政府は、当初5月6日までとしていた緊急事態宣言をさらに約1か月間延長する見通しである。その実質GDPに対する損失を計算すると、▲45.0兆円になる見通しだ。これまでの5月6日までの緊急事態宣言の下では▲21.9兆円の経済損失の見通しだったから、それがさらに▲23.1兆円ほど増えるという計算になる。政府は、そうした決定に対して、追加的な経済対策などを講じると予想される。

自粛
(画像=PIXTA)

5月末まで全国の緊急事態宣言が延長されるとどうなるか

政府の緊急事態宣言は、5月6日の期限を約1か月間ほど延長する公算が高まっている。5月4日頃に、5月末までか、6月6日までにするかが決まってくるだろう。それに伴う店舗休業や外出自粛の延長は、経済活動には甚大な打撃を与える。

今回のコロナ危機は、2020年1月23日の中国武漢市の封鎖に始まった。東京都では、3月28・29日にはじめての週末自粛を実施。4月7日には緊急事態宣言が発令されて、7都府県(全国のGDPの48%)が自粛を開始した。その後、4月16日には緊急事態宣言が全国に広がる。現在(4月末)は、非常に厳しい外出自粛が行われ、人と人との接触を極力8割削減する努力が行われている。

こうした経済活動にも抑制圧力になる対応は、5月6日まで継続される前提で、実質GDPを▲21.9兆円ほど押し下げることになると試算される。仮に、その期限が5月6日から5月31日まで25日間延長されれば、実質GDPはさらに▲23.1兆円押し下げられることになるだろう。累計では、▲45.0兆円、対実質GDP比では▲8.4%もの押し下げ幅になることが予想される。

(参考)

4月8日から5月6日までの29日間では、平日は17日。今後、5月7日から31日まで緊急事態宣言が延長されると、25日間になる(平日17日)。筆者は、平日・土曜日の労働投入量が、日曜日並みに減少すると仮定して、経済損失が膨らむと計算した。平日と日曜日を比べると労働投入量は▲65%減少する。つまり、平日17日間の供給能力は約1/3ほど削減されるとみる。経済損失はその前提で計算した。

今後の焦点

これからの経済活動に対するインパクトを考える上で、2つの焦点があると思う。ひとつは、5月7日以降に各自治体がどのくらいの範囲で事業者に休業要請を行うかという点である。もうひとつは、休業延長に伴って、休業補償・家賃援助がどう仕切り直しになっていくかという点である。経済活動に対しては、自治体の休業要請の範囲は、5月7日以降はより狭くなっている方がよい。補償・援助については多く支給された方が事業者の痛みを小さく抑えられる。この2つは、経済損失を抑えるためのポイントにもなっている。

5月6日までの緊急事態宣言の下では、前述のように▲21.1兆円の経済損失が見込まれている。政府は、それに対しては事業規模117兆円、追加的財政支出増は28.0兆円(国・地方)の対策を決めている。今後、緊急事態宣言が5月7日以降まで延長されると、別途、経済対策が検討されることになるだろう。具体的には、持続化給付金の上積みなどが予想される。筆者は、危機時の財政出動には賛成であるが、ここまで規模が膨らんでくると、将来その財源をどう工面していくのかも考えていく必要があると思う。また、コロナ危機が落ち着いてくると、コロナ復興のための復興基金の創設も十分にあり得るとみている。復興基金の財源も、経済対策の財源とともに重要になってくるだろう。

経済はどこまで耐えられるか

約1か月の緊急事態宣言の延長であるが、経済へのストレスは5月6日までの1か月と、その先の1か月では大きく異なるとみている。例えば、息を止めて水中に潜ったとき、最初の30秒間と後半の30秒間では苦しさは当然ながら違ってくるからだ。休業した飲食店では、2か月分の人件費・家賃の支払いは厳しくなってくるところもあるに違いない。人件費・家賃といった固定費負担は、自粛が長引くほどに経営存続を脅かしていく。自治体は、地域ごとにきめ細かく休業要請の範囲を再検討した方がよいと思う。

政府が検討すべきことには、感染阻止と経済活動の両立という課題もある。テレワークは、その両立を目指すものとして、今回は広く普及した。緊急事態宣言は、感染阻止のために医療の見地から決定されたのだと思う。しかし、それは仕方がないことであっても、経済活動には大きな負担を強いるものである。感染阻止と経済活動は、そもそも二律背反の関係であるが、どうにかその両立を目指せないかと思う。

さらに、企業支援の枠組みも、もう一度吟味する必要がある。雇用調整助成金は、見直しを行ったが、その申請を諦める企業が多いとされる。雇用調整助成金は、企業が破綻してしまっては雇用悪化を止められないので、今後はその効果に限界も表れてくるだろう。筆者は、むしろ企業向けの資金繰り支援を強化するのがよいとみている。政府は、民間金融機関が保証付きを条件に実質無利子化する助成を始めようとしている。これは評価できる仕組みである。様々な政策支援を工夫しながら模索することは非常に重要である。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生