米国でフィンテックベンチャーが、老舗ネット銀行を買収するニュースが発表され、話題となっています。この数年、注目を集めていたフィンテック業界は、新たなフェーズを迎えているようです。米国における、2020年フィンテック業界のトレンドとビジネスの動向を見てみます。

フィンテックベンチャーが老舗オンラインバンクを買収

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(画像=TATSIANAMA/Shutterstock.com)

米国のオンライン融資仲介サービス大手のLending Club(レンディングクラブ)が、2020年2月18日に米国ボストンに拠点を置くオンラインバンクRadius Bank(ラディウス)の買収を公表しました。「ベンチャーが銀行を買収する」というあまり目にしないニュースです。

買収額は1億8,500万ドル(日本円で約200億円)。実際に、米国におけるフィンテック企業がFDIC(米国連邦預金保険公社)の管理下にある老舗の銀行を買収した事例はこれまでありません。

M&A市場では、フィンテックが話題になって数年が経過しています。今回の事例となった米国のオンライン融資仲介サービス大手のレンディングクラブは、フィンテック企業が注目するリーダー的な存在であるため、動向を見逃せないでしょう。2019年は123億ドルの融資仲介を成立させています。

一方の傘下となる銀行業ラディウスは、創業32年の老舗ネット銀行です。今回の事例では、総資産額14億ドルのオンラインバンクが大手ベンチャーに買収された形になります。

BtoC、BtoBと銀行の職域すべてにフィンテックサービスが浸透

オンラインテクノロジーの進化により、BtoC、BtoBを問わず、銀行にまつわるすべての職域にフィンテックサービスが浸透してきました。フィンテックが浸透していく背景には、ビッグデータやAI、ブロックチェーンなど、最新のオンラインテクノロジーの進化があります。

レンディングクラブの事例からも、今後フィンテック企業が銀行を傘下に持つといった事例は増えるでしょう。その理由は、フィンテックと銀行が提携することにより、幅広い顧客とのタッチポイントが見込めるからです。フィンテック企業にとっては銀行が持つ巨大な顧客基盤が手に入り、銀行にとってはフィンテック企業が持つ斬新なサービスやアイデアにより、顧客満足度を積極的に高める施策を打つことができます。

今後、フィンテックサービスが浸透することにより、既存および新規の顧客を対象に、銀行口座を活用した付加サービスも増えてくるでしょう。米国の労働者の35%を占めると言われるミレニアル世代の消費動向がモバイル決済中心であり、フィンテックの浸透に追い風となっているからです。消費額の伸びが大きい市場にフィンテックサービスが参入するのは自然な流れと言えます。

フィンテックと銀行、それぞれの今後の動向

フィンテックを取り巻く最新状況から今後の展望を見ていきましょう。フィンテックでは、個人間ローンの市場拡大や、付加価値の高い銀行口座、クレジットカードの発行も絡めたサービスが登場しています。今後は、より広範囲なサービスを提供できる企業が業績を伸ばしていくと考えられます。

そして、フィンテック企業がいままで蓄積・向上してきた膨大なデータベースから、精度の高い、信用リスク審査の実現を目指すでしょう。さらに、今回の買収事例のように、銀行を傘下に収めることで、融資の原資調達を容易にすることもできます。

また、消費者のモバイルニーズが高まる現状を見据えて、BaaS (Backend as a Service)への進出を目指すフィンテックも増えてくるでしょう。レンディングクラブの場合、銀行機能プラットフォームをAPIで経由し、他の銀行企業やSaaS企業と連携することが考えられます。

一方の銀行ですが、今後は、テクノロジーの発達によって銀行が単独で存続していくことが難しくなってきます。そのため、フィンテックに積極的に取り組むようになることは確実です。

米リテール銀行大手のウェルズ・ファーゴの取り組みからも、テクノロジーを活用したオンラインサービスを重視する傾向がわかります。モバイル認証やペーパーレス店舗展開、ブロックチェーンなどを活用したサービスが台頭してきているからです。

事業規制の事例として、米国のM&Aや事業継承に大きく影響する

今回のレンディングクラブにおける銀行業の買収結果は、米国でのM&Aや事業継承の展望に、大きな転機となります。今後の買収後の米国当局の動きに注目しましょう。米国では銀行を傘下に持つ親会社になると、銀行規制の対象になるリスクを抱えます。当局がどのように調整してくるのか、関心が集まります。

フィンテックの世界が次のフェーズを迎えようとしています。銀行など既存ビジネスの基幹産業や組織が、存続のために自らのコアビジネスをフィンテックによって革新しようとしています。2020年はそうした動きが本格化する最初の年になるのかもしれません。(提供:JPRIME


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