現在、所有者不明の土地の増加が社会問題になっており、国はこれを解決すべく急ピッチで法律の整備を進めています。その中の1つが、令和2年度の税制改正に盛り込まれた「所有者不明の土地の固定資産税の課税」です。そこで今回は、課税される時期やその概要を解説します。

2040年までに国土の2割が所有者不明の土地になる

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(画像=yoshi0511/Shutterstock.com)

所有者不明の土地とは、不動産登記簿などを確認しても所有者がわからない、または所有者と連絡がつかない土地のことです。このような土地が、2016年の段階で九州の面積を超える410万ヘクタールもありました。

さらに、増田寛也元総務相が座長を務める「所有者不明土地問題研究会」では、2040年までに北海道の面積に近い720万ヘクタールが所有者不明の土地になると推計しています。これは、国土の約2割にあたる面積です。

所有者不明の土地が増加している最大の原因は、「相続時に不動産登記簿の名義変更を行わないこと」と言われています。そもそも、相続時の不動産の名義変更は義務ではありません。名義変更には手間と費用がかかり、さらに固定資産税も納めなければならないため放置されやすく、所有者不明の土地が増え続けているのです。

所有者不明の土地の増加による3つの問題点

所有者不明の土地が増加することによる問題について、この分野に詳しい横浜国立大学大学院・岩崎政明教授は税務大学校の公開講座で以下の3点を挙げています。

  1. 放棄地になりやすく、周囲に不利益を及ぼしやすい
  2. 公共利用や経済政策を行う際の大きな障害になりやすい
  3. 固定資産税や相続税の公平性に反する

「放棄地になりやすい」は、放棄地に草が生い茂ったりゴミ捨て場になったりすることで、周辺環境や衛生状態が悪化するという意味です。また放棄地は暗がりになりやすく、治安悪化も懸念されます。

「公共利用や経済政策を行う際の障害」については、令和元年(2019年)6月1日に全面施行された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」によって解消されつつあります。この法律によって、公共事業などに反対する権利者がおらず、実際に利用されていない土地については、国や都道府県の管理のもとに利用や収用ができるようになりました。

登記変更をしていない土地の固定資産税の課税時期と調査方法

「固定資産税や相続税の公平性に反する」については、令和2年度の税制改正大綱で提起された「所有者不明の土地の固定資産税の課税」によって解消されると見込まれています。これによって、「不動産登記簿を変更しなければ固定資産税を免れられる」といった考え方は通用しなくなるでしょう。

この法律は、各市町村が調査を行っても土地の所有者が明らかにならない場合、事実上所有している人や使っている人に固定資産税を課すことができるというものです。ちなみに各市町村の調査方法として、税制大綱では以下の3つを例示しています。

  • 住民基本台帳の調査
  • 戸籍簿の調査
  • 使用者と思われる本人または関係者のヒアリングなど

なお、この税制は「令和3年度以降の年度分の固定資産税について適用される」とされています。不動産登記簿を変更することで、土地の売却などが容易になり、相続時のトラブルを防ぎやすくなります。まだ変更していない場合は、これを機に変更することをおすすめします。

このように、国は次々に所有者不明の土地に対する対策を打ち出しています。これに伴って、国土交通省・法務省・関係省庁などが連携して、所有者不明の土地の発生を抑制する対策も検討されているようです。健全な不動産市場が維持されるためにも、所有者不明の土地がコントロールされることを期待したいところです。(提供:ビルオーナーズアイ


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