告といってもテレビCMや屋外広告、インターネット広告などさまざまだ。近年は、TwitterなどのSNS、YouTube、ブログなどで自ら発信する方法やインフルエンサーを起用しブランドのイメージアップを図る方法で高い効果を得る企業も増えている。
ブランディング戦略のメリット
ここまで中小企業にもブランディング戦略の必要性が高まっていることを説明した。ここでは、ブランディング戦略を実行することが、自社にどのようなメリットをもたらすか整理してみよう。
・知名度アップ
ブランディング戦略を実行することで知名度アップが期待できる。知名度が上がるだけで売上がアップするわけではないが知名度を上げることで消費者心理に働きかけるのに効果的だ。「単純接触効果(ザイアンスの法則)」によると、人はある人やモノへの接触回数が増えるほど警戒感を解き次第に行為を抱くようになる。
モノやサービスの購買に関しても同様だ。ブランディング戦略によって自社および自社商品の知名度を上げることは、売り上げに貢献する効果を期待できる。
・信頼性の獲得
顧客の信頼性を獲得できるメリットもある。近年の消費者は、インターネットやSNSで自分が本当に気に入る商品・サービスを探し求める傾向にあることは前述した通りだ。一般的に消費者は、モノ・サービスを購入したとき自分が期待していたことと商品・サービスの特性がマッチしていれば満足し自分で探し求めて選んだ商品に行き着くほどその満足度は高くなる。
満足度が上がることで「信頼できるブランド」「思い入れが強いブランド」として育つことが期待できるだろう。ブランドの価値を理解し周りに広めてくれる理想の顧客は、企業の成長のためにも大切だ。
・他社との差別化
もう一つのブランディング戦略のメリットが他社との差別化を図れることだ。差別化と聞くと商品特性の違いや価格を下げて消費者にお得感をアピールすることをイメージするかもしれない。しかしブランディングによる差別化は、その商品・サービスを選ぶことで「競合商品・類似商品にはない付加価値を得られる」というイメージを消費者に持ってもらうことだ。
例えば環境づくりに徹底的にこだわっているスターバックスの場合「おいしいコーヒーを飲める」といったことだけに留まらない。「おいしいコーヒーを飲みながらゆったりとした気分でくつろげる」という付加価値を消費者に与えているのだ。こうして他のコーヒーショップとの差別化を図ることに成功している。
・価格設定を高めにできる
ブランディング戦略によって他社との明らかな特異性を作り出し競争優位性を保てるようになれば価格を高めに設定しても売れるようになる。ブランディング戦略で顧客が自社商品・サービスを信頼し圧倒的なファンとなれば類似商品と比べることなく自社商品を指名買いしてくれる状態になることも可能だ。
結果的に価格競争に巻き込まれることなくプレミアム価格を維持しやすくなり利益率向上にも貢献するだろう。
・資金調達に有利
ここまで述べてきたようにブランディング戦略を行うことで知名度の向上やファン(信頼)の獲得、高くても売れるなど経営上の数々のメリットを期待できる。このことは、事業拡大などで資金調達が必要になったときに有利に働くはずだ。例として株式投資をイメージしてみるといいだろう。
株式投資で自分が企業に資金提供する際にも「信頼できるブランド(商品)を供給しているから成長を望める」「リスクが低くて安心できる」などの理由で資金提供も期待できる。もちろん融資の場合も同様だ。
ブランディング戦略の最新成功事例8
ブランディング戦略の理解を深めるために、企業の取り組みや成果を最新事例で紹介しよう。
成功事例1.ハズキルーペ
印象的なテレビコマーシャルでブランディングに成功したのがハズキルーペである。メガネ型拡大鏡の販売で知られる企業だ。
世間では、高齢者がルーペを片手に新聞を読むイメージが定番であり、必然的に顧客となる高齢者をターゲットにするため、起用されるCMタレントもその年齢層に合わせられた。
一方、ハズキルーペのCMに登場するのは、武井咲や小泉孝太郎など拡大鏡のターゲットにならない若者である。しかし、その起用からは隠された意図が読み取れる。
今まで拡大鏡は視力の低い高齢者が新聞などを読む際に必要とされたが、スマホ老眼という症状に悩む若年層も拡大鏡を求めるようになった。
ハズキルーペは時代の潮流を適格に読み、若いタレントの起用で新たなターゲット層の獲得に成功した。
成功事例2.マツダ
企業のブランディング活動を評価する「Japan Branding Awards 2019」では、自動車メーカーのマツダが最高賞を受賞した。
同社はブランド価値に焦点を当てて経営を推進している。そのブランド理念は、カーライフを通した人生の輝きの提供や、地球・社会と永続的に共存する車の提供などを掲げている。
この理念にもとづき、ブランド価値を明確にしたことなどが評価された。
成功事例3.スターバックス
スターバックスのカフェでコーヒーを飲むひと時には、お洒落で洗練されたイメージを抱くだろう。これはまさにスターバックスのブランディング戦略の成果である。
興味深いことに、スターバックスはブランディング戦略のためにテレビCMを一切実施していない。スターバックスのように世界中で名を馳せる企業になれば、ゴールデンタイムのCM契約も資金面では問題なさそうである。
しかし、広告に頼らず店舗に来客した顧客への満足度を上げることで、ブランド価値を向上させている。
スターバックスでは、快適な椅子、Wi-Fi、充電用コンセントなどが配備され、厳選された味わい深いコーヒーを片手に何時間でもくつろげる。
ターゲットの店内体験を重視することで、同業他社と一線を画したブランディングに成功した事例だろう。
成功事例4.スーパーホテル
スーパーホテルは、企業ロゴとコンセプトを一新させるブランディング戦略に成功した。
低価格ホテルとして支持を集めてきたが、「Natural Organic Smart」というコンセプトのもとで新たなブランディングプロジェクトに取り組んだ。
ホテルとして何を守り、何を変えていくのかが課題だった。その課題と向き合いながら、経営者や従業員、宿泊客などの意見をふまえて一新されたのがロゴマークである。顧客を元気にするという発想から、ロゴの文字はビタミンカラーである黄色を維持した。
また、「Natural Organic Smart」のコンセプト通り、客室やアメニティは天然素材にこだわり、提供する朝食も健康志向を意識した。
同社は自社の強みを取捨選択し、それを宿泊客に視覚化することでブランド価値を向上させた。
成功事例5.スノーピーク
「Japan Branding Awards 2019」では、ファッションブランドとしてスノーピークだけが受賞した。
「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージを掲げ、顧客目線に立ったアウトドア製品の開発・製造・販売などを通じて、現代社会で希薄化する「自然と人のつながり」や、「人と人のつながり」を提案している。
こうしたガイドラインの策定や新規事業が評価され、受賞につながった。新潟県三条市に本社を構える従業員341人のスノーピークは決して大企業ではない。
スノーピークはブランディング戦略によって確固たる地位を築くのに成功したといえよう。
成功事例6.Apple
Appleと聞けばすぐにリンゴのロゴマークやシンプルでスタイリッシュなデザインの製品を連想できるのではないだろうか。製品に触れたことがあれば操作性や機能性の良さもすぐに思い浮かべることができるかもしれない。Appleは洗練されたデザインや使いやすさによってユーザーの感性に訴えかけ、「Apple」というブランドそのものの価値を磨き上げてきた。
毎回、新製品が出るたびに行われるプレゼンテーションを楽しみにしている人も多いだろう。実際にAppleは、日経リサーチが毎年実施している企業ブランド調査「ブランド戦略サーベイ(2021年版)」において、3年連続で首位の座を獲得している。
デザインや機能性の起点は、あくまでも使いやすさやどうすれば自社製品に愛着を持ってくれるかといったユーザー視点だ。「シンプル」へのこだわりによって他社がまねしにくい独自性の確立に成功した例でもある。
成功事例7.ユニクロ
ブランディング戦略により、かつての低迷期から脱却に成功し、揺るぎないブランド確立に成功したのがユニクロだ。一定年代以上の人のなかには、かつて「安かろう、悪かろう」というイメージを持たれていたことを覚えている人もいるだろう。このブランディング戦略の一つが「Life Wear」というコンセプトだ。
Life Wearとは「あらゆる人の生活をより豊かに、より快適にする究極の普段着」を意味する。生活ニーズから考え抜かれた美意識のある合理性を持ちシンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている普段着だ。デザインは、非常にシンプルだが保温性や通気性など着用時の快適性や着心地にこだわる新しい価値を提供している。ヒートテックやエアリズムといった商品ブランド名も世界中で定着している。
ユニクロは、プロテニス選手の錦織圭氏やジョコビッチ氏をはじめ世界中のトップアスリートをグローバルブランドアンバサダーに起用することで知名度を向上させる戦略をとってきた。Life Wearのコンセプトとユニクロブランドの魅力を世界に伝えることにも成功した例だ。
成功事例8.無印良品
シンプルなデザインといえば「無印良品」も代表例だ。しかし無印良品のシンプル戦略は、他のブランドと少し異なる部分がある。ここまで紹介してきたAppleやユニクロなどでは、シンプルであるがゆえ他社がまねできない独自のコアとなる魅力をアピールしているのが特徴だ。しかし無印良品の場合は「これ『が』いい」ではなく「これ『で』いい」という満足感を目指している。
考え方によっては、市場に多くあふれたモノのなかからなんとなく手にしたモノを「これでいいか」と選んでもらうイメージだ。それでも無印良品は、「創造性を省略するシンプルさは優れた製品につながらないことを学んだ」と企業サイトのなかで述べている。無駄なプロセスは徹底して省略するが最適な素材や製法、形を模索しながら、「素」を旨とする究極のデザインを目指す……こうしたメッセージが無印良品のブランディング戦略だといえる。
ブランディング戦略の最新失敗事例2
ブランディング戦略で成功する企業が現れる一方、うまくいかなかったケースも散見される。教訓として活かすために失敗事例も紹介しよう。
失敗事例1.カゴメ
カゴメは、トマトジュースやトマトケチャップにおいて強固なブランディングを築いたが、そのブランドが危機にさらされた苦い経験もある。
過去に総合食品メーカーとしてのポジションを目指し、コーヒーや紅茶にも事業を拡大した。しかし、大量に在庫を抱え、たたき売りしてさばく事態になり、商品の値崩れによってブランドイメージを損ねる結果を招いた。
そこで取扱商品の数を減らし、1995年に野菜を手軽に補えるミックスジュース「野菜生活」の販売を開始し、主力に成長させた。
さらに、1998年には「トマトと野菜カンパニー」をコンセプトにブランディングを強化することで、起死回生の復活を果たした。
失敗事例2.トロピカーナ
ロゴの変更に失敗したのが果汁ブランドのトロピカーナである。商品のパッケージデザインを変更した結果、顧客からのクレームが殺到した。
結果として売り上げが減少し、デザインを戻すはめになった。中身のジュースは変わらないにも関わらず、売り上げが減少した理由は、消費者がパッケージに愛着を持っていたからと推測できる。
消費者の気持ちを尊重しなかったことがブランディング戦略の失敗要因だったに違いない。
ブランディング戦略の成功法則
企業規模に関わらず、ブランディング戦略が求められるのは明白だろう。成功例・失敗例から読み取れるように、戦略を立てる上でターゲットを見誤らないことが重要である。
自画自賛のブランディング戦略で顧客を置き去りにすると、これまで築き上げた顧客との信頼関係は一瞬で崩壊しかねない。
したがって、ブランディング戦略では顧客目線からブランド価値を発信する姿勢が求められる。
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