新型コロナウイルス感染拡大による経済への打撃が止まらない。業績悪化の懸念が急速に高まるなか、一部の企業では4月に予定していた新入社員を雇用することができず、「内定取り消し」という事態が起こっている。
一方で、そんな「内定取り消し」となった学生を対象に追加採用を発表する企業も続々と出ている。各企業の採用動向に注目が集まるなか、経営者がどのように採用と経営を両立していくべきか、事例と最新動向をもとに検討したい。
相次ぐ「内定取り消し」
新年度が始まり、多くの新入社員が社会人の第一歩を踏み出した春がやってきた。しかしその陰で、新型コロナウイルスによる影響を理由に、企業から採用内定を取り消された学生がいる。
時事通信社によると、内定取り消しを出した企業には、ウエディング会社や携帯電話の販売代理店などがあるという。いずれも採用担当者から突然告げられ、学生は企業への不満や疑念が拭えない様子である。なかには「感染被害削減」を理由にされたことに対して、業績悪化による採用中止の口実ではないかと不信感を募らせる学生もいるという。
一方で、先の見えない業績悪化で「仕事がなく、新卒を雇いたくても雇えない」「企業努力ではどうにもできない」と企業から切実な声が聞こえてくるのも事実だ。
内定取り消しを受けた学生を救済する企業や自治体が登場
こうしたなか、人手不足とされる業界では「優秀な人材確保のチャンス」ととらえ、内定取り消しをされた新卒者向けに緊急採用による支援を実施する企業や自治体が出てきている。以下では主に大手企業の事例を紹介するが、中小企業でも次回採用を数ヵ月遅らせたり、採用人数を大幅に減らしたりして、業績悪化のなかでも自社のできる限りの採用対策を実施している印象だ。
神戸市で任期付き職員を緊急採用
神戸市では、内定を取り消された新卒者向けに緊急雇用対策を実施する。会計年度任用職員(特定事務)を採用する見込みだ。任用は令和3年3月31日までで、採用予定の上限人数は100名となっている。自治体のなかでも先駆けとなるような取り組みである。
スーパー大手「ライフ」が緊急採用を実施
スーパーマーケットを展開するライフコーポレーションでは、内定を取り消された学生を対象に特別採用枠を設け、3月に急遽求人募集を実施した。応募は電話で受け付け、緊急採用でありながら「総合職」での募集である点も学生にとって安心材料となっている。
「モスバーガー」内定取り消しの学生向けに選考を実施
「モスバーガー」を展開するモスフードサービスでは、内定取り消しを受けた新卒者向けに緊急採用選考を実施する予定だ。4月上旬から選考を行い、就労は5月中旬以降となる。現在厳しいと言われる飲食業界でも、外出自粛の影響で、テイクアウト商品や宅配品は需要が伸びており、柔軟にニーズを汲む経営手腕が試されている。
「カラダノート」行動力ある学生を評価して緊急採用を実施
子育て層向けのアプリを企画・開発するカラダノートでは、内定取り消しにより就職活動を行う学生を「ピンチを乗り越え、就職活動に取り組む人は行動力がある」とプラスに評価している。大きな不安を抱える学生たちの一助になりたいとの思いから、該当する学生に対し総合職の募集を行うという。
「松屋フーズ」業容拡大の人材確保を
4月、外出自粛要請などを踏まえて一部店舗の深夜時間帯閉店を発表した「松屋フーズ」だが、3月時点で「内定取り消し」となった学生を対象に、営業総合職10人程度の採用選考を行うと発表している。同広報は業容拡大にあたり「1人でも多く人材を確保したい」としている。
「ノジマ」上限設けず特別枠で採用
家電量販店の「ノジマ」は3月、内定取り消しなどの事情で2020年春の入社ができなかった人を対象に4月1日入社で特別採用を迅速に実施した。同社よると、採用人数に上限は設けず、「未曽有の状況下で新卒としての就職が断たれてしまうことは将来の日本経済の損失だ」と伝えている。
Web説明会や動画面接などに注目が集まる
さて、今回の騒動で変わりつつある採用動向にも注目しよう。ウイルス対策が後押しとなり、採用のオンライン化が急速に進んでいる。これまでWeb面接などに懸念を持つ人事も多かったが、今や積極的にWeb面接やWeb説明会を実施する企業が急増中だ。
Web面接のメリットは、効率よくスピード感をもって選考を進められる点である。距離や時間、場所などの制約がなくなることで、大規模な会社説明会などは圧倒的な工数削減が叶う。学生側も効率的に就職活動を行うことができ、双方にとって地方格差も解決できる。
将来的にはエントリーシートや履歴書もオンライン完結が一般的となる可能性も十分あるだろう。
オンライン人材採用の課題とコツ
一方で、Web面接は通信トラブルにより中断したり、通信環境に依存し、相手の表情や反応が読みとりにくく、うまくコミュニケーションが取れないという状況がうまれたりする懸念がある。特に、オンライン面接では、実際に会う面接のように「所作で判断する」ということが難しい。
これを解決する手法として、「アイスブレイク」がおすすめだ。「アイスブレイク」とは緊張を解きほぐすような気軽な会話のこと。これを、実際の面接以上に意識的に取り入れることによって、人柄やコミュニケーション力を見ることができる。
制度融資を活用し、新たなアイデアで雇用を生み出す
本来、業績悪化による内定取り消しは認められないため、休業手当などで補償することが理想だ。しかし、それが企業努力ではどうにもできないほど深刻な状況にある場合、金融機関や自治体の制度融資・支援を活用するのもひとつである。
急な内定取り消しは、企業としての信頼を一瞬で失いかねない。ましてや現代はSNS時代であり、どんな情報も一瞬で拡散する。今は投資と思って、そのフレッシュな人材を雇用し、新たな事業アイデアで柔軟に需要を掴めれば、悲しい思いをした学生たちの救世主になれるかもしれない。
未曾有の状況だが、新卒採用を実施する以上、少しでも就活生の不安を軽減させる工夫が企業には求められる。判断力と実行力が経営手腕として試される今、臨機応変に「仕事」をつくりだし、人材なくして企業の持続なしと信じたい。(提供:THE OWNER)
文・木村茉衣