安倍首相は、緊急事態宣言を出して、4月8日~5月6日までは原則自宅勤務を要請した。外出自粛と併せて相当経済は冷え込むだろう。それに対する事業規模108兆円の経済対策は、個人への現金給付、事業者への給付金を柱としている。

政策
(画像=PIXTA)

原則自宅勤務の衝撃

安倍首相は、4月7日に記者会見を開き、事業規模108兆円、財政支出39.5兆円の超大型経済対策について説明した。

本稿は、その内容を詳述するものだが、冒頭、記者会見で首相が話した内容のうち、最も重要な核心部分がどこだったかを指摘しておきたい。それは、「仕事は原則自宅でしてほしい。出勤者数は最低7割は減らす」としたところだ。この発言は、その手前の説明で「専門家の試算では、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減できれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせられる」ということを踏まえたものだ。つまり、感染阻止の決定的対応は、接触機会を極端に減らすことにある。従来、三密と言われて密閉・密集・密接を避けて、イベント・集会などを控えることが言われてきた。そこから、緊急事態宣言の下ではもう一段の対応強化へと進んだことになる。すでに、東京都の多くの企業が政府の方針にならって、原則自宅勤務へと移行している。

記者会見は、経済支援を表明することが目的だったが、接触機会を最低7割減まで抑えることは経済活動を大きく制約することになる。万人がごく短期間で感染阻止を成功させるためと理解しつつも、5月6月までの緊急事態がそれ以降も長期化すると大変な波乱に陥ると直感している。108兆円という途方もない経済対策は、コロナ感染を阻止するための活動抑制に対して、心理面を含めて前向きな支援を行うメッセージを政府は打ち出したと理解できる。

正味は20兆円くらい

筆者は、経済対策を単に金額の多寡で判断してはいけないと思っている。金額が大きければ、それが良い対策だとは考えていない。

今回も108兆円の内訳を分解すると、そのことがよくわかる。全体の108.2兆円のうち、財政支出は39.5兆円である。68.7兆円は、税・社会保険料の支払い猶予26兆円と、民間資金などが42兆円とされる。

また、財政支出も、昨年12月の経済対策の未執行分9.8兆円、財政投融資約10兆円が加わる。それを除いて、19.7兆円になる。その構成は、家計への現金給付4兆円、中小企業・自営業者への給付金2.3兆円などである。新しく財政資金の投入は、正味約20兆円という目算になるだろう。

焦点は現金給付給付

「現金支給30万円」という事前の報道を聞いて、多くの国民が「もしかしたら、自分にも30万円が支給される」と色めきたった。しかし、最近の説明を聞くと、対象者はかなり絞られそうだ。

条件は、世帯ベースでみて2020年2~6月のいずれかの月収が、コロナ・ショック発生以前と比べて減少していることとなっている。そして、(1)収入が年間でみて、住民税非課税世帯となる水準まで落ちること、(2)収入が半分以下となり、住民税非課税世帯の所得水準の2倍以下となること、のいずれかを満たしていなくてはならない。

住民税非課税世帯とは、世帯人数によっても変わってくるが、例えば夫婦2人で年収155万円以下、夫婦2人子供1人で205万円以下、夫婦2人子供2人で255万円以下という所得の世帯を指す(所得割の場合)。

現金給付の受付は、市町村など自治体の窓口に申請することになるが、郵送やオンラインでも申し込みができる方針だという。

もっとも、この応募条件を自分が満たしているという人でも、きちんと必要書類を揃えるのは必ずしも容易ではないだろう。だから、家計収入の詳細なところを集めてまとめるのは、ファイナンシャル・プランナーのような専門家に相談してアドバイスを受けるのがよいかもしれない。

また、事業者については、中堅・中小企業では最大200万円の給付金が受け取れる。条件は、売上が前年同月比で▲50%以上減少した事業者である。

法人は最大200万円だが、減収分の12か月分を200万円まで受け取ることができる。

また、フリーランスを含む個人事業者は、減収分の12か月分を最大100万円まで補填される。個人事業主とは、法人格を持たない個人の立場の事業者だ。こちらも、税理士に相談する方法が、必要書類をまとめるのによいだろう。

筆者は、今回の経済対策について高く評価する。理由は、現金給付にしても対象者を困窮者に絞って、その分手厚くしている点が優れた判断だとみるからだ。今回は、バラマキとは言えない、スピード感をもって、失業や雇用リストラが始まる手前で実務対応が進むことを期待する。

反面、少し不安なのが、現金給付に申請して、素速く受け取れるかどうかに不確実性があることだ。それは、4兆円の財源見込みで、現金30万円を配ると、計算上は1,333万世帯もの数になることと比べればよい。本当に、1,333万世帯もの世帯が申請して、容易に支給を受けられるのだろうか。実務上の課題は大きいと思える。

政府の作戦

経済対策の骨組みは、まずは(1)給付金と資金繰り支援で止血、次に(2)クーポン券などの消費刺激でV字形の回復を狙っている。

こうした立体的な構想は、従来の経済対策ではみたこともない。危機だから遠慮なく公共事業を増やそうという発想がないところも好感を覚える。

とはいえ、感染の収束が長期化したときは、止血+V字形回復の作戦はうまく運ぶかどうかがわからなくなる。特に、緊急事態が終わった5月6日以降の経済活動が正常化する保証はない。中国や韓国も回復がV字形でないから、日本も回復に手間取るだろう。そのときは、第4弾、第5弾の対策が必要になると考えられる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生