最近、「共有持ち分を売りませんか」というチラシを目にすることが多くなりました。これを安易に信じていいものでしょうか。今回は、共有持分権者の方に持分売却のメリット・デメリットをお伝えします。

「賃貸物件の共有持ち分を売りませんか」が最近急増

共有持分,売却
(画像=Alex_Po/Shutterstock.com)

相続の悩みで最も多いのが、「共有持ち分が重荷」です。賃貸物件があっても、他の相続人と共有している状態では自由に運用できないからです。そのような状態を見越してか、最近「賃貸物件の共有持ち分を売りませんか」というDMやチラシが増えてきました。

共有持ち分の売却は単独でできるのか

そもそも、共有持ち分は単独で売却できるのでしょうか。結論から言うと、できます。

賃貸物件を共有している場合、持分権者1人で自由に運用できません。物件そのものの売却や担保提供には、共有者全員の同意が必要です。しかし、不動産を管理・運営・売買する権利の一部である「共有持ち分」を他人に売却する場合は、他の持分権者の同意は不要です。その場合は通常の売買契約を行い、所有権の移転登記を行います。

共有持ち分売却のメリット

共有持ち分の売却には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

現金が手に入る

最大のメリットは、現金が手に入ることです。共有状態で賃貸不動産を管理・運営すると、持分に応じたコストがかかります。当然、家賃収入も持分に応じた金額です。少子高齢化の進行により、今後は空室がさらに増えることが予想されるため、「不労所得が手にできると思ったのに……赤字が続くくらいなら相続しなきゃよかった」と思うケースもあるかもしれません。

共有持分を売却すれば、自己資産の目減りをストップさせ、まとまった現金を手にすることができます。

不動産管理のわずらわしさから解放される

不動産管理は毎年の確定申告の他、契約やメンテナンスなどの手間がかかります。共有の場合は、これに収益や経費の配分が加わります。さらに、契約やリフォームには共有者全員の同意が必要です。このように、共有の賃貸物件の運営はわずらわしいのです。持ち分を売却すれば、このようなわずらわしさから解放されます。「不労所得の喜びよりも手間の負担のほうが大きい」人には良い解決策と言えるでしょう。

数次相続による将来のトラブルを避けられる

共有持分の最大の問題は、「相続が繰り返された後」に起こります。現時点で共有者同士の意思疎通が図れていたとしても、相続が繰り返された結果、持分権者がお互い知らない者同士になったり、誰かが遠方に住んでいたりすると、賃貸物件の運営に支障が出ます。共有持分があるというだけで、子や孫にとって相続が重い問題になるかもしれません。

持分を売却すれば、今後の数次相続によるトラブルを避けられます。

共有持ち分売却のデメリット

共有持ち分売却は、いいことばかりではありません。以下のようなデメリットもあります。

期待よりも安く買われる

一般的に、共有持ち分は買い手がなかなか見つかりにくいです。「賃貸物件の共有持分権者となっても、収益のメリットより煩わしさのほうが大きい」と考える人が多いからです。そのため、「共有持分を買い取りますよ」と謳う業者は、低い買取金額を提示します。特に担保権付きの物件の共有持ち分はリスクがある分、買い叩かれやすいです。

譲渡所得税の申告が必要

共有持ち分を売却して譲渡所得が発生したら、確定申告をする必要があります。譲渡所得は、以下の計算式で算出します。保有期間が5年以下なら39.63%(所得税30.63%、住民税9%)、5年超なら20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率を譲渡所得額に乗じて税額を計算します。

譲渡対価(売却金額)-〔取得費(購入金額)+譲渡費用(売却にかかった費用)〕

相続で取得した不動産の共有持ち分の取得費は、被相続人が取得したときの購入価額をもとに考えます。保有期間は、被相続人が購入してから売却するまでの経過期間で判断します。取得金額がわからない物件の取得費は、「譲渡対価×5%」で計算します。先祖から受け継いできた土地の上に立つ賃貸物件の共有持ち分を売却すると、譲渡所得税が発生する可能性が高いです。

他の持分権者から反感を買う

共有持ち分は他の共有者の同意を得ることなく、単独で自由に売却できます。ということは、黙って売却することもできるわけです。他の共有持分権者が今後会うことのない他人ならいいかもしれませんが、親類縁者の場合は関係が悪くなることで、その後の付き合いに支障が出るおそれがあります。

十分な検討や話し合いの上で売却を

共有持ち分を単独で売却して現金が手に入っても、思ったより低い金額になってしまう上、納税の心配もしなくてはなりません。また、賃貸物件の管理・運営全体のことやその後の付き合いを考えると、1人で決断せず、事前に他の共有者に相談するのが無難です。安易に決断せず、時間をかけて検討した上で売却するようにしましょう。(提供:YANUSY

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