要旨

● 7日に政府は緊急経済対策を閣議決定。事業規模は108.2兆円と大きな額となっているが、今回追加された国・地方の財政支出は19兆円ほどとなる。大規模であることに変わりはないが、その読み方には注意が必要だ。

● 内容は雇用維持、事業継続、生活保障に重点が置かれている。所得が減った家計、中小企業、個人事業主への現金給付、政府系金融機関や民間金融機関を通じた無利子・無担保の融資などが行われる。

● 対策の効果を最大化するため、運用面での目配せが必要だろう。速やかに資金が行きわたらなければ、対策の効果は薄れてしまう。

● 今回の対策の多くは6月までを期限としており、これを過ぎても感染拡大の終息が見られない場合には、更なる措置が必要になる。仮に終息した場合でも、終息後の景気浮揚のために財政出動を求める動きが強まろう。景気悪化に伴う税収の減少もあいまって、国債発行額は一層膨らむと考えられる。

政策
(画像=PIXTA)

経済対策“108兆円”の読み方

政府は、7日に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を閣議決定した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う感染拡大防止策や、自粛要請等に伴う経済への悪影響を緩和すべく、雇用維持、事業継続に重点が置かれた内容になっている。

経済対策の事業規模は108.2兆円とされた。GDPの2割を占める巨大な額だが、この額を読む際には気を付けるべき点が多くある。第一に、事業規模は、政府が支出する額ではない。民間金融機関による融資額などの金融措置や、事業の民間負担分も含む概念である。より狭義の概念である「財政支出」は39.5兆円となっている。第二に、その「財政支出」も厳密な意味で支出ではない。政府による財政資金を元手にした財政投融資が含まれている。今回は日本政策金融公庫による融資が中心となっている。これはあくまで「融資」であり将来の返済を伴うものである(※1)。第三に、今回経済対策の規模として打ち出されている額には、①昨年12月に策定された「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」のうち今後効果の発現する事業、②2月、3月に実施された新型コロナ対策、の額が含まれている。財政支出39.5兆円、事業規模108.2兆円は新規に追加された額ではない。

緊急経済対策108兆円の解剖
(画像=第一生命経済研究所)

これらを踏まえ、公表されている政府資料から今回の対策のフレームを改めてまとめたものが資料2である。未公表の値は逆算するなどして求めた筆者の推定値である点にご留意いただきたい。政府による直接の財政支出に当たる部分は、「国と地方の歳出」の部分が該当すると考えられる。そのうち、今回の新規追加分についてはおよそ19兆円となる(資料2赤字部分)。

緊急経済対策108兆円の解剖
(画像=第一生命経済研究所)

リーマン危機時との比較

この19兆円という規模は、リーマン危機の際と比べてどの程度なのか。2008年のリーマン危機の際を振り返ると、一般会計国費における経済対策の追加歳出額として、2008年度第一次補正で1.8兆円程度、同年度第二次補正で4.8兆円程度、2009年度の第一次補正で14.7兆円程度が措置されており、3度の補正の合計額は一般会計分のみで20兆円を超えている。

真水ベースで比較をした場合、今回の経済対策は、単体での規模はリーマン危機を上回るものとなっている。一方、現段階ではリーマン危機時の合計には届いていないといえそうだ。もちろん、今後経済対策が重ねられ、最終的にリーマン危機を上回ることになることは十分に想定される。

内容は資金繰りと雇用維持、現金給付が中心

緊急経済対策の内容は、企業の資金繰り対策や雇用維持、生活保障に重点が置かれた内容になっている。対策の本文でも、感染症拡大の収束に目途がつくまでの間の「緊急支援フェーズ」、収束後の「V字回復フェーズ」の2つのフェーズが経済対策の基本的な考え方とされており、今回の経済対策は「緊急支援フェーズ」に重点が置かれたものになっているといえよう。

国の財政支出(20年度の一般会計補正予算)をみると、補正予算総額16.8兆円のうち、もっとも大きな額が充てられているのは「雇用の維持と事業の継続」(10.6兆円)である。中小小規模事業者への融資に対する利子補給を通じた資金繰り支援に加え、事業収入が前年同月比50%以上減少した事業者に対し、減少分相当の給付金を支給する(中堅・中小企業は上限200万円、個人事業主は上限100万円)。また、家計向けの現金給付として、月間収入が住民税均等割非課税水準に達するなど、一定要件を満たした世帯を対象に、1世帯30万円の給付を行う。従前からおこなわれてきた雇用調整助成金の拡充についても、4月以降分の予算が盛り込まれている。

緊急経済対策108兆円の解剖
(画像=第一生命経済研究所)

実効性、運用が課題に

資金繰り支援や現金給付においては、手続きの簡素化や現場の事務負担軽減など、運用面にも一層の目配せが必要だろう。現金給付の支給対象には線引きが設けられたことで、現場での混乱も想定される。大規模な予算が組まれても、そのお金が家計や企業に速やかに行きわたらなければ、対策の効果は薄れてしまう。

なお、雇用調整助成金や現金給付は、その多くが6月30日までを対象としたものとなっている。感染拡大の終息が見られないようであれば、更なる追加の予算措置が求められることになるだろう。終息に向かった場合でも、今回の対策では終息後の「V字回復フェーズ」にあたる経済対策は少額にとどまっており、追加の財政出動を求める声が強まろう。20年度は年度初めから大規模経済対策が実施されることになった。年度内にさらなる財政拡張へ進む可能性が高い。今回対策の一般会計補正の財源は、全額が国債発行で賄われた。景気悪化に伴う税収の減少もあいまって、国債発行額は一層膨らむことになると考えられる。(提供:第一生命経済研究所


(※1) 2016年の経済対策の際には、国・地方の支出と財政投融資を合わせて「財政支出」ではなく「財政措置」という言葉が用いられていた。こちらのほうが言葉の意味には合っていたように思われる。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也