あらゆる業種の中で、飲食店の経営は難しいとされている。新しい飲食店が開業しても、数ヵ月後には、閉店していたり別の飲食店に変わっていることも少なくない。今回の記事では、飲食店の経営が難しい理由と、飲食店経営で失敗しないために実践すべきノウハウについて解説する。

飲食店の経営は本当に難しいのか?

飲食店
(画像=WStudio/Shutterstock.com)

そもそも飲食店の経営は客観的に見て本当に難しいのだろうか?飲食店経営の難易度を測る上では、中小企業庁が公表している「開廃業の現状」に記載された業種別の開廃業率が参考になる。

業種別の開廃業率データ(2017年度)によると、全業種の中で「宿泊業・飲食サービス業」が開業率と廃業率ともに一番高いことが判明している。

「開業率と廃業率が共に高い」ということは、比較的開業しやすいものの、廃業してしまうリスクも高い業界であると判断される。中小企業庁のデータからも、飲食店の経営は難しいといえる。

参考:開廃業の状況 - 中小企業庁

飲食店の経営が難しい8つの理由

なぜ飲食店の経営は他の業種と比べて難しいのだろうか?飲食店経営が難しいとされる背景には、主に以下の8つの理由がある。

1.競争相手が圧倒的に多い

飲食店の経営を難しくしている大きな理由の一つに、競争相手の多さが挙げられる。飲食店の経営は、最低限の営業許可や資格さえあれば誰でも簡単に始めることが可能だ。

そのため、開廃業のデータに記載されていたように、開業率が高いため日々多くの飲食店が誕生している。市場が成長しており、顧客が増加しない限り競争相手が増えれば増えるほど、少ない顧客を多くのライバルの間で取り合う状態となってしまい、収益を獲得することが難しくなる。

また、競合となる飲食店に勝つために、安く価格でサービスを提供する飲食店も増加し、結果的に価格競争に巻き込まれて手元に残る利益の割合も少なくなる。

収益獲得が困難となった上に、利益率も低下していることで飲食店経営は以前にも増して難しくなっているわけだ。

2.市場が衰退しつつある

競争相手の増加に追い討ちをかけているのが、外食市場の衰退だ。

株式会社三井住友銀行が2017年6月に公表した「外食業界の現況と今後の方向性」によると、外食業界は2000年代に突入して以降、不景気による節約志向の高まりやコンビニエンスストアなどの中食市場の拡大などの影響により衰退の一途をたどっている。

衰退要因があるだけでなく、外食の市場はすでに日本全国に広がっていることも考慮すると、再び市場が拡大する(=顧客が増える)可能性は低いだろう。つまり市場の衰退によって顧客数が減少することで、飲食店経営はますます難しくなっているわけだ。

参考:外食業界の現況と今後の方向性 三井住友銀行

3.多額の初期費用がかかる

飲食店の経営を始めるには、店舗の購入費や保証料、調理器具の購入代金、内装費、ホームページの作成費など、さまざまな初期費用がかる。すべての費用を合計すると安くても600万~1,000万円ほどかかるため、資金不足で飲食店経営に着手できないケースは少なくない。

4.人件費や材料費など、毎月多額の費用がかかる(利益率が低い)

飲食店の経営では、初期費用のみならず、毎月多額の費用がかかるので注意が必要だ。具体的に飲食店の経営では、従業員を雇用することでかかる人件費や、料理の材料を仕入れることで発生する材料費などが生じる。

特に厄介なのは、人件費や材料費が売り上げとは無関係に発生する固定費である点だ。収益が少なくても一定の費用がかかるため、売り上げが予測を下回るとすぐに赤字経営に転落するリスクがあり、注意が必要である。

5.気候や流行などによって売り上げが変動しやすい

毎月の固定費の問題もあるため、売り上げの減少には特に注意が必要ではあるが、残念ながら飲食店の売り上げは気候や流行などによって変動しやすい。

例えば、暑い時期は温かい食べ物の売り上げは減少しやすいだろう。また、テレビ番組やSNSなどで取り上げられた料理は、爆発的に流行して売れるようになるが、流動が落ち着くと売り上げも下がって可能性が高い

このように、飲食店の経営には突発的に売り上げの増減が発生しやすく、売り上げの予測がつきにくいことがある。そのため、材料の仕入れ過ぎによって費用を無駄にかけてしまい、資金繰りが狂うリスクもある。

6.人手が不足しやすい

某居酒屋チェーンで過労死が大きな問題となったこともあり、飲食店での労働に対して「大変でキツい」というイメージを持つ人も少なからず存在する。

飲食業は、人手不足を表す「欠員率」が全産業に比べて高い。人材確保の難しさに加えて、従業員の転居や出産・育児などによる突然の退職もあり、飲食店では人手が不足しやすい傾向だ。人手不足によって従業員の負荷はさらに増え、新たな退職につながるという悪循環もある。

飲食店で収益を得るには、調理や接客などを担う人材が不可欠であり、一人欠けると経営が立ち行かなくなることもある。人手不足が慢性化し、やむを得ずに廃業する飲食店も少なくないので注意が必要だ。

7.味だけではお客が集まらない(立地やメニュー、コンセプトなども重視される)

飲食店の経営では、味にこだわったとしても顧客が集まるとは限らないという難しさがある。例えば、どれほど味が美味しいと評判であっても、立地が非常に悪ければ大繁盛に至らないこともあり得る。

また、お洒落な客層が多く集まるような場所で、かなり古びた見た目の飲食店が流行するとは考えにくいだろう。味が良いのはもちろん重要な要素だが、立地やメニューに加えて、お店のコンセプトも重視して顧客ニーズとマッチすることで飲食店の経営は成功するのだ。

8.あまり考えずに飲食店経営を始めてしまう(計画が甘い)

飲食店経営を難しくする要素は多様に存在するため、経営戦略を練って一つ一つの課題に徹底して対処することが必要だ。しかし、飲食店経営は開業のしやすさもあって、あまり深く考えずに経営を始めてしまうことがある。

提供する料理のことだけでなく、資金繰りはもちろん従業員の確保や教育、立地や店舗コンセプトなど、事前に事業計画ができていなければ、開業後に経営自体に関わるリスクと直面することになる。

飲食店経営の事前計画の甘さも、飲食店の経営を難しくしている要因の一つとなっているわけだ。

難しい飲食店の経営で失敗しないための6つのノウハウ

「飲食店の経営は難しいから他の業種で起業する」と割り切れるならば問題ない。しかし、「どうしても飲食店で経営したい」「すでに飲食店の経営を始めている」といった人もいるだろう。ここでは、難しい飲食店経営で失敗しないために知っておくべき6つのノウハウを解説する。

1.ターゲットとなる顧客像を明確にする

飲食店経営に限った話ではないが、ビジネスで失敗しないためにはターゲットとなる顧客像を明確に定めなくてはいけない。顧客のターゲットを定めずに漫然と料理を提供しているだけでは、特徴がなく魅力を感じられない飲食店となってしまい、顧客を引きつけることはできない。

年齢や性別、年収のみならずライフスタイルや趣味嗜好といった定性的な要素も加味した上で、本当に実在するかのように顧客像を設定することが重要である。

2.ターゲット顧客に来てもらいやすい立地の良い場所に飲食店を構える

飲食店経営では、何といっても立地が重要である。どれほど緻密にターゲット顧客を設定しても、顧客が訪れにくく住民が少ないような場所に飲食店を構えては、十分な収益は得ることは難しい。

ターゲット顧客を決定すると同時に、顧客が手軽に訪れることができる好立地に店舗を構えて、はじめて失敗を回避する最低条件がそろったといえる。

3.ターゲット顧客のニーズに合うメニュー開発に力を入れる

飲食店経営において店舗の立地と同じくらい重要となるのがメニュー開発である。メニュー開発にあたっては、単に味が良ければ売れるわけではない点に注意しなくてはいけない。

例えば、SNSで映えるような、盛り付けの見た目がいい料理を求める客層ならば、盛り付けに色取りなどのアクセントを加える必要もあるだろう。

飲食店がターゲットとしている顧客によって、好みの味や料理のジャンルは異なるため、顧客ニーズに応じたメニュー開発が重要である。ターゲット顧客のニーズに合うように、料理の種類や味、価格、見た目などを考えることで安定的に飲食店経営で利益を得られる可能性が高まるだろう。

4.なるべく初期費用を抑える

飲食店経営をはじめる際には、なるべく初期費用を抑えることも失敗するリスクを減らす上で重要である。

開業に必要な初期費用をかけすぎると、借り入れの返済や利息の支払いで資金繰りが苦しくなり、飲食店経営が立ち行かなくなる可能性も高まる。

店舗設計や広告費の無駄を省くなど、初期費用を抑えることで借り入れの額を減らすことができるため、資金繰りが悪化するリスクを減らせる。

また、初期費用をかけない分だけ手元に資金を残せるため、その分を運転資金に回すことが可能だ。初期費用を抑える具体策としては、居抜き物件を利用したり、内装工事の費用を値下げ交渉するといった方法がある。

5.「FL比率」を用いた経営管理を徹底する

飲食店を開店した後は、FL比率を用いて徹底的に経営管理を行うことが重要だ。FL比率とは、売上高に占めるFLコスト(食材費+人件費)の割合である。

FL比率は、売り上げを得るのにどのくらい費用がかかっているかを表す指標であり、この割合が低いほど、効率的な経営ができていることとなる。一般的には、FL比率が50%未満だと無駄のない経営ができていると判断でき、60%以上だと費用を無駄にかけすぎていると判断される。

飲食店経営で失敗しないためには、FL比率が最低でも55%を切るように常に意識することが求められる。

6.開店後の集客(販売促進)にも力を入れる

飲食店経営では、継続的な集客が重要である。ターゲット顧客に飲食店の存在を認知されなければ、どれほどニーズに合うメニューを提供できても意味がない。

飲食店を開店したら、店舗を認知してもらうために積極的に集客や販売促進の活動を行う必要がある。具体的には、SNSやFacebook、ブログで情報発信したり、地域のTV番組や情報誌などで宣伝してもらう方法が効果的だ。

飲食店経営は緻密な戦略を

飲食店の経営は市場の衰退などの理由により難しいのが現状である。したがって、実際に飲食店経営を行うにあたっては、ターゲット選定やメニュー開発、集客活動などを戦略的に行うことが非常に重要だ。(提供:THE OWNER

文 ・鈴木 裕太(中小企業診断士)