(本記事は、川田利明氏の著書『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)
たかがラーメン、されどラーメン 会社は絶対に辞めないほうがいい「ノビノビ」の意味を履き違えるな!
個人経営の店を出したい、と考えている人は多いと思う。日本の企業の「終身雇用神話」が崩れてきたことも、その要因ではあるだろう。
勘違いしている人がすごく多いので、あえてここに書いておくけれども、脱サラをして自分の店を構えたら、人間関係からも解放されるし、「好きなことをノビノビとやれるようになる」と考えているなら、それは大間違いだ。
なんとなく会社に縛られて、窮屈な毎日を送っているような感覚になっているのかもしれないけれど、会社を辞めて、初めてわかると思う。「あぁ、俺は会社という大きな組織に守られて、実はあの頃のほうがノビノビと生きていたんだな」と。
プロレスラーでも「俺はもっと評価されたい。会社はわかっていない!」と会社を
飛び出して、自分で新団体を立ち上げる人間が一時期、ものすごく多かった。
自分がトップレスラーで、なおかつ社長。
たしかにやりたいことはできるかもしれないけれど、これもまたラーメン屋と同じで、新団体が10年以上にわたりきちんと継続できた例は、1割にも満たないだろう。実質、開店休場状態の団体は継続なんて言えない。自分が見せたいものと、お客さんが見たいものが合致しなければ、お客さんは来てくれないし、お客さんに来てもらうために自分のやりたいことを我慢するようになったら、それこそ「ノビノビやれる」とは、逆行した生き方になってしまう。
俺は全日本プロレスに骨を埋めるつもりでいた。
ジャイアント馬場さんがまだ生きていたら、元子さんが経営に関わっていたら、間違いなく、俺はまだ全日本プロレスに残っていただろう。
経営者が変わり、会社の組織も変わり、最終的には未払いが続くようになってしまったので、生きていくために辞めざるを得なくなってしまったのは残念だったけれど、自分で独立して団体を立ち上げようなんて考えたこともなかったし、お世話になっていた天龍さんがSWSに移籍した時も、高校からの先輩である三沢さんがプロレスリング・ノアを設立して多くのレスラーがそちらに動いた時も、俺はまったく迷わずに全日本プロレスに残った。
そんな俺がラーメン屋を立ち上げたのだから、レスラー仲間は本当にびっくりしたんじゃないかな?「あいつがプロレスから離れるなんて!」とね。
それだけ俺は腹を括って、店をやっている。
でも、サラリーマンの人たちがそこまで腹を括ってラーメン屋をやる必要があるかな、と正直、俺は思ってしまう。
さっきもデータでお見せしたように、10年後も新規店が続いている可能性はわずか1割しかない。今、勤めている会社が10年後も存続している可能性は、きっとそれよりも高いはずだ。もちろん収入だって安定するだろうし、老後の年金支給だって多くなる。それを捨ててしまうのはどうなんだろうか?
10年後のこともそうだし、1年以内で4割が閉店に追い込まれているという事実を突きつけられても、あなたはまだラーメン屋をやりたいと思いますか?
東京だけでも3000店舗以上あるのに、あなたは本当に生き残れる自信や根拠ははありますか?
俺の知り合いにも、どうしてもラーメン屋を続けたくて、店の場所を変え、味を変え、必死に頑張ってきた人がいるけれども、3回目の移転が失敗したことで、ついにギブアップ。今ではラーメンとはまったく別の飲食店を営んでいる。
そういう同業者の苦労も見てきているからこそ、「脱サラしても、ラーメン屋だけはやるな」と俺はこの本で言い続けている。俺の愚痴ばかりに聞こえるかもしれないけれど、それは違うんだ。
たかが、ラーメン。
されど、ラーメン。
たった一度の人生だからこそ、どこかで思い切って人生を賭けたくなる気持ちもわからないではないけれども、「1年で3000軒が潰れてしまっている」という異常なデータを見ても、人生を賭けられますか?
こんなギャンブル、なかなかない。いや、ギャンブルのほうがリターンに期待できるかもしれないな。ラーメン店で「万馬券」が出る確率は極めて小さいからね。
ちょっと街を歩けばわかると思うけど、全国どこでもあっちにもこっちにもライバル店がある。特にチェーン店は、もはや太刀打ちできない強さなんだ。
個人営業の店では絶対に敵わない! 大手チェーンの資本力と「オープンセール」という裏技
よっぽど辺鄙なところに出店しない限り、間違いなく、同じ商圏の中には大手チェーン店が軒を連ねていると思う。
いわば最大のライバルというか商売敵なのだが、これには「個人では絶対に敵わない!」と断言してしまってもいい。
基本的に大手チェーンはセントラルキッチンですべての食材を調達・加工して、それを各店舗に配送するシステムを取っている。
だから全国、どの店舗に入っても同じ味のものが出てくるし、食材も大量に仕入れているから、かなり安い値段で提供することが可能。ラーメンを300円台で出されてしまうと……その価格設定は個人経営の店では絶対に無理だ。
俺が朝からやっている仕込み作業も、大手ではすべてセントラルキッチンで済ませているので、フランチャイズではその手間すらかからない。だから長時間営業も難しくない。午前から夜中まで開いている、ということが認知されているのも、ものすごい強みで、この部分でも個人経営の店ではとうてい太刀打ちできない。
もう、俺からしたら、大手チェーン店は「別モノ」と思ってほしいぐらいなんだけど、お客さんは同じ「ラーメン屋」というカテゴリーで並べて比較する。そんな店が近所にあったら、もう強敵どころの騒ぎではない。デビューしたばかりの新人が鶴田さんの三冠ベルトに挑むようなものだから、勝てるわけがないのだ。
もっとも、俺の店はそんなチェーン店すらも集客に苦しんで撤退してしまうようなエリアにあるんだけど、自分がお客さんの立場になって考えてみると、そこまで味にこだわらないのであれば、パッと料理が提供されて、半チャーハンや餃子を付けても500円いくかいかないかの値段というのは、たしかに魅力的だ。
そんな巨大な敵と闘い、お客さんをぶんどってこないと経営は成り立たないわけで、これは相当、高いハードルになる。
そんなチェーン店が近所にあるだけでもこっちの商売は厳しくなるのに、大手チェーン店は巨大資本がバックにあるからこその「奇策」まで仕掛けてくる。
ある日、突然、チェーン店がなくなって、同じ場所に違うラーメン屋がすぐにオープンすることがある。
有名なチェーン店ですら苦戦した場所に、よく新しい店を出せるな、と思うかもしれないが、この裏にはある「からくり」があるのだ。
店の名前も違う。
外装もまるで違う。
スープの味もまったく違う。
でも、この店も、ちょっとまえに閉店した店も、経営している会社はまったく同じ。表向きわからないようにしているだけで、リニューアルオープンしただけなのだ。
なんだかんだ言って「新規オープン」「グランドオープン」という言葉にユーザーは弱い(同じくらい「閉店セール」にも弱い)。
そういった文言の入ったチラシに割引クーポンでも付ければ、「せっかくだから、1回、行ってみようぜ!」となる。そういった広告展開も、もちろん大手チェーンの資本力があってこそできることである。
しばらくして、集客力が落ちてきたら、また、まるで違うラーメン店に衣替えすれば、そこでも「新規オープン特需」にありつける。これを2〜3年おきにやられると、コツコツやっているウチなんてバカバカしくなってしまう。
大手の場合、「お客さんが飽きてきたな」とか「減ってきたな」と感じ始めたら、すべてリニューアルすることだって可能なのだ。それこそ塩ラーメンがメインだった店が、いきなりとんこつラーメンの専門店になったりする。
個人経営では、さすがにここまで思い切ったことはできないし、リニューアルに失敗してしまったら、それはもう閉店までのカウントダウン突入を意味する。あまりにもリスキーすぎるし、常連客をすべて失う可能性もある。
ちなみにラーメン店と同じような推移を見せるのが「うどん・そば屋」だ。うどん・そば店も、ラーメン店のように毎年3000軒から3500軒開店して、ほぼ同じ数だけ閉店しているそうだ。閉店の理由には大手チェーンの存在があるのは間違いない。店舗を探す時は自分の店の立地条件だけでなく、周辺のラーメン店の動向もチェックしておかないと、相次ぐオープン戦略にひっかき回されることになるだろう。
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