(本記事は、川田利明氏の著書『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)

ラーメン経営に不可欠な3つの「○○力」を知らずに足を踏み込むな

資金力
(画像=Sayan Puangkham/Shutterstock.com)

もはや「味覚は1割」とまで言われるように、外食産業ではラベリング効果が大きな影響を与えるようになっている。

極論を言えば、これからラーメン店を出したいんだったら、料理の腕なんて磨かなくていいから、徹底的にラベリング効果を研究したほうがいい。世の中の誰よりもラベリング効果を追求しつくしたら、これまで誰も見い出せなかった飲食店の「絶対に成功する方程式」を発見できるかもしれないし、料理の腕を磨くよりも、上手くいく確率は高くなるんじゃないかな。

そもそも飲食店を経営するにあたって「料理の腕前」というのは、優先順位でいったら、決して最上位ではない。俺が思うに4番目とか5番目ぐらいじゃないかな。

それよりも大事な「○○力」がたくさんあるんだ。

ひとつ目は「体力」

これは絶対に必要だ。

ラーメン屋は基本、立ち仕事になる。俺みたいに朝の仕込みから、閉店後の片付けまでひとりでやろうとしたら、最低でも一日12時間は立ちっぱなしだし、睡眠時間だって多くても4〜5時間しか取れない。

俺はたまたま長時間寝なくても大丈夫な体質だったから、なんとかなっているけれども(もっとも見えないところにダメージは蓄積しているんだろうけどね)、これを毎日、こなすには、とにかく体力が重要になってくる。

湯気が立ち上る場所で12時間も立ちっぱなしでいる仕事というのは、ほかにはなかなかないんじゃないかな?どの仕事でも大変なことはたくさんあるけど、エアコンのきいたオフィスで一日中、座って仕事をしてきたサラリーマンの人が、いきなりこの環境に放り込まれたら、たぶんすぐに肉体が悲鳴をあげると思う。それぐらい立ち仕事はつらいんだ。

どんなに料理の腕に自信があっても、厨房に立っていられなかったら店は開けられない。だから、まず体力が絶対的に必要なのだ。

次に大切なのは「精神力」

お客さんからショッキングなことを言われたり、とんでもないことを要求されたり……というの日常茶飯事だから、いちいち悩んでいたり、凹んだりしていたら、ラーメン屋なんてやっていけない。

そういう俺も決してメンタルが強いわけじゃなくて、むしろ、なんでもネガティブに考えてしまいがちなところがある。

でもね、悪いほうへ考えたって、なんのプラスにもならないんだよ。

そんなことを考える暇があったら、新しいメニューを積極的に考えたほうがいいし、今日のスープの状態を確認したり、明日の仕入れを想像したり、と違うことに頭と体を使ったほうがいい。まあ、そう考えられるようになったのも、俺がラーメン屋を続けてきて、精神力を鍛えられてきたからなのかな、とも思う。

そして最後が「資本力」だ

本当はこれがいちばん大事だよね。金さえあれば、どうにでもなることって、商売をやっていると、すごく感じるから。

もっといえば、自宅をちょっと改築して店を出せるとか、自分で物件を所持していて、そこに店を出せる、となったら、本当に強い。家賃も保証料も更新料もかかならない。そういう好条件が揃っている人であれば、俺も「ラーメン屋にだけはなるな!」とは言わないね。

せっかくだから、物件について少し話しておこう。やりようによっては、初期投資 を抑えることは不可能ではないんだ。

仮に店舗物件を「居抜き」で取得できたとする。実際に開業資金を300万円程度でまかなえたケースを俺も知っている。ただし郊外の物件の話だけどね。俺はダメだったけど、前の店の機材を使えたら、さらなる資金圧縮も夢じゃない。

あとは「居抜き」ではなく、「スケルトン」で借りた場合は、内装工事費を含めて350万から400万程度で抑えることができるようだ。ここに調理器具などを足しても700万から800万円でできるので、1000万円との差は大きいよね。

もっとも「体力」や「精神力」は今からでも鍛えることができるけれども、「資本力」ばかりはどうすることもできない。でも、店舗探しなどのやりくりで、リカバーできるかもしれない。この3つをすべて揃えるのは困難だけど、ラーメン屋をやっていきたいなら、これらの高いハードルを越えていかなければならない。

今までの『常識』に縛られてはいけない すべてゴミ箱に投げ捨てろ!

「お客様は神様です」という名言がある。

もともとは国民的歌手の三波春夫さんの残した名言なんだけど、いつのまにか、どんどん違った意味で言葉だけがひとり歩きしてしまった。

三波春夫さんがステージから客席に向かって言ったのは、「こうやってお客様が客席を埋めてくれなかったら、私たちはステージに立てません」という感謝の意味を込めた言葉だったと思う。ジャンルは違うけれど、俺もプロレスラーとして、お客さんの前で闘ってきたから、その想いはよくわかる。

そんなエンターテインメントにおける演者と観客の関係性を指す言葉が、いつのまにか「お客様は神様のような存在だから、誰よりも偉い」と拡大解釈されるようになり、飲食業界でも当たり前のように使われるようになってしまった。

たしかにお客様は神様だ。それは間違いない。

お客さんが来てくださらなかったら、店は存続できないし、本当に大事でありがたい存在で、これはもう当たり前すぎる話だ。

それを我々、店側の人間が言うんだったらわかる。でも、「俺は客だぞ、神様だぞ。俺の言うことを聞け!」とお客さんから言われてしまうと、それはどうなんだろうか、となってしまう。でも行きすぎた「おもてなし」精神が浸透した今、そういう人が増えているので、それはもう受け止めなくてはいけない。

この本の中でも、「ランチタイムにラーメンを食べた方はカレーライス無料」というサービスを始めたら「無料のカレーだけくれ!」という人がたくさんやってきた、という話を書いたけど、こんなのはほんの一例。とにかく、サラリーマン生活とは違って、常識的な受け応えだけしていればいい、というわけではなくなる。

自分が客としてラーメン屋に通っていた時のことを思い返してみてもそうだが、無意識のうちに「客のほうが偉い」という言動を取っているケースを見かけないかな。

たとえばあるお客さんがビールを飲んでいる時、つい手を滑らせて、コップをひっくり返してしまったとする。

店側には過失はないとしても、基本的に店員は「気にしないでいいですよ」どころか、「大丈夫ですか?」と心配するように声をかけ、代わりのビールまで提供する。テーブルからコップが落ちて割れてしまっても、まったくの不問だ。

実は割り箸は高いというエピソードも前に書いたけど、こぼしたビールで割り箸がびしょびしょになってしまったら、もう使いものにならないから、泣く泣く廃棄処分にするしかない。細かい話だけど、爪楊枝だって同じだよね。こういう状態になったら、すべて店側が負担するのが、暗黙の了解になっている。

俺が客として飲食店に通っていた時にこういう状況に陥ってしまったら、「すいませんね」とは口にしていたけれども、あとは店員に言われるままにしていた。よくよく考えたら、あきらかにこっちが悪いんだけど、なんとなく「客のミスは悪くない」という空気がどこの店でもできあがってしまっているんだよね。

いざ、経営する側に回ったら、そういうロスがなにげに痛手になる。

さっき補充したばかりの割り箸が一瞬にしてダメになってしまったりすると、その場ではさすがに顔には出さないけど、内心「ああ〜っ」となるもんね。お客さんにコップを割られても、ウチでももちろん請求できないから。

とにかく飲食業や接客業をやっていると、一事が万事、こんな感じになることが多いんだ。挙げればキリがないけど、ほかにもいくらでもある。

たとえばトイレ。営業中も定期的に掃除をするんだけど、ほとんどのお客さんはきれいに使ってくれる。でもマナーが悪い人が少しだけいて、ちょっと尿が便座にかかっているなんてかわいいもの。汚い話で恐縮だけど、トイレ中に吐き散らかしたり、大便を床に撒き散らす人もいる。掃除にかかる手間も時間も大変だ。

一般的なビジネスの場合、こちらが常識的な提案をすれば、相手側も常識的な返答をしてくるから、スムーズに話が進む。

でも、接客業の場合「お客様は神様だ」という意識でいる人が多いので、こちらが想定していないような要求をされたり、世間一般で言われるような常識では測りきれないような、ものすごく理不尽なことを言われたりもする。

そこはもう「精神力」でぐっとこらえるしかない。そんな時はちょっと冷静になって、自分が客の立場だった時に、無意識のうちに理不尽なことをしていなかったかどうか考えてみることだ。「常識どおりに事が進まない」とイライラしていたら、この商売は絶対に続けてなんていけないからね。

開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学
川田利明(かわだ・としあき)
1963年12月8日生まれ。栃木県下都賀郡大平町(現:栃木市)出身。高校ではレスリング部に所属し、国体優勝後の1982年の3月に全日本プロレスに入団。同年の10月4日、冬木弘道戦でデビューを果たす。1994年には『94チャンピオン・カーニバル』にて初優勝。同年、日本武道館大会にて第12代三冠ヘビー級王者となった。現在、選手としてはリングから遠ざかっているが、2018年からは自身初プロデュースとなる『Holy War』を開催。プロレス界の発展に尽力している。一方、2010年6月12日に、ラーメンと鶏の唐揚げを看板料理として、自身のニックネームにちなんだ『麺ジャラスK』を開店。今年で11周年を迎えた。テイクアウトも充実!お店の情報は川田さんのTwitter:@orenooudouでチェック!

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)