「失業はしていないけれど1日も働いていない人」が増えている

失業
(画像=PIXTA)

要旨

● 3月の完全失業率は2.5%。悪化は軽微にとどまっているようにも見えるが、仕事を持ちながら仕事をしなかった人(休業者)の数が増えている。この中には経済活動の縮小に伴って休業を余儀なくされている「失業予備軍」の人が含まれていると考えられる。また、法定された休業給付の最低ラインは賃金の6割。従来通りの賃金を得られていない人も多いと考えられ、家計の所得環境は悪化していると推察される。

● 休業者は20・30代女性や60代、学生の多い18-22歳で増えている。20・30代女性は出産・育児のための休業者が多いが、今回の新型コロナの感染拡大を受けて育児休業の延長を選択する人が増えたことが影響したとみられる。育児休業給付の支給率は賃金の原則5割であり、コロナがなければ職場復帰して得られていたはずの所得が得られなくなっている可能性が高い。

● 働いている人の平均就業時間は2月に急減した後、3月に反動もあって増加したが依然低水準。店舗閉鎖などの経済活動縮小が影響しているとみられる。レイオフが日常的に行われるアメリカでは、経済活動の悪化がすぐに失業者数に表れる一方、日本は雇用維持を重視する傾向があるため、失業者数は即座に増えにくい。しかし、それをもって労働市場や家計の所得環境への影響が小さいと断じるのは早計だ。労働時間や休業者の動向も併せて確認していくことが必要だ。

失業率に現れない労働環境、家計環境の悪化

総務省が公表した3月の労働力調査によれば、完全失業率は2.5%と2月から+0.1pt上昇した。就業者数が減少(同▲11万人)、完全失業者数が増加(+6万人)しており、経済活動悪化の影響が労働市場にじわりと悪影響を及ぼしている姿が見えてくる。ただ、完全失業率2.5%という数字自体は2018~2019年にも記録されていたレベルであり、決して悪い水準ではない。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って大規模な経済縮小が起こったことに鑑みれば、むしろ踏みとどまっているという見方もできそうだ。しかし、失業率の外側の数字に目を移すと、新型コロナの影響が労働市場により広範な影響を及ぼしていることを指摘したい。

着目したのは休業者の動向だ。休業者数は就業者数の内数であり、「仕事を持ちながら調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、給料・賃金の支払いを受けている者、又は受けることになっている者」(雇用者の場合)を指す。就業者数の内数であるため、これまで働いていた人が休業しても失業にはカウントされないため、失業率にも影響は及ばない。しかし、その中には経済活動の縮小に伴って休業を余儀なくされている「失業予備軍」に当たる人も含まれていると考えられる。

また、休業者の中には、有給休暇や会社の特別休暇の取得等を通じて従来通りの賃金を得ている人以外に、「休業手当」が支給されている人もいるだろう。休業手当の最低ラインは平均賃金の6割だ(労働基準法で定められている)。休業者の中には、従来よりも賃金が大きく減っている人が含まれている可能性が高い(※1)。家計の所得環境は悪化していると考えるのが自然だ。

経済環境悪化を過小評価する失業率
(画像=第一生命経済研究所)

3月の休業者数は249万人で2月の196万人から+53万人増加していた。3月に増えやすい季節性がみられたため季節調整を施したが、これを見ても2・3月に休業者数がまとまった幅で増加していることがわかる(資料2)

これを含めて労働力人口に対する割合を見たものが資料3である。公表値の完全失業率(失業者数/労働力人口)は2月に+0.03pt、3月に+0.09pt と、その上昇は限られたものとなっている。しかし、休業者を分子に含めた値((失業者数+休業者数)/労働力人口)は、2月に+0.12pt、3月に+0.19pt 上昇、上昇傾向がより鮮明になる。

経済環境悪化を過小評価する失業率
(画像=第一生命経済研究所)

20・30代女性や60代以上の休業が増加している

休業者数の動向を年齢階層別に季節調整をかけてプロットしたものが資料4だ。22~39歳、60歳以上のほか、18~21歳の階層でそれぞれ休業者数が増加していることがわかる。22~39歳については、出産・育児のために休業する人が多い。2020年2・3月とそこからさらに増加しているのも女性が中心であり、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、育児休業の延長を行う人が増えていることなどが影響しているものと考えられる。60歳以上は3月に急増。定年後に非正規雇用で働く人が多い点、感染による重症化リスクが高い年代であることが背景にあると考えられる。また、学生の多い18~21歳の休業者数も増加している。コロナショックの打撃は宿泊・飲食サービスなど学生アルバイトの多い業種に集中しており、休業者数が増えていると推察される。

先に述べたように休業者は働いてはいないものの、所得を得ている点は失業者と異なるところだ。しかし、その中には将来的に失業者になるリスクが高い人も含まれていると考えられる。加えて、休業手当の場合には、従来よりも得られる所得は減るケースも多いだろう。また、育児休業給付の支給率は賃金の原則50%である(※2)。本来であれば職務に復帰して得られたであろう所得が得られなくなっている可能性が高い。保育園は4月入園者が多い点を踏まえると、こうした境遇に置かれている人は4月にさらに増えていると考えられる。

なお、従業者(働いている人)の平均労働時間は2月に急減し、3月は反動もあって増加したが、依然低水準にとどまっている(※3)(資料5)。これも営業時間の短縮や店舗の閉鎖などによるものと考えられ、失業者数には表れない経済活動の縮小を映じている。レイオフが日常的に行われるアメリカでは、経済活動の悪化が即座に失業者数として表れる一方、日本は雇用維持を重視する傾向があるため、失業者数は即座に増えにくい。しかし、それをもって労働市場や家計の所得環境への影響が小さいと断じるのは早計だ。労働時間や休業者の動向も併せて確認していくことが必要であろう。(提供:第一生命経済研究所

経済環境悪化を過小評価する失業率
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) 政府は緊急経済対策において、この休業手当を事業者が支払う際に支給される雇用調整助成金の助成率を引き上げている。この助成率はあくまで「休業手当」の額に対する助成率であり、「従来の賃金」に対する助成率ではない。

(※2) 育児休業開始から180日目まで67%、それ以降は50%。育児休業は原則子どもの1歳到達日まで、理由があれば最大2歳到達日まで延長可、給付が得られる。現時点で新型コロナによって育休給付がゼロになる(育休期間が子どもの 2歳到達日を超える)人も稀ながらいるとみられ、事態が長期化すればこうしたケースも増える可能性がある。

(※3) 従業者の平均。よって前月に就業時間が少ない人が休業者になった場合には平均就業時間の押上要因になる。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也