(本記事は、川田利明氏の著書『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』ワニブックスの中から一部を抜粋・編集しています)

強いメンタルのススメ 「こんなのカップヌードルのレベルだ」はラーメン屋にとって最高の褒め言葉と思え

カップ麺
(画像=Jat306/Shutterstock.com)

お客さんはお金を払っているので、正直に感想を言う権利がある。

まずいなら、どこがどうまずいのかを言ってもらえれば、こちらとしても今後の参考になるんだけど、そういった理由は書かずに、ひたすら「まずい」と貶めるような書き込みがネットにはゴロゴロ転がっている。

いわゆる「ラーメン通」と呼ばれる人たちは、ラベリング効果ではないけれど、いろいろと経験と知識がある分、もう来店する前から、ある程度、評価を定めているケースが多い。

「あの有名人が足しげく通う隠れた名店」 「ここの店主はあの店で修行していたから、味に間違いはないはずだ」

といった感じで、もう入店する前から、高評価が固まっているので、そりゃ、旨く感じるよね。いざ美味しくないと感じてしまっても、自分が拡散した知識を否定することになるので、決してボロクソには叩かない。

逆にウチのように、そこそこ知名度のある人間が店を出した時には、もう最初から粗探しをするノリで店にやってくるから困ってしまう。

今は読売ジャイアンツでコーチを務める元木大介さんもかつてラーメン屋を開業し、あっという間に3店舗にまで拡大するほど上手く商売を回していたけど、やっぱり嫌がらせやバッシングには悩まされた、とテレビで話しているのを見たことがある。

結局、すべての店舗を畳むことになってしまったそうだが、自分の名前でお客さんを呼べる反面、そのこと自体が反感を買ってしまう要因にもなるので難しいところだ。元木さんの場合、店舗を拡大した結果、すべての店舗の味の状態を把握できなくなってしまったことが店を畳む直接の要因だとも話していたけれど、このご時世でそこまで店を大きくできるのはすごいことだし、夢のある話だなとも思ったよ。

そういえば、ウチがカレー白湯を出し始めた頃、よくネットで「あんなものはカップヌードルのカレー味レベルだ」と書かれていた。

きっと、その人はウチの味を貶めようとして書いたんだろうけど、それって、実は最高の褒め言葉なんだよね、俺にとっては。

毎日毎日、なかなかスープの味が安定しないことに悩んで、時にはスープの味に納得がいかなくてランチ営業をやめるような日もあった。たまに「今日はスープの出来が悪いのでお休みします」という木札をほかのラーメン屋で見かけることがあるけど、その気持ちに偽りはないと思うよ。

そんな苦労の末にできたスープを飲んで、「カップヌードルのカレー味レベル」とわざわざ書き込んでくれた。日々、悪戦苦闘して作っているスープを、万人に愛され、超ロングセラーとして世界中で食されているカップヌードルのスープに並ぶレベルだと評価してくれている。ああ、ありがたいことだ。

……これはもちろん、自分なりのメンタル術。「ありがとうございます。ウチのラーメンはまだまだそのレベルには達していないし、これからも精進していきます」とポジティブに考えないと、ラーメン屋なんてやっていけないよ。ネットの書き込みで落ち込んでいたらきりがないからね。

俺があんまりそういう意見に影響されないのは、ネットがない時代を長く生きてきたからじゃないかな。

1990年代には、いろんな意見や苦情は手紙で送られてきた。

一度、ジャイアント馬場さんに呼びだされて「お前、これはなんとかしなくちゃイカンよなぁ〜」と一通の手紙を渡されたことがある。その手紙には「川田選手と記念写真を撮ってもらいましたが、現像してびっくりしました。まったく笑っていないんです。これはファンに対して、あまりにも失礼じゃないですか?」と書かれていた。

馬場さんはこれを読んで、改善しろと俺に言った。さすがに馬場さんに口ごたえはできなかったけれど、俺はその社長命令を受け入れることができなかった。

これまで何年もかけて「無愛想で不器用で武骨」というキャラを創り上げてきたのに、記念写真でニコニコしてしまったら、そのイメージはすべて壊れてしまうし、それによって俺の個性がなくなってしまったら死活問題だ。

日本全国に何十万人もファンがいる中で、一通の手紙だけをピックアップして、それに流されるのはどうかな?食べログもたったひとりが複数人を装って書いているのかもしれない。だから、俺は参考にはするけれど、そのすべてを鵜呑みにはしたくないし、何よりも個性だけは捨てたくない。

あなたに運はありますか? ラーメン屋で行列店になるのは1000店の新規店のうち1店舗?!

テレビで取り扱ってもらえるお店はわずかだし、複数回となると本当にごく一部の店だけだ。

ウチも乃木坂46が出演する番組で紹介してもらったけれど、話題になっているからテレビに出られるのか、テレビに出たから話題になるのか……いずれにしても一回出たぐらいでは、客足がものすごく伸びるわけでもない。実際、放送後もそれほど客足が伸びたわけではない。

それでもテレビの影響力はすごい。ああやってテレビで流れると、なんとなく流行っているような感じに映るし、それでラーメン屋を目指す人が増えてしまうんだけど、俺の感覚で言えば、新規の店が1000軒あったら、そこから絶えず行列のできる大人気店になれるのは、まぁ、多くても1店舗かな、というレベル。それが現実だよ。

でも、テレビでは「こうやって成功するのは1000軒に1軒ぐらいです」とは言わないでしょ?ものすごいレアケースで人気店になったお店も、放送上は「なるべくして人気店になった」みたいな扱いになる。

いっそのこと、画面の隅っこに「これは特別なケースであり、誰が開業しても成功するわけではありません」とテロップを出してもらいたいぐらいだ。

テレビで紹介された1000軒に1店舗のヒット店を見て、過剰に夢を抱いて、ラーメン業界に飛び込んできたら、あまりの厳しさに1年で撤退することになる。そういうケースがあまりに多すぎて、なんだか気の毒になってきてしまう。

でもね、1000軒に1店舗でもミラクルが起きてしまう以上、俺も「絶対に成功しない」とまでは、なかなか断言できない。

時にはラッキーが重なって人気店になってしまうケースも稀にある。まったく経験 のない人がひょんなことで大儲けしてしまう「ラーメンドリーム」みたいなものはたしかに存在する。こればっかりは誰にも予測ができない。

ラッキーで思い出したけど、昔から新木場に小さなラーメン屋があってね。建物は古いし、床もツルツルすべるような小汚い店だけど、地元の人たちが足を運んでくれるから、経営はなんとか成り立っていた。

それがいつからか、ジワジワと外からの客足が伸びてきた。

味を変えたわけでもないし、お金をかけて宣伝をしたわけでもない。もちろんテレビで紹介されたわけでもない。今までどおりの営業を続けてきただけなのに、特に週末の夜は客足がどんどん急上昇していった。

実は近辺に『新木場1stリング』というプロレス専門の会場がオープンし、そこで試合を観戦したお客さんが、プロレス帰りに足を運んでくれるようになったのだ。

新木場駅の近くにはファーストフードの店は多いものの、じっくりと腰を据えて、食事をしたり、お酒を飲んだりしながら「今日の試合はこうだった、ああだった」とプロレスファンが熱く語れるような店がほとんどなかったので、みんな、自然とこの店に足を運ぶようになったのだという。

こういう予期せぬラッキーもあるのだ。店側は今までどおりのことしかやっていないのに、周りの環境が変化したことで、人の流れが変わり、いきなり繁盛店になってしまう……といったケースがね。

これがあるから、この商売は先が読めない。極端な話だけど、ウチの店の前に新しい駅ができたら行列が絶えない店になる自信はあるよ。

ただ、「自分にはラッキーが訪れるかも」という夢みたいなことを考えていても、上手くいく確率はかなり低い。なぜなら逆のケースも起こり得るからだ。

これまたプロレスの会場の話になるが、『ディファ有明』という格闘技専用アリーナがあった。「あった」と書いたのは、この会場が2018年の6月に閉鎖されたからだ。その結果、プロレスファンの足は有明から遠ざかり、潰れた飲食店も出たのだ。

話はテレビの話に戻るけど、ラーメン特集を見ていて「いやぁ、これはどうなの」と思うことはほかにもある。

「髪の毛がどんぶりに浸かっちゃうんじゃないの?」とドキドキしてしまうぐらい髪を伸ばしている、不潔な身なりの店主を「異端のカリスマ」みたいに持ち上げるのは、よろしくないな、ということだ。ラーメンは旨いのかもしれないけど、そういう人間に憧れて、変わった格好をした若者たちがラーメン屋を続々とオープンしたりするのは、あんまりいい傾向ではない。飲食店は「清潔が第一」だからね。

とにかく真面目に、清潔にやっていくしかないんじゃないかな。

開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学
川田利明(かわだ・としあき)
1963年12月8日生まれ。栃木県下都賀郡大平町(現:栃木市)出身。高校ではレスリング部に所属し、国体優勝後の1982年の3月に全日本プロレスに入団。同年の10月4日、冬木弘道戦でデビューを果たす。1994年には『94チャンピオン・カーニバル』にて初優勝。同年、日本武道館大会にて第12代三冠ヘビー級王者となった。現在、選手としてはリングから遠ざかっているが、2018年からは自身初プロデュースとなる『Holy War』を開催。プロレス界の発展に尽力している。一方、2010年6月12日に、ラーメンと鶏の唐揚げを看板料理として、自身のニックネームにちなんだ『麺ジャラスK』を開店。今年で11周年を迎えた。テイクアウトも充実!お店の情報は川田さんのTwitter:@orenooudouでチェック!

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